モモ、ミントジュレから離脱する
世間にはピスタテルとクルルが失踪したと噂されていたが、彼らはエルフの国にいた。
その件に関わった女医ベザナは、彼らが死んだと思っていた。彼女達だけではなく、多くの者もそう考えていた。
それは手がかりが掴めぬ、ミズーレン伯爵家のタルテやクロダイン公爵もだった。
既に多くが、ワッサンモフ公爵家の配下に下っていたミズーレン伯爵家の隠密達は、レイアーの指示で調査を中断。その上で情報が掴めないと、上官貴族へ報告していた。
調査担当の隠密達はタルテの逆鱗に触れ、殴る蹴るの暴行を加えられたが、ワッサンモフ公爵邸地下の拷問とは比べるまでもなかった。
「本当に役立たずね。私のストレス解消にもならないわ!」
言い捨てられても、そよ風のようなものだった。
◇◇◇
数日前に先触れが送られ、本日はワッサンモフ公爵邸の庭園で、お茶会がセッティングされている。
モモ・コンポートナ(桃の髪)、ミントジュレの従者であるニフラ・ホーレン子爵令息(緑の髪)、側近候補のブルー・チーススト伯爵令息(青い髪)、バナ・ナダック(黄の髪)は、ワッサンモフ公爵邸に到着後、レイアーに案内され会場に向かう。
そこではスライスト、ミカヌレ、ラディッシュがガーデンチェアーに座り、ブルーベルが給仕していた。
「「「「今日はお招き頂き、ありがとうございます」」」」
「こちらこそ、来てくれて嬉しいよ」
「お菓子でも食べて、リラックスしてね」
「僕もお客さんなんだ。気楽に話そうよ」
ガチガチで挨拶するモモと令息達は、席に案内された。そこへ「いらっしゃいませ」と微笑んだメイド服のブルーベルに紅茶を用意され、タバサがスイーツを並べていく。
そして喉を潤した後、スライストからピスタテル達の顛末が話されていく。
ピスタテル達の行く末を聞いて、漸く落としどころがみつかった彼らは、思考を巡らせていた。
現在彼らはニズラッシェリル国(エルフの国)におり、肉体労働に就き贖罪している。今現在、それを生涯続けることが彼らの罰だ。
勤務態度により、減刑や増刑も考えられているそうだ。
ピスタテルは今まで、美しい美貌で女性を口説き利用してきた。またそれを繰り返すのではないかと、心配する声もあがった。
だが暮らすのはエルフの国だ。そこで暮らす者はみな、彼より美しい容貌をしていた。また内在する魔力の為か全身がエネルギーに満ち溢れ、輝いて見える。
エルフ以外の住民も、そんなエルフを見慣れている為、それ以下であるピスタテルをリスペクトすることはないのだ。
「それなら安心ですね。私はもう、それで良いことにします。これ以上恨むことを止めにして、自分の為に生きていこうと思います。いろいろと、ありがとうございました」
モモが言うと、二フラもそれに続く。
「僕も終わりにします。従姉達も今は、平民として頑張っています。まだ辛いかもしれないけど、彼から手紙を貰って少し気が楽になったみたいです。そして……彼が亡くなったと思っています。従姉もふっ切れたみたいです」
ブルーも言葉を紡いだ。
「騙し取られた金も全額戻って、謝罪の手紙も読んでいました。そして……やっと姉は部屋から出てきました。ピスタテルが死んだかもしれないと聞いて、涙を流して。初恋のようでしたから、思い入れもあったのでしょう。俺もこれで幕を引きます」
少し沈黙の後、バナも被害にあった叔母のことを報告した。
「叔母も……修道院で手紙を受け取ったそうです。彼女は『唆されても、人を騙すことをしてはいけなかった。秘密を共有すれば、ピスタテルを独占できると思った』と、今も懺悔の日々で。その罪の原因の彼が亡くなったと思い、涙を流していたと、母から聞きました。区切りがついた気がします」
エルフの国のことは、モモ、二フラ、ブルー、バナ達にだけ打ち明け、他の家族には内緒にして貰っている。だから彼ら以外は、ピスタテル達が自死していると思ったままだ。
