表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/118

タルテとクルミナ

 隠密組織の役割を終えたミズーレン伯爵家は、クロダイン公爵家にとって意味を持たない存在となった。


 利用価値がなくなったことで、クロダイン公爵家からの支援金もなくなり、焦りをみせる後妻タルテ。


 タルテは、クロダイン公爵の従兄である侯爵家の出戻り娘。

 元夫に愛人がいることが許せず、お付きの従者に彼女を暴行させたことで、夫有責(夫の懇願)で離縁した過去がある。


 彼女は夫になったクルルのことを下に見て馬鹿にし、継子のピスタテルを虐めていた。ただ自分の実子クルミナにも関心がなく、接触も最低限しかなかった。


 家族に興味がないのである。


 実際には、別れた夫のことを今でも愛していた。

 離縁したくなかったが「彼女(愛人)を傷付ける君とは暮らせない。いくら払っても良いから、別れてくれ。頼む!」と土下座され、この国に戻ったのである。


 愛していたからこそ、愛人の顔を傷付け別れさせようとしたのだが逆効果だった。

 結婚契約書には、愛人を作らない約束もしていたのに。


「商売女くらいなら許したわ。でもあの人は、愛人といる時の方が幸せそうだった。許せる訳ないでしょ!」


 今でも思い出すと頭が沸騰しそうになる。愛人を殺してやりたいと思うが、父侯爵に「金で解決したのだから手を出すな」と釘を刺されており、それも出来ない。彼女にとっての父侯爵は絶対君主であり、逆らうことは出来ない。



 この再婚も同様だった。




 慰謝料や公爵家の支援金で贅沢に身を飾り、社交へと頻繁に繰り出す為、邸にいること自体が少ないタルテ。

 家政や領地経営などに着手することはなく、クルルや家令に任せきりだった。クルミナが成長してからは、彼女にそれを任せていった。


 クルミナのことは娘ではなく、使用人のように考えていたのかもしれない。


 好きでもない男の子供には、自分の生んだ子であっても情が湧かなかった。




 だからこそ支援金が減り、ミズーレン伯爵家に衰えが見えた時にタルテは思ったのだ。


「隠密組織が解体したのなら、もう女の当主はいらないわよね。実家から気の利く男の養子を貰えば良い。クルミナは嫁に出しましょう」



 父侯爵とタルテは相談し、彼女(クルミナ)を高く買ってくれそうな国へ嫁に出すことにしたのだ。


 黒髪に赤い瞳の美しい娘。後2年で成人し伯爵家を継ぐ筈だった知性高き逸材。



 ミズーレン伯爵家の方針が変わったことを周囲は驚くものの、クルミナの聡明さを知る者達からは釣書が多く届いた。


 その中で結納金を高く積んだのが、カザンサススノーの王族であった。好色な王は彼女を側妃として迎え、政務をさせようとしていた。


 クルルが結婚したのは40(歳)近かったが、カザンサススノーの国王はさらに上の50(歳)を越えており、王子も王女もいる状態である。

 数年すれば王太子が王位を継ぎ、彼女の立場は不安定なものになることが決まっていた。


 それでなくともネリネやカンラは、カザンサススノーから逃亡して来たのだ。扱いの酷さは折り紙付きである。



 クルミナも政務を熟す立場であるから、そんなことは分かっていた。



 彼女は2階にある自室から、月のない暗い夜空を眺め深い息を吐いていた。


「隠密を纏める仕事も荷が重いと思っていたけど、まさかあの国に嫁に行くなんてね。……私はそこまで母に憎まれていたのかしら?」



 泣きそうな顔であるも涙は出ない。


 幼い時に毎夜ベッドで泣いていたから、既に尽きてしまったのだろうか?




