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弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


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『無いものは作る』は、常識? その1

 まだミカヌレが、隠密の仕事をしていた時のこと。


 ミカヌレ達、ハニートラップ要員(ミズーレン伯爵の抱える隠密達)も、生き残る為に必死に策を練ってきた。


 アクセサリー1つ取っても、仲間で使い回せば、よっぽどのボンクラ達でなければ、周囲の者が気付いて怪しみ、そこから足がつきかねない。


 だからこそ、与えられた資金をどう使うかは、多くの意見を聞いて検討する必要があった。


 金や銀製品を加工し変形させるのは、比較的軟らかくなりやすく容易だが、如何せん高額である。その為ミカヌレ達は真鍮を購入し、武器部門の炉を借りて変成や金や銀のメッキを張り付けて、代用することにした。



 金属を変形させることを鍛造(たんぞう)と言う。これは、金属をハンマーやプレスで叩いたり圧力を加えたりして「鍛えながら」目的の形に成形する塑性加工技術で、その種類は大きく3つに分けられる。



①熱間鍛造とは、金属を再結晶温度以上(高温)に加熱し、柔らかくなった状態で金型などを用いて叩いたり圧力をかけたりして成形する金属加工法。


②冷間鍛造とは、金属を加熱せず常温(室温)のまま金型でプレス・圧力を加えて塑性変形させ、目的の形状に成形する加工技術。


③温間鍛造(おんかんたんぞう)とは、金属を「熱間鍛造」(高温)と「冷間鍛造」(常温)の中間の温度域(約300~900℃)に加熱して成形する金属加工法で、複雑な形状を高精度に加工できる。



 冷間鍛造は熱を加えない分、力を直接加えることが必要。精巧に完成させることが出来る反面、この時代では技術的に労力が酷くかかる。いわゆる力業だからである。



 武器の|《鍛冶炉》かじろは、鍛造プロセスで中心的に使われる小さな炉のこと。

 刀工(刀鍛冶)はこの炉で鋼材を熱し、金槌で叩いて不純物を取り除き、折り返し鍛錬を繰り返す。


 その場所で鍛冶師に教えを乞い、装飾品作りをしていたのだ。


 最初の頃はハニートラップ(戦闘ではなく、単純に相手をタラシ込む者だと思われて)要員だと話すと、「神聖な場所を貸せねえ!」と断られた。

 けれど熱心に仕事のことや予算のことを説明し、やっと何とか受け入れて貰えたのだ。

 

 一度受け入れて貰うと、ミカヌレ達は寝食を忘れてに細工作りを行う為、その熱心さに鍛冶師達は驚嘆した。


「ハニートラップなんざフザケタ仕事は辞めて、ここで俺達の弟子になれば良い。きっと良い職人になれるぞ」と、真剣な表情で言わしめる程に。


 物作りは楽しく、弟子になれたらと思う者もいたが、所詮は叶わぬ夢でしかなかった。本当に抜けたいと言い出せば、鍛冶師にまで迷惑がかかることだろう。

 鍛冶師とて、ミズーレン伯爵に雇われているのだ。逆らうことは出来ないだろう。



「ありがとう、親方。そんな風に褒めて貰えて、すごく嬉しいよ」

「私も楽しかった。まるでお父さんみたいに、たくさんのことを教えて貰って」


 厳しい教えに食らいついたミカヌレや隠密達は、鍛冶師に認められた。その後何度もここに訪れ、使ったアクセサリーを流行品に似せて作り直すのである。


 

 隠密達にとっての装飾品は、憧れではない。メッキをうまく加工して真鍮を金や銀のように高級品に見せ、相手を欺く仕事道具のようなものでしかなかった。


 ミカヌレが公爵夫人になった時も、装飾品には心が動かず、ご馳走にだけ(相手にも分かりやすく)満足感を覚えていた。


「生きてて良かった。こんな美味しいものがこの世界にあったのね!」と、満面の笑顔で。

 それを知るスライストからの贈り物は、もっぱら高級菓子であった。


 ミカヌレが笑えば、彼も微笑みを返す。

(良かった。君の嬉しそうな顔を見られて)


 


 温度差はあれども、二人はお互いの気持ちを大事にして過ごしていたのだ。








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