そして他国の秘密とも言える、巫女のことを彼らに伝えたのにも理由があった。
実はサクラアイランドに住む、チャルメ・エアピゾーラ侯爵令息から、枯れた世界樹から若木が出てきたと報告があった。そこで育成が上手くいくように、妖精達の力を貸して欲しいとの依頼が、ラディッシュ経由でワッサンモフ公爵家に来たのだ。
スイーツのせいなのか、美味しい果物が多く実っているせいなのか、現在のユゼフィラン国は妖精が多く集まっている。
チャルメは銀行の創立者の子孫で、次期侯爵となる予定だ。今後ユゼフィラン国のスイーツ購入の太客となりそうな、大事な人物だった。
モモ達はまだ気付いていないが、それぞれレアな妖精が付いていたのだ。
モモは火の妖精。
二フラは生き物を育てる妖精。
ブルーは水の妖精。
バナが望めば、即太陽を照らすことができる妖精(晴れ男的な)。
そしてチャルメには、風の妖精が付いている。
はっきり言って、植物の育成には欠かせない妖精達が揃っていた訳だ。エルフの国がクルル達を受け入れたのは、世界樹の復活の為に彼らを率いれたい下心もあった。
世界樹の存在は世界にとって、それほど重要なものなのだ。
スライストは頭を下げて、彼らに懇願した。
「失われた世界樹の成長を、どうか助けて欲しい。それが世界の危機を救うことにもなるんだ。頼む」
そこは感謝しかないモモ達なので、快く受け入れてくれた。
「勿論、お手伝いさせて下さい。でも、サクラアイランドは遠いですよね。長期休みの時でも良いのでしょうか?」
モモの問いには、スライストの隣で聞いていたラディッシュが笑顔で答える。
「大丈夫だよ。僕の空間転移でなら、一瞬で飛べるから」
「空間転移? 一瞬で移動?」
何と言っても彼はエルフ。いろいろな魔法が使えるのだ。
「それなら、休日の日ならいつでも良いです」
「僕も手伝います」
「俺も可能な限り協力します」
「僕もお手伝いさせて下さい」
「ありがとう、みんな。チャルメ君も喜ぶだろう。また詳細は後日伝えるね」
スライストは胸を撫で下ろし、ラディッシュと頷きあった。ミカヌレも笑顔で微笑み、感謝しながらスイーツを進めるのだった。
「今日のお菓子は私も手伝ったの。たくさん食べてね」
「「「「はい、頂きます♪」」」」
気持ちを吐き出して緊張が取れた彼らは、スイーツとお菓子を十分に堪能した。
そんな和やかなお茶会の後、モモは思い出したようにミントジュレへの契約の解除を告げたのだった。
「金貨10枚、お返しします。コロネ様と婚約したのですから、北国の王女との婚約話はでないでしょ? 私これから忙しいので」
焦る彼に、笑顔で微笑むモモ。
「急にどうしたの? まあ、別に良いけどさ。本当にお金はいらないの?」
「ええ、良いんです。お世話になりました」
そしてモモが去り、側近の二フラ達もよそよそしくなっていく。ちなみに彼女が当初、男子生徒に金品をねだっていたのは、ミントジュレの目を引く為の演技だった。協力者はブルー達である。
ミントジュレはモモがいなくなったことで、女子生徒にモテモテになり、追いかけまわされていた。
「僕にはもう、婚約者がいるんだってば。近付かれても困るよ!」
「学生の時だけで良いんです」
「思い出を下さい」
「写真だけでも~」
6歳も年の離れているコロネが相手なら、何とか出来ると考える肉食女子が多かった。無駄に彼が美形なのも、厄介なだけだった。
彼が誘惑に負ければ、コロネの婚約も解消されるかもしれない。コロネの男避けには丁度良いけど、結婚しても合わなそうなので見守っている隠密達だ。
「コロネ様に、優柔不断な男は似合いません」
「カザンサススノーの見合いだって、自分で強く断れば良かったんだよ」
「はた迷惑な王子じゃ。知力も体力も中途半端な癖に、悲劇の王子を気取ってからに」
ワッサンモフ公爵家の隠密達には、評判が最悪だった。たぶん自分でも顔が良いと、無意識で鼻にかけているせいだろう。
そんな訳でモモは、悪女から卒業したのだ。