「ううっ、お嬢様。なんてお痛わしい。このモルニは何処までも付いて参ります」



 乳母のその言葉を聞き、クルミナは悲しげに微笑みながら囁いた。


「あんな場所に貴女は連れて行けないわ。モルニは長生きして頂戴。私からのお願いよ」


「そんな……。この老いぼれでは役に立ちませぬか? せめてお側にお置き下さいませ」



 泣きながら縋るモルニを、クルミナは優しく抱きしめた。


「違うわ。大事だからよ。ずっと育ててくれてありがとう。傍にいてくれて心強かったわ」


「うっ、うっ。どうしてお嬢様ばかりこんなことに。努力を重ね、立派な淑女になられたのに。うっ」



 明かりも付けない静かな部屋で、乳母のすすり泣きだけが響いていた。






「本当だよ。こんな嫌な家なんて、捨ててやれば良い。あんた達、別のとこで暮らさない?」



 潜んでいたのに思わず姿を現したタバサと、彼女に付いてきていたブルーベル。



「ひっ! 何者です、お前達は! お嬢様には近付けませんよ!」



 クルミナの前に出て、腕を広げて彼女を庇うモルニ。

 それを優しく見つめ「大丈夫よモルニ。何かする気ならこんな風にせず、無言で事を起こした筈よ」と窘めたのだ。


「お嬢様……。分かりました」


 モルニはクルミナの横に下がり、それでも警戒を続けていた。




「貴女達は隠密ですね。何処の手の者ですか? 聞いても無駄かもしれないですが、聞かせて欲しいのです」


 震えもなく毅然とした態度を取る彼女に、タバサは感心して「適任ね」と呟く。


 そして徐に素性を明かしたのだ。


「私達はワッサンモフ公爵家の隠密だ。以前にここから逃げた隠密達もこちらで保護している。貴女には彼らの纏め役になって欲しいと考えている」


「ミズーレン伯爵家の隠密達は無事なのですね。良かった。既にこの世にいないのかと、案じておりました。感謝します」


 素直に頭を下げる姿に、タバサとブルーベルは困惑した。次期伯爵となる教育を受けてきた者が、こんなにあっさりと感謝するなんて思わなかったのだ。



「うん、まあ。それは良いんだ。そんなことよりあんたは2年後、無理やりカザンサススノーに行かされるんだろ? もし隠密達を纏めて貰えるなら、こっちも助かるしあんたにも都合が良いと思うんだけど、少し話を聞いてくれないかな?」




 クルミナとモルニは、顔を見合わせ頷いた。


「是非お願いします。聞かせて下さい」


「お嬢様に力添えしてくれるのなら、私にできることなら何でもします。ですから、どうか助けて下さい」



 タバサは真剣な顔で「こちらこそ、協力を願いたい」と話をしていくのだった。ブルーベルは静かにその状況を書き留めていく。



 隠密達は特殊な環境で生きてきた。

 その隠密達は今、ウンディーネのいるガシェーラル国にいるが、今後は彼らを統括する人材が必要である。


 彼らの経歴を知り、尚且つ外部との連絡が付きづらい場所で暮らしてくれる人材。その人物としてクルミナに白羽の矢が立った訳だ。



「そこはこれから開拓する場所(ジャングル)だし、立派な建物もない。今は平民の使うような家を建てている状態だ。実はあんたが来てくれる予定で、大きめの家の建築を着工している。

 幸いにしてあんたは隠密達に嫌われてないし、生い立ちに同情している奴らも多い。

 空間転移でしか行き来できない場所だから、故郷に戻りたくてもなかなか戻れない不便もある。

 けれど逃亡するなら、そこ以上の場所はないな。どうする?」



 クルミナとモルニは顔を見合わせて、うんうんと頷いた。


「是非、お手伝いさせて下さい。臨時でも何でも良いので、そこに住ませて欲しいです。私はこの家に居場所はありませんから。きっと母は何とも思いませんわ。……結婚で入ってくるお金がなくなって悔しがるくらいでしょう」


 言いきるクルミナに、ブルーベルは複雑な思いを浮かべた。

(親に振り回される子供がここにも……。私はまだ、マシな方なのかしら。少なくとも愛していると抱きしめて貰えたもの。いなくなったら、きっと少しくらい悲しむと思うわ……。彼女にはそれさえないと思う母親なのね)



「お願いします、私もお連れ下さい。不肖ながら、お嬢様のサポートは私が適任だと思っております。どうか身の回りのお世話やお仕事のこと、私めにお任せ下さいませ」


 勢い良く頭を深く下げて熱く懇願するモルニに、さすがのタバサもタジタジだ。



「ありがとう。依頼を受けてくれるってことで良いんだよな。後日また話しに来るから」


「はい、よろしくお願いします」

「どうか、よろしくお願いします」


「こちらこそだ」


 固い握手を交わす、クルミナとタバサ。



 クルミナとモルニの表情は、話す前より明るくなっている気がした。


 タバサとブルーベルはその場を去り、隠密がいなくなった伯爵家から悠々と姿を消す。ミズーレン伯爵家のセキュリティーレベルは今、かなり低い状態だった。




 タバサに救われたブルーベルは、クルミナもそうなれば良いなと微笑んだ。

 近くの森で待機していたメロアンと合流し、2頭の馬でワッサンモフ公爵家を目指し駆けて行く。


 まだ一人で馬に乗れないブルーベルは、今後乗馬の訓練を頑張ると宣言した。



「馬に乗って視界が高くなるのは、まだ少し怖いわ。でも一人で大地を駆けれてこそ、一人前だものね。頑張るわ!」



 それを聞くタバサとメロアンは、目を細めて頬を緩めるのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