新たなる商売 その2
ミカヌレの古いドレスと、コーラスとブルーベルの捨てたドレスを回収し、全部糸を外して新たに今風の意匠を考えたコロネ。
その後は空き時間で、洋服のリメイクに着手する。チェルシーと年長の孤児院の少女、サクラベルに手伝って貰い、20着のワンピースが完成した。
そしてモロコシと相談し、平民専門の洋品店を開店させることになった。
(モロコシが一部費用を負担したことで)格安になっていた店舗を借り、宣伝もいつも通り彼発信のギルド経由だ。
洋品店のことは内緒にしていたと言うのに、またしても公爵家の侍女とメイドは裁縫や意匠の協力を名乗り出てくれて、サクサクと仕上げてくれた。
セサミとスライストの側近は隠密なので、コロネの隠し事は隠しきれるものではないのだ。
仕舞いには侍女やメイドの着なくなった服も寄付してくれて、糸を抜いてパーツを組み合わせたり裁断して、大量に既製服に仕上げて渡してくれた。
「コロネ様。拙い出来ですが、こちらもどうかお売り下さい。裁縫の練習で作ったので、もう不要になりましたので」
「そんな、受け取れないよ。私が作った服より、よっぽど綺麗な仕上げじゃないの?」
「いいえ、それほどでは御座いません。それに……こんな若々しいスカートやドレスを、30代女が着れば大問題になりますよ。笑われたらどうするのです?」
微笑みながら渡してくれる侍女長メロアン(38歳)に、メイド長タバサ(24歳)が「クスッ」と、吹き出して同意する。
「まったくですわ、コロネ様。私はまだしもメロアンが着たら大惨事です。気が触れたと思われますよ」
「あぁん、タバサ。後で私の部屋でお話しましょうね。どうやら再教育が必要なので」
「謹んでご遠慮させて頂きますわ(絶対イヤ!)。回りくどく言わないで、買ってくれそうな若い購買層用に作ったと言えば良いでしょ?」
「そう言えば負担に感じるでしょ? まったく、もう!」
「でも、それで受け取って貰えなければ、本末転倒ですよね」
「ああもう、口がまわること!」
両者の睨み合いが、数秒続き……。
「じゃあもう、捨てれば良いのね」
「メロアンが着るよりマシですわ!」
「そんな! こんな素敵な作品を捨てるなんて、勿体無いわ。捨てるくらいなら私に下さい!」
「「どうぞどうぞ!」」
(はっ、乗せられてしまったわ)
「でも……ありがとう。感謝しますね」
「それくらい良いのですよ。侍女のたしなみです」
「メイドのたしなみでもあります。みんな楽しんで作りましたから」
侍女達に迷惑はかけられないと、一戦を引くコロネだが、彼女達の気持ちが嬉しくて心が温かくなる。
(彼女達の雇い主はお父様で、不在の今はお祖父様よ。私が勝手に労働力を搾取してはいけない相手だし、(お祖父様から)命令違反だと彼女達が責められても、私では助けられないのに……。でも嬉しい。私の為にみんなが助けてくれて)
コロネの満面の笑顔。それだけで十分満足な彼女達なのだ。
メロアンとタバサの他、ワッサンモフ公爵家の隠密達は、隙なく優秀なセサミに従ってはいるが、息子に実権をいつまでも渡さず気ままにしている彼に嫌気がさしていた。
そして《クリム一家野放し案件》に、イラットしている。
セサミの手前、表立って援助できないメロアン達は、ささやかなプレゼントを贈っただけなのだ。
本当は主の思惑を(コロネに)伝えてしまいたいが、そうすれば今度は標的をミカヌレに変えるかもしれない。
「今、ミカヌレはスライスト様と合流して、やっとのんびりしているのだもの。セサミ様の悪ふざけなんかで、それを潰させないわ」
「そうよ。スライスト様、九死に一生くらい大変だったのですもの。もう少し静かに見守りたいわよね」
どうやらミカヌレ達の行方を知るメロアン達は、それをセサミに報告していない様子。さらにスライストも無事?らしいが…………。
◇◇◇
いろいろな関係部門へと走り回り、何とか平民専門の洋品店を開店したコロネ。
古着を使っていると提示し価格を低くすると、平民から下位貴族までが多く押し寄せた。元々の生地は高価なもので、縫い合わせもしっかりしており、今風のお洒落服だったことで、大人気になったのだ。
そこで真鍮やガラスパール、色ガラスの付いた装飾品を置くと、服に合わせて売り上げも伸びていく。衣装への取り付け希望もあった。
ケルアン、シャイン、マイケルの作品もたくさん売れ、彼らから孤児院に寄付もできた。
3人は既にガンテツの家近くの下宿に入り、兄弟子と一緒に暮らしている。
孤児院では3人分の生活費が浮き、時々寄付もしてくれるので、助かっているのだそう。
元々この3人を職人にしようとしたのは、本職の鍛冶師では令嬢の遊びに付き合えないと断られると思ったからだった。
だからこそコロネは、もし鍛冶の仕事(自分のアクセサリー作り)が中途半端に終われば、セサミに頭を下げてでも彼らを従者として雇おうと思っていた。
それがモロコシの口添えもあって、多くの弟子を持つ親方ガンテツに弟子入りできた。更には気に入られて正式な鍛冶師になれるのだから、こんなに嬉しいことはない。彼らの頑張りが自分の我が儘で終わらなくて、心から良かったと思っているコロネだ。
◇◇◇
平民専門の洋品店は、客が途切れず多忙の為、サクラベル以外の女の子達にも手伝って貰っている。勿論給金ありで。
みんなやる気があって、メキメキと裁縫が上達しており、15歳になれば就職して貰う予定である。
「私だって、ケルアン兄ちゃんみたいに頑張るわ」
「そうよね。あんなに頼りなかったシャインだって、今では職人になったんだもの。きっと私にも出来るわ!」
「私もマイケルみたいになりたいの。頑張ってるマイケル、すごく格好良いから♡」
「まあ! 何か目的がちょっと違うけれど、その恋心すごく素敵」
「あら、あら。これはお姉さんも応援しないとね!」
心に余裕ができたのか、仕事以外でも楽しい気持ちにもなれているみたいだし。
孤児院にはみんなからの収入が少しずつ入り、飢えることだけはもうない。職に就いて出て行った人の分だけ、他所から子供がやって来るので余裕はないままではあるが、良い形で新陳代謝がされている感じだ。
ワッサンモフ公爵家の侍女やメイドは貴族が多く、周囲に声をかけ不要になった衣服や装飾品を孤児院に寄付して貰っている。
その衣服や装飾品を洋品店で活用して貰い、その一割を孤児院に還元することで、資金が回るようになった。
その仕組みも公表している為、多くの貴族が継続してリサイクルに賛同してくれている。
◇◇◇
各部門から少しずつではあるが、コロネにも収入があり、何とか赤字解消に奮闘している。けれどコーラス達の欲望は底が知れず、不安は尽きない。
「ふう、今月も何とかなったけど、頼むから値段を見て購入して欲しいわ。お父様と私の予算、そして私の商売の利益も溶かす散財って。ちょっとすごいわよね。私には絶対に使えない額よ」
アンナも強く頷き、「本当にいつまでいる気ですかね? 子爵家からも引き取りに来ないし、もしかしたら厄介払いされてるんじゃないですか?」と、憤っていた。
そんなコロネは、ノルマ達成でドーパミンをバシバシと浴びている為、今だけは一時的に幸福だった。
「乗り切ったわ、私。やりました♪」
けれどセサミは、新しい駒を準備させていた。波乱が続く予感。




