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弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


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タバサの指導と家令のボヤキ

「お前の気持ちは分かった、ブルーベル。でもな、コロネお嬢様への態度は許せない部分がある。環境以外に性格的にも、そう言う部分があるんだろう。

 だからこれから、他家の黒歴史をお前に教えてやろう。そんな不遜な奴らの末路をな」


 間髪いれず、話し出すタバサ。

 本当にあった話は、作り話とは違って本当に怖い。それもブルーベルでも知っている貴族家名がバンバン出てくるから、怖さ倍増だ。


「嘘っ、そんなことが……。ヤダッ、そんな老人に初婚で嫁いだの? えっ、本当に隣国の奴隷に……」


 独り言にしては大きすぎる声だが、気にする者はいない。岩壁に反響し空しく響くだけだ。

 ※この国では奴隷制度はない。



「ひ、ヒィー、止めて、もう分かったわ。嫌よ、イヤ、話さないで~」


 手で耳を塞ぎ声を遮ろうとしても、タバサの低くした声音は脳に響き、思考に突き刺さる。



 彼女が気絶するまで、恐怖実話は続いていく。

「まあ、なんて悪い貴族がたくさんいるのかしら」と、タバサが笑いながら。




「イヤ~、もう意地悪なんてしないから、許して!!! コロネ、ごめんなさい、ごめんなさい。お願い、許して下さい、うっ、うっ、ぐすっ」







ちなみに。

 牢屋の2部屋に入っていたのは、フォカッチャー・クロダイン公爵の指示を受けた、クルルミズーレン伯爵の隠密だった。

 ワッサンモフ公爵家に長く勤める使用人枠とは別で入った、欠員補充の執事とメイドはすぐに捕まっていた。


 最初は警戒していた2人も、ワッサンモフ公爵家の使用人達が朗らかで優しいので気を許した。

 始めは暗号のように書いて送っていた手紙だが、いつの間にか「こんな使用人達なら、バレたりしないだろう」と侮り、普通に送ってしまう。


 特に重要な機密ではなくとも、職員の配置や当主の予定、その邸での噂話を知ることは、情報戦に役立つこともある。

 手紙を受けとる方も彼らの友人(と言う設定の)経由で人を介す為、直接フォカッチャーやクルルには届かないので油断していた。



『油断させられていた』のだと気付いた時は、もう拷問部屋だった。


 新人職員は信頼されていなかった。

 履歴書、家族構成、貴族家との繋がりは、採用前から調査されている。採用されて使用人部屋に入った時から監視が始まり、交流した者・手紙などは隅まで丸裸にされる。


 彼らの手紙などは開封され、模写した者が相手に届けられる。手紙は証拠になり、受け取り側も調査されることになる。ワッサンモフ公爵家の隠密に死角なしである。



「フンッ。平和ボケしたうつけ者を送ってくるとは、ワッサンモフ公爵家も舐められたものよ」


 そんな怒れるレイアーに、メロアンは首を横に振る。


「それは違うわ、旦那様。この男女は学園の成績も良くて、ミズーレン伯爵家にしては優秀な人材よ。将来の幹部候補かしら?」


「こんな者が? 正気なのか?」

 


 レイアーが目を剥いて彼女に尋ねると、「平和ボケしてるんでしょ? 少し前なら考えられないことだったわね。ミカヌレの世代までなら、こんな子達は瞬殺だったわ」と、薄く微笑んだ。



「そうか……。それが良いのか悪いのか?」

「気付かないままここに送られた方は、堪ったもんじゃないわよね」


「そうだな。玄人と素人くらいの差があるからな。逆に「あいつらは仕事がキツくて辞めた」とでも言えば、たとえ我らが消したとしても、こちらに追求も出来んだろ?」


「そうね。あんな手紙を送るくらいだし……」



 暫し沈黙の後、二人は見つめ合い答えを出した。


「再教育して決めるか?」

「そうね、そうしましょう!」



 そんな感じでまあ、いろいろと諭されたり脅されたり、時に痛い目に合わされたミズーレン伯爵の隠密達は寝返ることになる。


 調査によると彼らも孤児で、幼い時から優秀だった為に適当な貴族家の養子となっていた。ミズーレン伯爵家の元には彼らの恋人(の隠密)が残され、逆らうと殺されると言う。今回の仕事のペアは、お互いの監視が目的だったそう。


