ミディアとのお茶会 その2
「何よ、気取った言い方なんてして。知ってるのよ、親無しの癖に! もうあんたの親は、帰って来ないんでしょ?」
ミディアとコロネのお茶会に、突然現れたブルーベル。
初めてブルーベルを見たミディアは、気安く自分の名を呼んで近付いて来る彼女の不遜さに、怯えを見せた。
それを庇うコロネに向かって、ブルーベルは未だ戻らないスライスト達のことを引き合いに出して、牽制するのだった。
一番コロネが傷付く言葉で。
(考えないようにしていたけれど、お父様が見つかった報告はないわ。もう2年近くなるのに……。お母様の方は男性を追い掛ける為に家を出ると、タバサが言っていたから、公に言うような看病なんてしていないし…………。そうね、今の私には親がいないのだったわ)
◇◇◇
侍女のアンナに呼ばれ、駆け付けたレイアーはその場を収めようとした。
けれどその前に、ミディアの前に立つコロネの顔は尋常もないほど蒼白で、それを見るブルーベルの方も、不安に駆られた表情をしていた。
「何よ、本当のことじゃない。……今さらそんな顔したって、酷いことを言ったあんたなんて許さないんだから」
言葉はきついものの、次第にその口調や勢いは弱まっていった。
レイアーはふらついて倒れそうなコロネを支え、アンナはミディアの視界を自分の背で隠しながら、玄関の方へ誘導していく。
彼は庇ってくれたコロネにお礼を言うことも出来ず、公爵邸を去ることになった。
(コロネ、ごめんね。僕の為に、ごめん……)
自分の為に修羅場になったお茶会を去るミディアは、ただただ泣きそうな顔で馬車に乗り込んだ。
「あ……(嘘っ、何で泣いてるのよ? だっていつもお母様もお父様も言っていることなのに)。何よ、大袈裟にして。私は悪くないわよ」
そう言うブルーベル本人も、泣きそうな顔で客室へ駆けて行く。
「ごめんなさいね、レイアー。こんなことで……情けないわ、うっ」
「情けないなんて言わないで下さい、コロネ様。これは誰にとっても、酷い侮辱です。怒って下さい」
「ぐすっ……怒るなんて、出来ないわ。本当のことだもの。それよりミディア様は、大丈夫だったかしら?」
「はい。アンナが帰りの手配を終えて、送り出しましたので」
「そう、うっ、良かった……」
嗚咽が漏れる口を強く押さえながら、支えられて自室へ移動するコロネ。支えるレイアーは眉尻を下げて、酷く悲しげだった。
スライスト達の情報を伝えられないことで、コロネを悲しませていることに。そして公爵令嬢として、責務を果たそうとするその姿に。
◇◇◇
チェロスト子爵一家の滞在は、あくまでも未だにゲスト扱いだ。
従ってブルーベルの失態は、ゲストを受け入れているワッサンモフ公爵家の責任となる。
だからこそ、いつも接点を持たないようにしているコロネが前に出て、家令もブルーベルを止めに来たのだ。
アンナはただの子爵令嬢だが、レイアーはチルド前侯爵家の三男である。レイアー本人は子爵位を保有する為、身分上ではブルーベルより上位となる。
ただ仕えているのは、表向きはスライスト(裏では遺憾ながらもセサミ)な為、通常ならば主の姪や孫に当たる者にあまり強くは出られない。
けれども公爵家の名誉の為には、それは吝かではない。寧ろ普段の鬱憤を晴らすくらい、気合いが入るレイアーだ。
(先祖はいろいろと問題を抱えていたワッサンモフ公爵家だが、セサミ様の時代は公爵家筆頭に躍り出た。スライスト様も真面目な方だが、当主としての力量はセサミ様が上……。
コロネ様とセサミ様のポテンシャルは同格であるのに、どうしてブルーベル様はこんな有り様なのだ。やはりクリム様の遺伝子が強いのか? ある意味、被害者なのかもしれないな?)
レイアーはそんなことを考え、困惑しながら客室へ戻るブルーベルの背中を見送るのだった。
※日本には、こんなことわざがある。
名家三代続かずとは、「大金持ちや名家は三代目で没落することが多い」ことを言う。
初代が築いた財産や名声を二代目が守り、三代目が贅沢三昧で浪費して失ってしまう、という背景が多いようだ。
三代目(孫の代)が苦労を知らずに育つことによる甘えが原因とされる。勿論全ての家がそうではないが。




