新たなる商売 その1
ミカヌレの持っていた真鍮のアクセサリーと、コーラスとブルーベル達が捨てた真鍮をかき集め、子供達の練習用にとそれらを装飾品鍛冶師に提供した。
目下コーラスとブルーベルは、金属的価値のある金と銀ベースの装飾品集めに夢中だ。
ある程度の年齢のご婦人ならば金やプラチナが似合いそうだが、まだ8歳のブルーベルがそれらを身に付けても、浮いている感じに見えた。
「まだまだ若いのだから、可愛いものを付ければ良いのに」
本人に言う程仲良くないから、伝えたりはしないけれど。
もし……(考えたくはないが)父が戻らなければ、叔父達が公爵家を継ぐ可能性もある。将来を見据えて、いつでも何処に出ても良いように、彼らは服装を整えているのかもしれない。
(私が何か言うのは、時期尚早でしょうね。何の権限も持たない子供だもの)
接点が殆どないことで、今のところ争うことにもなっていない現状。失言を回避することができたのは、コロネにとっては正解だった。
何しろ、1対(厚かましい)3人なので。
最近は、最も高価と言われる血赤珊瑚を入手しているコーラス。深みのある赤色で傷や白濁が少ない、傷がないものが最高級品らしい。
価値を決めるポイントは血赤色、10mmより大きく丸玉大きさ、透明感、そして真珠の中心部の白い部分に傷がないかで、これらが揃うほど高額になり、数百万から数千万円の物もあるそうだ(執事レイアー調べ)。
高級品とは真逆に、模造真珠と言うものもある。ガラスの核に真珠層を模した塗料を吹き付けたもので、本物に近い重みと輝きを持つものをガラスパールと言い、安価で購入できる。数百円から数千円で、ネックレスができるそう。
「せっかくいろいろな塗料で工夫できるから、色を衣装に合わせて安く楽しめば良いのに(本音は、別に王族でもないのだから、血赤珊瑚はいらないでしょ! 少なくても私はいらないわ。お金の方が大事!)」と、ボソリ呟くコロネ。
またまた月末決算が、とんでもない赤字になっていたのだ。
コロネはファッションについても、ミカヌレや侍女達の英才教育の賜物で、裏付けされた発想力とTPO能力(時と所と場合に応じて、服装などを選ぶこと。いわゆる常識)を持つ。
『審美眼はここにあり』なのだが、今は自分の身にお金をかけている余裕はないのだった。
◇◇◇
幼い時から美しさを磨き続けた、誘惑の隠密達はボディケア(筋肉が付きすぎない筋トレ)や、自国・他国の服装、装飾、言語に精通していた為、それを教え込まれてきたコロネも、知らずとそれが知識と共に身に付いている。
後は実践で動き、磨きをかけるか否かの前段階だ。
神からの愛とも言える諸刃の能力、『超記憶』で習得したことは忘れない為、7か国語の会話と筆記が可能だ。
だから街中でも他国者の会話内容が分かり、どんなことを話しているかを聞けるのだ。
天才の幼児・・・・警戒されず相手に近付けるコロネほど、諜報に向く者もいないだろう。勿論なるつもりはなく、周囲もそれを許さないだろうけど。
みんなが彼女には、諜報なんて無縁で生きて欲しいと願っているから。
まあ、それはさておき。
子供達が鍛冶師に弟子入りしてから、1年半が過ぎて、作品作りにも着手させて貰えている。
給料は完全に鍛冶師払いになり、コロネの援助から外れたのだ。
「親方に認められてすごいわ。よく頑張ったわね」
「早く一人前に成りたかったからな。できる力は出したと思う」
「そうなのね、偉いわケルアン。私も頑張らないとね」
コロネに微笑まれ労われている姿を見つけ、他の2人も駆けつけて来た。
「僕も頑張ったよ。これからも頑張って、コロネさんに似合う髪留めを作るから、待っててね」
「ありがとうね、シャイン。でも無理しないで」
「うん! ありがとうね。優しいなぁ(コロネさん、大好き!)」
負けじとマイケルも声をかける。
「お、俺はブローチを作ります。デザインもいろいろと考えてます!」
「まあ! 忙しいのに、ありがとう。でも私のは急がなくて良いからね。まずは修行を頑張って」
「はい。修行、頑張ります!」
それを見ていた鍛冶師の師匠ガンテツは、3人を我が子ように見守っている。ずっと顔を合わせてきたこの4人は、仲間以上の絆ができていた。
(お嬢さんがこの子らの、努力する原動力になっているみたいだな。でもなあ、公爵令嬢とこの子らでは身分がなあ。だけどセサミの旦那がどう考えているか分からんから、もしかして家から出されて平民……ってこともありえそうだし。今は見守るとするか)
セサミの態度により、公爵家の使用人達、シスターのチェルシー、ギルド長モロコシ、鍛冶師ガンテツ、孤児院の子供達もコロネが蔑ろにされていると思っている。
そのうち家を追われるのではないかと、いつも心配していた。
「クリム一家の支出をコロネが補填できなくなれば、責任を取らされるらしい。協力は惜しまないけど、もしダメだった時は孤児院で暮らせば良いさ」
なんてことが、真しやかに囁かれていた。
コロネはまだ、孤児院での暮らしは考えていなかったが、両親がいなくなってから家を出される可能性は心の片隅に置いていた。
「孤児院の土地は教会名義になっているし、護衛もいるから安全よね。最悪の場合は暫く間借りさせて貰おうかな♪」
なんて楽しそうなコロネと、「駄目ですよ、そんなこと考えちゃ!」と、首を横に振り情けない顔になるアンナ。
商売の才能のあるコロネだから、平民になっても生きていけそうな気もする。でもまだ6歳になったばかりなので、生き急がないで欲しいけれど。