 

 レイヤーは恋人達の保護を約束し、彼ら(伯爵の隠密)が二重スパイになるように契約を結んだ。まだ疑う彼らだが、他に道はない。全員死ぬか、全員生きるかの選択なのだ。



あいつら(フォカッチャー達)の考える(方法)は、昔から同じで卑怯だ。実にくだらん」


「そうよね。こんな時代になっても、信頼一つ築けないやり方で。未だに使い捨てなのね、平民のことは……」



 深い苦しみが蘇り、メロアンの胸を締め付ける。彼女は遠い昔、レイアーの母であるレッドに助けられて生き延びた平民だった。

 泥酔して暴れた貴族に殺された父に縋り付き、彼女も同じ剣で命を奪われようとしていた。父の経営する居酒屋の看板娘(当時5歳)であった彼女が諦めた時、泥酔貴族を蹴り飛ばしたのが、(その当時9歳の)レイアーだった。




「無礼だぞ、貴様。このチルド侯爵夫人の前で人を殺すなんて。私の夕食をどうするつもりか?」



 チルド侯爵夫人……。

 元辺境伯令嬢にして、その強さから女性初の警ら隊職員になっていた人物だ。


 貴族が平民に手をあげても、特に罪には問われないのがこの時代の法律だった。それを彼女は嫌っていた。



「あーあ、どうしてくれるんだ。仕事終わりに疲れたのに、飯を作る者を殺すとは? おい!」

「ヒッ! 申し訳ありません。お許しを!」



「侯爵夫人に無礼を働いたんだ。許せるわけないだろ! お前らこいつを牢にぶち込んでおけ。今すぐだ!」

「はっ、レッド様。ただちに!」



 警ら隊に順列はないが、レッドは辺境から屈強な人材を多く従えて来ていた。いわゆる花嫁道具だ。そして警ら責任者は、夫であるソルトギルである。


 二人は平民を見下し、命を大事にしない貴族の粛清を誓う友でもあった。


「父親は残念だった。けれど他の客を庇った最期は立派である」

「っ、ふっ、お、おと、さん……わああぁぁ」



 恐怖で声も出せないメロアンは、レッドの言葉で泣き出した。体の力が抜けたのである。


「家に来い。成人まで育てることを約束する」


 筋肉の付いた厚い胸板で彼女(メロアン)を抱きしめ、侯爵家に戻るレッド。それを受け入れるソルトギル。レイアーも辛そうな面持ちで、泣き止まぬ彼女を見ていた。


「まだまだ粛清が必要だな。だがまだ力が足りない」

「ああ。貴族を裁く為に、権力が必要なのは皮肉なことだ」



 そんな彼らはセサミの協力を得て、法律の改正に乗り出すのだ。だから今は、昔より貴族の罪は問えるようになり、治安維持に繋がっている。



 そんな親の恩義がレイアーにはある。

 勿論親達も、人道に反すること以外はセサミへの協力を惜しまず行ってきた。

 メロアンもチルド侯爵家の寄子貴族の養女として、ワッサンモフ公爵家に仕えていた。

 王家の隠密達と協力仕合い、ワッサンモフ公爵家を支え続けた来たのだ。


 でも今、2人は考える。


「もうそろそろ恩は返したと思うぞ、俺達は」

「そうね。時代も変わったみたいだし。それに私達には仲間もたくさんいるしね」


 感情が高まると、私から俺に一人称が変わるレイアー。それに気付き頷くメロアン。


 楽しげな2人は、今後の計画を考えていた。









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