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弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


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隠密達のささやかな秘密

 ミカヌレは悲惨だと思っていた、色恋専任(ハニートラップ)の隠密達は、実は彼女が思っていた程悲惨ではなかった。




 いや、考え方により差異はあるものの、生き残った彼女達はメンタルが強かった(ここでは女性限定で話を進めます)。



 貴族のような勉強は不足していても、相手を操る技に長けていた為、媚薬・睡眠薬・幻覚剤・痺れ薬・避妊薬・堕胎薬の他、毒薬・傷薬・解熱剤・潤滑剤などの知識が豊富だった。



 試せる物は自ら内服し効果を試している分、下手な薬師よりも調薬が早く効果を確認できた。幻覚剤などはターゲットの酒に混ぜて使用し、酩酊状態な時に耳元で睦言を優しく囁けば、性的な行為がないまま、(脳内では抱き合っているので)満足させる術も持っていた。



 評判の良くない貴族に嫁いでも娼館に売られても、避けられない事態はあるにせよ、薬剤の知識や話術をフル活用し、強かに生きることはできていた。

 娼館ならば、売られた金銭分を返済できれば、自由にもなれた。


 監視役の隠密が時おり様子を確認しに娼館に寄ることもあったが、女性達も愚かではないので、ミズーレン伯爵達の秘密を漏らすようなことはなかった。

 漏らせば消されてしまうのは、周知の事実だから。 


 監視役の者だとて彼女達を憐れに思っている為、それほど厳密に報告することもないが。

 例えば、「◯◯領の伯爵は、毛が薄くてとんだケチンボらしいわ。金はあってもあれじゃあ、モテないって噂よ♪ 貴方の方がずっと素敵♡」とか、客に言っても(監視役的には)スルーだ。まあこれは、秘密じゃなくてただの的確な悪口だけど。



 貴族家に嫁いだ女性も適当に旦那を煽て、心と体で満足させているらしく、案外と夫婦仲は良いのだとか。


 伊達に場数を踏んでないせいだろう。



 そして器量が今一(年齢的に見劣りした)と判断され、隠密の所に残された女性達も、家事の多くを担当しみんなと世間話をしたりして役割を熟なしていた。

 何より年上であるから、おおらかで性的なことは熟練している。手を握るだけで満足する者もいるし、話を聞いて貰うだけで良い者もいる。性的な行為も勿論あるが、気心が知れている分、無体をする者もあまりいない。



 そして40歳を越えれば、隠密達の代表者が死亡届けをミズーレン伯爵に提出して、出奔を許すことにしていた。


 そもそも上の者は、人の管理を厳密にはしていない。引退後の色恋専任の隠密など、気にも留めていないのだ。



 これはいつから決まったかも知らない、隠密達のルールだ。老人になっても居られると邪魔だとされ、追い出されることになったとも、引退後も家事を頑張ってくれた恩のようなものとも言われている。


 それを知るのも一部の隠密達だけで、ひっそりと行われている抜け道なのだ。



 そこを出た女性達は薬の知識を生かし、変装して隣国、隣々国の薬師ギルドで働いている。


 普通の隠密達もある程度の年齢になると数人が、任務中の死亡と届けを出され逃がされている。生き延びたご褒美になるだろう。


 ただそれは秘匿扱いで、みんなのことを思ってくれた者のみが与えられる恩恵だ。仲間、特に自分より弱者を意味なく虐げたり、金を巻き上げるような者は、このことを知らされない。



 隠密にも少ないながら、仕事の報酬や準備金が与えられる。それを奪う者や敵に寝返る者は粛清が待っている。


 生き延びることが稀な中で生まれた、ささやかな決まり。若いミカヌレ世代には、知らされていない事実だった。

 



 同じ隠密でも敵味方が入り交じっている。そんな場所でウォンディーヌ、ヴィーンズ、ミカヌレ、その他の隠密達も、苦しみながら懸命に生きていた。



 ウォンディーヌはミカヌレを大切に思いながら、幸せを託して先に逝った。

 ヴィーンズは、心の傷を抱えたまま生きている。

 ミカヌレも足掻きながら、幸せを掴もうとしていた。




 スタートが最悪でも、生きようとしなければ死ぬだけだ。


 いつか終わる命。

 けれどウォンディーヌは、満足して生を終えた。転生しても、辛い記憶を思い出すことはないだろう。


 今度は、平穏なスタートを約束された彼女。

 けれど幸福になるかは、どう生きるかにかかっている。必ず幸福になれる道など、ありはしないのだから。








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