不遜なクリム
執務室にコロネを呼びつけたクリムは、ニヤつきながら当主席に腰を掛け、上から目線で彼女に話をする。
「コロネよ。今まで会うことはなかったが、俺はお前の叔父にあたるクリム・チェロストだ。今現在お前の母は出奔状態で、父は生死も分からぬ行方不明だ。だから俺は助けてやる為に来たのだ。そこまでは理解できるか?」
幼いコロネには理解できないと思っているのか、かなりの慇懃無礼さだ。
ずっとミカヌレ付きの侍女だったアンナはコロネの後ろに控えており、表情は変わらないものの、膝上で重ねている手はきつく力が込めて握られていた。
それを不意に気付いたコロネは、クリムの態度が相応しくないことだと分かった。アンナだけではなく、家令や侍女長やメイド長もピリピリしていることに気付く。
「私ではまだ理解できないことも多いため、領地の管理は現在、家令のレイアーなどに任せています。家政は侍女長のメロアンに、邸の整頓や食の管理はメイド長のタバサに。セサミお祖父様にもそれで了承を得ておりますが、不都合がおありでしょうか?」
嫡女であるコロネは代々ワッサンモフ公爵家の教育を担う、ラフレスシア家の者から教授を受けていた。
現在の教師はルチーズ・ラフレスシアで、クリムが教えを受けた者の娘であった。彼女が母親に尋ねれば、クリムの昔の学習状態はすぐに分かるだろう。
クリムは学習をやる気がなくて成績が悪く、優秀な兄であるスライストに、ただただコンプレックスを抱いていた。彼が家を継く訳ではないので、厳しく言われないだけだった。
けれどクリムは諦めずに、コロネに言い募る。
「お前の祖父であるセサミは、俺がここに来ることを止めなかった。それは俺にも継承権があるからだ。考えたくはないが、もしスライスト兄上が見つからなければ、今後のことも考える必要があるだろう」
クリムは何故か余裕な態度を崩さず、当主気取りで話を続ける。
「そうですね。今後のことを考えることは必要でしょう。私もお祖父様に連絡を取ることに致します。それではこれで失礼しますわ」
コロネはとりとめのない話を一通り聞いた。席に座ることもなく、立ったままで1時間ほどを。
特に何を決めるでもない、無駄な時間に感じた。
席に座らなかったのはクリムが勧めないことで、すぐに終える用だと思ったからだ。それが1時間も、正式な公爵家の嫡女を立たせていたのだ。
使用人は怒り心頭だったが『せっかくだからコロネの適性も見てみたい』と、セサミが言うものだから準備も済ませている。
クリムが何かしても、ワッサンモフ公爵家が揺るがないように。
コロネはセサミに宛てて、手紙を認めた。
その答えは『お前の考えるようにしてご覧』の一言だった。
「なるほど。私はお祖父様に試されているようです」
それに気付いたコロネは大きく深呼吸をして、自分の考えのままに動き出すのだった。




