ブルーベル、教育的指導を受ける。その2
「お前はちゃんと事実を知る必要がある。なんせもう8歳だからな。コロネお嬢様が両親と離れた時は5歳だったのだから、それより3歳も上なら理解できるよな」
「……(怖い、怖い、怖い。それにコロネが何だと言うのよ。見下すんじゃないわよ。でも怖い~)」
ここはワッサンモフ公爵家の地下の地下。巨大な岩が削られて作られている為、木造と違い燃えない場所だ。別名『拷問部屋』と呼ばれる。
丁度上の上は厨房であり、少しの物音など誰も気にしない位置にある。
この階に部屋は10室ある。5つは牢屋で2部屋使用中だが、ブルーベルはそれを知らない。
だってこの場所に来る時は、気絶していたから。何ならこの椅子一つで、拷問道具がない部屋は一番ソフトな場所なのだ。
20畳の部屋に椅子が一つで、明かりは松明の光のみ。窓がないから昼夜の感覚もない。
道具がないのは単純に、隠密の特殊訓練をする場所でもあるからだ。天井が低い場での近接戦闘訓練(寝室やパーティーの休憩室を想定)は、隠密には必須である(必要時はソファーや椅子を運んで状況を作る)。
よく見ると壁や床のあちこちに血痕が残っている。血液は掃除しても落ちにくい。
唯一他にあるのが、個室のトイレだけ。
ここは訓練もするので取り付けられているが、場所によっては壺のようなもので用を足す部屋もある。
メイド服姿で美女のタバサと、椅子に括られた美少女ブルーベルが、暗い部屋の中央で向かい合っていた。
この場所に来れるのは公爵家の隠密のみで、ブルーベルがここにいることは、タバサの他はメロアンとレイアーだけである。
そのまま失踪扱いにもできる訳だ。
◇◇◇
「大してビビらないのは立派だな、見所がある。まずお前には自分達の借金額と内訳を伝える。そしてそれが返せない時の未来と、処遇を教えてやる。
全部嘘だと笑うのも良い。だが本当だったらどうなるのか、想像しながら聞くと良い。貴族だと15歳で成人か。成人になればできる仕事も増えるからな」
淡々と話すタバサと、記載された買い物の値段を見ながら、冷や汗が止まらないブルーベル。
(こんな金額……。チェロスト子爵領の収入、3年分より多い金額を使っているわ? もしワッサンモフ公爵家から請求されたら、絶対に返せない。特にこの血赤珊瑚の(日本円だと)1200万円って何よ。あんな宝石一つで、半年分の領地収入じゃない。どうすんのよ、コレ!)
「その様子だと、ちゃんと理解したみたいだな。ああ、一応言っとくぞ。スライスト様は生きているから、お前の父親は当主にはなれない」
「そ、そんな、どうしたら良いの?」
「チェロスト子爵の土地、資産、爵位を全て売っても、不足だろうな。そういう時は、足元も見られるし……。お前も平民になる前に如何わしい場所に売られるか、エロい金持ちとかの愛人や後妻に押し込まれるかが良いとこか?」
「嘘でしょ? 嫌よ!」
「嘘と言うか、可能性の問題だな。今から宝石類を売って、チェロスト子爵家やセサミ様、親族達に頭を下げて金を借りて返済するしかない。
もしお前達だけのせいで没落すれば、チェロスト子爵家の寄子貴族(男爵や準男爵など)、関連商人達も許してはくれないだろうな。闇討ちや暗殺者くらい送られるだろう。
でもお前の親はそれができるか?
愛するお前を守る為に、頭を下げて金を借りること、そして散財を止めて真面目に働くこと。
どうだ、できそうか?」
ブルーベルは絶望した。
「……無理よ。両親はプライドが高くて、自分より下の貴族や平民を馬鹿にするわ。私でさえ、逆らえば殴られるもの(だからいつも、顔色を窺っていたのに)。
頭を下げるなんて……あぁ、私はもう終わりなのね、うっ、ふぐっ……あぁん、助けてよ、誰か。もう無駄遣いなんてしないからぁ」
自らの親の性格を知り、極力逆らわぬように生きていたブルーベル。けれど……いつの間にか彼女もその考えに染まっていたようだ。
「私はいつも両親の言いなりだった。本当に欲しい物は買って貰えず、いつも母と共用のアクセサリーばかりで。服だって似合ってないと知っていたけど、不満なんて言えなかった。
そんな両親のせいで売られるの? 私はもう生きていても、幸せは掴めないの? うっ、ぐすっ」
情報過多で、精神的にも限界のようだ。
止まる様子もなく、泣きじゃくっている。
でもタバサが彼女に現状を伝えたのには、意味があった。子供を見捨てないのは彼女の矜持だから。
(こいつもいろいろ我慢していたのだろう。悪い部分はあれど、今なら間に合う気がする。まずは適切な指導からだな!)
胸の前で腕を組むタバサは、口角を上げて不適に微笑んだ。




