ブルーベルとサイダー夫妻
スライストの懸念していた、チェロスト子爵家のサイダー夫妻とは話し合い、当主の補佐は外れて貰っていた。
元々当主はクリムであり、役職にも就いていない彼らに責任はない筈なのだ。
ただ彼らの臨時権限で『男爵家の会計士、ライス』を雇い入れて貰った。スライストはチェロスト子爵家の会計などを担当し、税金その他の仕切りを行うことになった。
クリム一家がいない今、領地収入は良好であり、不作や増水被害などもスライストの知識で対応し熟しているので、何も問題がない。
領地で収穫した農作物や乳製品、肉類をサイダー夫妻の商会に売却し、その商会で加工品や輸出することで利益は出せている。
今までのように足元を見られ、他商人に農作物などを買い叩かれることがなくなった。
商会には領民もおり、働く場所が増えれば人も集まることになり、過疎化も防げている。
もしクリム一家の使用した資金をセサミが請求しても、責任はクリム達にある。邸、領地、税収、爵位などを売却し、責任を取らせれば良い。
農地の多いこの場所を買う貴族は、多くないだろう。もっぱら売れているのは加工品の方だから。
何れサイダー夫妻の力で、買い取ることもできるだろう。そうなれば当主はサイダー夫妻が就くでも良いし、爵位を持たぬまま商人として生きるのも良い。
領民達はきっとサイダー夫妻を、当主に望むことだろうけれど。
チェロスト子爵領がなくなれば、南の島への送金も止まることになる。その時に前子爵がどうするかも、サイダー夫妻の責任ではない。
まあこれは最悪のことで。
セサミが料金の請求など、しないかもしれない。
ただサイダー夫妻には、コロネとスライストとミカヌレ、モロコシとモロコシの冒険者ギルド、
今はまだ利くワッサンモフ公爵家の力と、コロネ達に協力してくれるチェルシーやルチーズ、孤児院(の子供達やシスター、神父)や鍛治師、
洋品店、フルーツパーラー、馴染みになった銀行などと協力者は多い。
それにコロネが言えば、ワッサンモフ公爵家の隠密達と、仲間に加わったブルーベルもいるのだ。
ブルーベルは既にサイダー達に謝罪し、許しを得ている。
「今まで我が儘に振る舞い、大変失礼致しました。本当に申し訳ありません。そして……私が言っても両親の散財は止まらないのです。重ね重ね、ご心痛をおかけします」
こんな感じで頭を下げる彼女。
2年間なら考えられないブルーベルの姿に、驚愕したサイダーとジンジャーだ。彼らの娘、レモナと息子、ブルネルも驚いていた。
「爵位のない平民の癖に」などと、さんざん馬鹿にされていたからだ。
けれど……礼儀正しく謝罪する、辛そうな面持ちは彼らの心にも届いた。
(あぁ、彼女は変わったのね。顔付きが違うもの)
(今までと雰囲気が違うな。公爵家でいろいろと学んだみたいだ)
だから親子で相談し、彼女だけは許すことにしたのだ。
ブルーベルは微笑んで感謝し、チェロスト子爵家の復興の援助を約束した。
「私で出来ることがあれば、何でもします。仰って下さい」
彼女の隣にはタバサがいて、彼女を見守っていた。
(ああ、彼女には頼れる人が出来たのだ)
それが分かって、心が暖かくなるサイダー達。
「その時はよろしくお願いするわね、ブルーベル。姪なのだから、そこまでの敬語はいらないわ」
サイダー一家に受け入れられて、「っ…良かったぁ……ありがとう、ございます」と口に手を当てて、涙を堪えるブルーベル。
許して貰えないと思っていた。
だから余計に嬉しかった。
今さらながら自分の振る舞いを恥じ、お世話になってきたことを思い出していた。




