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弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


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コロネとラディッシュの昼食

 コロネはピスタテルとクルルの断罪に、ブルーベルが関わっていることを知らない。


 彼らが何らかの犯罪に荷担し、行方不明となったことは知っていたが、公にはブルーベルの名前は出ていなかったからだ。



 暫く公爵家に帰っていないコロネの情報源は、もっぱら食堂の女将さんや食事をしに来るお客さんからである。


 食堂で買っている庶民用の新聞は読んではいるが、ミズーレン伯爵家のような力のある貴族のことを詳しく書くと、潰される可能性がある。その為に口頭での話(主に噂)が、いろいろとぼやかされて伝わっていた。

 下手に話して訴えられそうな、正確な個人名や罪状を語るよりも、嘘か本当か分からない面白く脚色した話の方が安全なことを、多くの者が知っていた。


 例えば「何処だかの伯爵がよぉ、女の子に何かしたのがバレて大変らしいぜ」「ああ、聞いた聞いた。駄目な貴族もいたもんだなぁ」とかなら、ギリセーフである。想像で補完するパターンだ。


 飲食店では賑やかに適当な噂を、家庭では確信めいた話をこっそりと話すことが一般的らしい。



 ワッサンモフ公爵家に帰っても、ブルーベルに起きたことはコロネには秘匿されるだろう。彼女(ブルーベル)もスライスト達も、コロネに負担をかけたくないからだ。

 ブルーベルとしても、自らの意思で隠密として生きていくつもりなので、心配されて止められる訳にはいかない。

 仮にタバサ達が止めても、無理そうだ。



 今回のことを事前にコロネが知っていれば、ブルーベルの行動を全力で止めていた筈だ。

 彼女ならのことだから「自分が代わりをする」と言い出しかねない。

 それくらいくコロネは、公爵令嬢と言う立場に執着も未練も矜持も持っていない。

 最近まで彼女は、借金を返すデスゲームに巻き込まれた債務労働者だったからだ。もう馬車馬的に働き、返済することに快感を覚えてしまった。


 この快感が犯罪者を追いつめることに向いたなら、きっとあらゆる行動も辞さなくなるだろう。

 それをワッサンモフ公爵家の者達は、うっすら気付いている。


 全てはセサミが追いつめ、公爵家に宿る駄目スイッチを覚醒させたセサミのせいである。


 と言うわけで、コロネに真実は届かない。





 今のコロネは孤児院で文字を教え、教会でお菓子を作り、洋品店で刺繍をし、鍛冶屋で意匠(デザイン)の調整をしながら、目まぐるしく一日を終えている。


 クリムの件が片付いてからは、借金のプレッシャーから解放され自由を満喫している。でもその実態はワーカホリックにも似ていた。


 本人が楽しそうなので、良いのだけれど。





◇◇◇

 そんなコロネの住む食堂に、ラディッシュがフラリと訪れた。昼食を食べているコロネの横に座り、自らも女将さんにカレーライスを注文する。



「久しぶりだね、コロネ。今日はちょっと、相談があってさ」


 大盛りチャーハンを美味しそうに食べるコロネは機嫌が良い。食堂のメニューは何でも安くて上手いと評判なのだ。



「何よ、好きな人でも出来たの? 同じ年のよしみよ。何でも手伝うわ!」


「違うよ。恥ずかしいな、もう。仕事の話だよ。コロネの親戚で元チェロスト子爵の親戚がいたよね。販売を担ってる商会の。そこに頼みたいことがあってさ」


「えっと。それなら、お父様に頼んだ方が早いわよ。一時期サイダーさん達の商会で、経理もしていたし、仲が良いから」


「いや、さ。妖精達が僕とチャルメと君の頭に乗って、果物畑を見たいんだって。その親戚の人と、買い付けへ一緒に行って欲しいんだよ」



 頭に乗る?

 どう言うことかな?


 考えているとラディッシュが笑っていた。


「妖精は、信じている人の傍にいるのが楽みたいなんだ。だから手伝って欲しい。あ、チャルメは銀行創設者エアピゾーラ侯爵の直系なんだ。コロネも銀行には、お世話になってるだろ? その彼からの依頼が僕に来たんだよ」


「そうなのね。でも私で大丈夫かな?」


「大丈夫さ。何てったって、妖精側からのご指名だから。ちなみにチャルメは、あ、これは後でも良い話か」


「? 私は何処かで、その妖精に会っていたのね。面白そうだし、手伝うわよ。何時行くの?」


「じゃあ明日でも良い?」


「大丈夫よ。私は何処に行けば良いの?」


「あ、コロネは食堂にいて。みんなでここの朝ご飯を食べてから移動しよう」


「良いわね。じゃあ、待ってるわ」



 約束を交わした後、コロネは仕事へと出掛けて行った。


 すっかり庶民風に洗練された言葉と服装のコロネを見て、「僕のお店で会った時より、貴族感が抜けている気がするなぁ。まあ優秀な彼女なら社交の場に出ても、そつなく振る舞えるだろうけどさ」と、頬が緩むラディッシュ。


 彼も美味しいカレーライスに満足し、自分の店へと戻って行く。結界の張ってあるその場所に、訪れた客の気配はない。最早その場所は作りかけの魔道具の倉庫と化していたが、外出が増えた今はそれで良いと思えていた。





 チャルメと妖精達は、既にフルーツパーラー『エクラ』の本店と支店で甘味を味わっていて、町を走り回っているコロネのことも目にしていた。


 コロネの頭にちょこんと座っている、水の精霊が楽しそうだったから、コロネのことも信用できると思ったのだ。



 食いしん坊の精霊達は、今から明日を楽しみにしている。






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