コロネ、事業を始める
「コロネお嬢様……あぁ、どういたしましょう。滞在中のクリム御一家のせいで、今月の公爵家予算は赤字で御座います。私も手を尽くしたのですが、大変申し訳ありません!」
「ま、まあ、どのくらいの額なの? とにかくレイアーは頭をあげて頂戴な。お祖父様からは『お前の考えるようにしてご覧』と伝えられているから、この結果は私の不徳が招いたことなのよ。何とか……私の采配で何とかしなければ」
慌てる様子もなく言い切ったコロネに家令レイアー(42歳)、侍女長メロアン(38歳)、メイド長タバサ(24歳)は目を瞠った。
(お嬢様は、セサミ様に頼らずに乗り切るつもりだ)
(私達に責任を押し付けることなく、解決しようとされている)
(わざわざ、あんな爺さんの遊びに付き合わなくても良いのに。くぅ、なんて真面目な子!)
((おい、タバサ。セサミ様に聞こえたら、巻き添えで拷問されるだろ!!!))
(てへっ、ごめん。でも私、あいつ嫌いなのよ。代々の仕事だから嫌々やってるけど、子供苛めるのとか勘弁して欲しいのよね)
(それは俺も同意だけど……)
(私だってコロネ様の方が大事よ。幼いのに頑張っていて可愛くて、賢くて……もう大好きなのに。でもさすがに逆らえないでしょ、あの化け物に)
(ちょっと、待て。発言に注意しろ。それ禁句だから)
((だって、ねぇ))と、メロアンとタバサが頷きあうのだ。
(もう、俺だってコロネ様の方が好きだよ。決まってんじゃん!)
例に漏れず、苦労人の家令と侍女長は夫婦。メイド長タバサは、彼らのだいぶん年下だが、元メイド長の娘なので親しい付き合いがある。
執事はワッサンモフ公爵家の者と、外部から採用する者が半々だった。
ワッサンモフ公爵家の幹部的な使用人はコロネとミカヌレの味方ではあるが、雇い主はセサミであり彼には逆らえない。
その為セサミの思惑を彼女に話すことは、口が裂けてもできない状態。だってセサミが怖いから。
そして裏帳簿(クリム用)のことも伝えられないので、ワッサンモフ公爵家の資産的なダメージなどないに等しいことも伝えられないでいた。
「ほっとけば良いのよ。コロネ様が普通だと気付けば執着されずに暮らせるわ」
そうは言っても主の楽しみを奪えないので、沈黙を保つ使用人達だ。
セサミも鬼ではないので、別にコロネを追い出そうとは思ってはいない。
そんなセサミから、試練その1が開始される。
「心配しなくて良いわ。取りあえず今月は、私の予算から引いて置いて頂戴。今後のことは内職で賄う予定だから」
「「「お嬢様、申し訳ありません」」」
3人は心を悼め、深く謝罪した。
(((あの爺のことを止められず、ごめんなさい)))
それを慌てて止めて、顔をあげてと言うコロネ。
「たぶん私が叔父様に言っても、きっと聞いて貰えないと思うの。使用人の言葉なんて、もっと聞かないでしょ? でも憲兵に言うのも、殺し屋に頼むのも可笑しいでしょ? もしお祖父様が叔父様を大事にしていたなら、その後にこの家のみんなに迷惑がかかるかもしれないから、穏便にして行きいたいのよ。今はまだ…………」
その発言に再び頭を下げ、「了解しました、お嬢様」と深く忠誠を示したのだった。
そしてコロネは、侍女のアンナ(33歳)と孤児院に向かう。ミカヌレの公爵夫人予算で多額に寄付をし、価値の低い山ばかりの場所だが、孤児院周囲の土地を買い取っていたのだ。
これでその土地は、今後独立した孤児院保有のものとなった。そのことで以前にはあった、土地の保有者の貴族が口を出すことを回避できるのだ。
今回力を貸した(金も出した)のはワッサンモフ公爵家なので、普通の貴族は喧嘩を売ってこないはずだ。
例えば「可愛い子だから、引き取ろう」なんて嫌らしい顔をした(碌でもない人買いのような貴族)親父がいても、「ワッサンモフ公爵家の者が審査し、今回はお断りすることなりました」と断れるのだ。不満なんて囀ずるものなら、タバサが闇夜で動いてしまうだろう(って言うかもう、数回出動済みだ!)。
そんな孤児院の裏山で、コロネは事業を始めることになる。第一の事業は『養蜂』だ!




