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弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


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断罪、ある意味救い

 ミズーレン伯爵家の隠密のルーツを遡れば、一人の男に行き当たる。


 カザンサススノー国から亡命した、貴族のライチだ。後にミズーレン伯爵家の暗部を、婿入りした彼がひな形を作り、今の隠密組織へと変えていった。





 ミカヌレの幼少期より、もっとずっと昔のこと。

 貴族の横暴が強く、人々の階級がもっと細かく決まっていた時代だ。同じ貴族とてその輪から弾かれたら最後、のたれ死ぬか奴隷となり物のように扱われることが普通なくらい。


 だからこそ高位の貴族に嫌われぬよう、みな必死にへりくだり、時に命がけで家の為に戦っていた。


 そんな時代の亡命理由は、ライチの父親であるスイッカにあった。


 エルフの住むニズラッシェリル国とカザンサススノー国が戦った際、傷を負ったスイッカが恐れをなして戦場で震え、テントに籠りきりとなる醜態を晒した。

 今までの戦闘では、後方支援の名目で直接戦うことなく後方で見守るだけだった為、訓練も碌にしていないスイッカは耐えられなかった。

 それほど苛烈な、負け戦であったとも言えるだろう。



 けれど彼(スイッカ)の父である先代の侯爵が、国に貢献した高潔な武人であったことで、貴族位は剥奪されるが、資金の持ち出しだけは許可されたのだ。


 戦時中故、士気があまり下がらぬよう、罰がそれだけなのはせめてもの恩情だった。先代侯爵を慕う軍人が多かったことで、反発を防ぐ意味もあったのだろう。


 譲歩された恩情だが、先代侯爵夫人に甘やかされて育った彼はそれを無に変えた。先代侯爵夫妻は既に鬼籍に入っており、人の忠言を悪意に取る横暴な彼を止める者は数を減らし、そして居なくなった。


 黙って市井で暮らせば良いものを、矜持だけ高きスイッカは、大金を投じて一家で船に乗り込み他国に亡命してしまう。


 そこでは何の地位もない、ただ父親でしかないスイッカは、唯一離れない家族を利用して贅沢を手にした。


 娘レンゲを金だけはある、年寄り貴族の後妻に押し込み、息子ライチを男爵家の用心棒にして。



 肉親と言う親の呪縛から逃れられない子供達。それに従うことでレンゲは死に、ライチは流れに流れて隠密となった。





 傷付いて、でもそれでも生きて、生き延びていたライチ。

 妹(レンゲ)の優しい声だけが、ずっと薄れず心に響いて。失くしてしまった後悔だけを胸に刻み、年に一度懺悔する為に墓参りに行く。

 喜びも悲しみもなく、早く楽になりたいと思うことと同時に、顔向け出来ない後ろめたさがあった。


 流行り病にかかった妹は、薬が高額だからと与えられず、男爵に見殺しにされた。ただの風邪だと言われ会わせて貰えず、亡くなってからその仕打ちを知ったライチ。

 それでも「助られなかった自分も、加害者なのだ」と思い込んで。


 そんな狭量な心持ちの妹ではないことは、十分に知っているのに。そうであったなら、こんなに苦しむこともなかった筈だ。


 男爵は煩く騒ぐスイッカに、多額の慰謝料を支払い口をつぐませた。それを見たライチは両親を許せず、何も言わずに姿を消した。




 そんな前世を、ピスタテルは背負って生きていた。忘れて生きていたけれど…………。






 モモの母チェリーがピスタテルに頼まれ、パーティーで彼女(チェリー)の友人である貴族令嬢に渡した催淫剤入りの酒は効果が薄かった。彼女の家の教育で行われていた、あらゆる毒耐性をつける訓練のせいで、少し眠くなる程度だったのだ。


 多くの者から恨みを買う、15歳も年上の婚約者の毒味役として嫁ぐ予定だった友人は、そのチャンスを最大限に生かした。その婚約者が高圧的で嫌みばかりの、どうしようもない奴だったから余計に。


 その後、催淫剤の影響で(と言うことにして)結ばれた友人とその男性は結婚した。男性は元婚約者と彼女の家に慰謝料を払って謝罪もした。


 結婚した男性は友人の幼馴染みで、彼女と元婚約者の結婚に反対だった。何故なら彼女のことが好きだったからだ。

 偶然に酒場で、ピスタテルと話すことがあったのだ。酔いもあっていつの間にか、多額の金銭と引き替えに依頼していた。夢でも良いから、彼女と結ばれることが叶うならと。



 家格のせいで諦めた恋だが、両思いだったから。


 二人の事後にはピスタテルが酔った振りで騒ぎ囃し、周知されたことで元婚約者は婚約破棄するしかなくなった。

 

 偶然ながらも、チェリーの友人は不幸にはならなかった。だからチェリーが亡くなった時、友人は激しく泣いて悲しんでくれていた。



 モモがそれを知ったのは、レイアー達の調査が済んで、クルルとピスタテルが居なくなってからのこと。

 モモは墓前でそれを報告し、安らかに眠って欲しいと呟くのだ。



 その友人の生家は、いつの間にか没落したらしいと風の噂に聞いたが、聞くつもりはなかった。





◇◇◇

 西の国、ニズラッシェリルはエルフの国。

 そこには過去と未来を見通す、特殊能力を持った者がいる。それに付随する、死者の声を聞ける霊媒能力も共に。国を担う王族とは違う、もう一つの尊き存在は『巫女』と呼ばれる。


 一説にはエルフと神の堕とし子だと言われ、白い装束を着た老婆の姿をしているドンペリーク。


 彼女は5代目のドンペリークと言われている。10歳になる頃に古来から伝わる宝玉の水晶に多くの生命力を注ぎ、その姿を老婆に変える。


 必要がある時に力を取り出し、不可能とも呼ばれる術を使い人々を導く存在だ。


 巫女は子を生むことはなく、現役の者が亡くなる数年前に、使命を持って生まれてくると言う。普通のエルフよりも長寿である巫女だから、誕生の時期を逃せば、詳細を知る者も限られていくようだ。



 エルフの女王エブラントは、巫女に依頼を行う。クルルとピスタテルの断罪の為に。


 未来視は莫大な力を使うが、過去視は僅かな魔力で行えると言う。それでも稀有な能力は安売り出来ない。


 ……のだが、発案者は女王(エブラント)の弟であるラディッシュな為、エブラントは頭を抱えていた。


「国の極秘情報を軽々と口にするなんて……。まあコロネ達のことは信じてはいますし、愚弟がお世話にもなっているから反対はしませんけれど」


 ヤル気満々のツンデレである。そして是非とも秘術が見たかった。



 そんな感じで、彼らのことを叱責して貰う予定なのだ。


 クルルはピスタテルを救う為に、世界樹の世話を生涯行うことを誓いこの国にいる。亡き者の声を聞かせるのも、彼らの罰の一つなのだ。


 

 以前から予定していた今日この時間。

 過去と未来の境界が曖昧になる特別な一日。


 女王エブラントと見届け役のラディッシュ、クルル、ピスタテル、そして巫女が社の庭で儀式を行う為集まっている。

 少し離れた所には、女王の侍女と護衛も待機していた。





 クルルには、亡き妻ジルミの声を聞かせるつもりだ。


 ピスタテル自身はと言えば、亡くなった中に会いたい者はいなかった。幼い時に亡くなった母親のことは覚えてもいないから、特に感情は動かないと思っている。



 巫女は嘆息して呟く。

「この子は何かが欠落しているねぇ。いつ死んでも良いくらい、生への執着も希薄だし。それなら、前世を見てみようかね」



 その言葉にピスタテルは、さすがに嫌そうな顔をした。

「今の俺じゃなくて昔のことなんて、たぶん思い出せないよ」


「良いんだよ、お前は何もせずとも。ただ過去と向き合った時、心は時を超えて瞬時に鮮明となる筈だ。私が頼んで一喝して貰うからの」


「寝ちゃうかも。肉体労働で疲れてるんだよ」


「起きるさ。勿体なくて、きっと寝てられなくなるぞ。まあ、静かに待つことじゃ」


「は~い」



 そう彼を宥めつつ水晶から力を得る彼女は、まず最初にジルミを呼び出すことに。


「おいでませ、ジルミ。どうかクルルを導いとくれ!」



 そんなふざけた言葉の後。

 空中には強い稲光の刹那、光に包まれたジルミが姿を現したのだ。



「おおっ、ジルミが! …………元気そうだ、良かった」



 亡き母と会った瞬間、懐かしさで顔が幸せそうに緩むクルル。ピスタテルはそんな父親を初めてき見た気がした。








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