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宿縁モノローグ  作者: ゐぬい
一章
3/3

ブラックアウト・マジックダウト 2

あいかわらず不定期投稿。

一ヶ月一本かな?

 全てが、狂った。

 何が原因かは、今となってはわからない。

 わかることは、もう既に面倒ごとに巻き込まれていて、それは現在進行形であることだ。

 仕方ない。ここは割り切るしかない。この先、どう転ぼうが、いずれの道も沼だ。

 覚悟を決めてドアを開けた。

「賀茂くんだね?さっきの聞こえちゃった!」

 教室の中にいたのはクラスメイトの女子だった。身長は俺よりも少し低いぐらい。茶色の長髪で、クリーム色のセーターを着ている。

 名前はわからないが、文化祭の話し合いのときにちらりと見た。無口でおとなしい奴だった。文化祭には無関心そうな顔をして、黒板を見つめていたのは覚えている。

 が、今は違う。そのカラっとした声から明るい印象を受ける。

「どうしたのかな?」

 俺はその質問を気にすることなく、自分の席へ逃げるように向かう。

 案の定、上着がかけてあった。

「忘れ物かな」

 目を合わせることなく教室を出ようとしたとき、

「窓、確認しないの?」

 …………クソ。あの担任恨むぞ。

「最後まで残っているであろう君が確認してくれるだろう?」

「……」

 先程まで語りかけてきたのに、急に押し黙った。背を向けているからどんな表情かわからない。

「さっき、見たでしょ?」

「……」

 今度はこっちが黙る番か。

 この回答は大切にしなければならない。見たと言えばただじゃ済まされないだろう。見ていないと言ったとしても、その先が不透明すぎる。

「私が何してるか見たんだ」

 確認するように聞いてくる。

「……ああ」

「そっか」

「ただ、君が何をしようが俺の知ったことじゃない」

 背を向けたまま言う。

 そう、この先も知ることはない。

「それならいいんだけどね……」

「それなら?」

「賀茂くん。そこ座って」

 従うしかない。ただし、どんな事情であれ俺は無関係でいる。今日の接触は明日とは何も関係ない。そういうスタンスでいるつもりだ。

 言われた通り、そいつの席らしき場所の前の席に座らされた。

「まず、私が何をしていたか、ね。説明するから」

 俺の座る席の周りをくるくると回り始める。

 緊張を隠すように、俺は白ばんだ黒板を見る。

「花びらを燃やしていたのは見えた」

 そう。その証拠に彼女の席には何かのカスと小さくなった蝋燭が残っている。

「実はね。あれは儀式なんだ」

 儀式?ミサということだろうか?

 彼女は熱心な宗教家だろうか。

「君は儀式と言ったがーー」

「君じゃなくてはる!」

「上は?」

「土御門だけど?」

「土御門さん。儀式ってなんだ?」

「賀茂くんは刑事みたいな聞き方をするねぇ」

 ニヤニヤとこっちを見てくる。

「質問に答えたらどうだ?」

「……そうだよね」

 言葉を選ぶように話し始める。

 そこには先ほどのような明るさはない。

「私の家系はね。代々魔女って言われてたんだ」

「魔女?」

「そう!すごくない?!魔女だよ。しかも日本の!」

 無邪気な子供のように、興奮しながら話す。

「で、その魔女がなんだ」

「私の母親もおばあちゃんもすごい魔女だったんだけどね。私には才能がなかったの」

「魔法って才能なのか?」

「ある種ね。魔法自体は使えるんだけど、成功しないの」

「で、君がその儀式とやらを使っているのと何が関係するんだ」

「君じゃないってば!」

 めんどくさいな。

「あれはね。魔法じゃないの」

「は?」

「黒魔術って知ってる?」

「黒魔術……」

 知ってはいる。

 黒呪術、とも呼ばれるそれは、いわゆる外道。他人に危害を加えたり、はたまた自身の欲望のために働いたりする魔法のこと。

「私が手を出してしまったのは、"それ"」

 本来、魔女であれば、それも家系的に伝わるような魔女であれば、黒魔術など当然タブーなのだろう。

「自分の欲しいもののために使っちゃった…」

 あろうことか、"それ"に手を出してしまったわけだ。

「だからね。あの儀式は一種の呪いなの。あ、でも、呪いと言ってもそんな邪悪なものじゃないからね!」

 取り繕うように、補足を続ける。

「私が呪ったのは自分だから!」

「自分を呪う?」

「そう!自分におまじないをかけました!」

 おまじない。漢字でお呪い。

 どんなまじないだろうか?祝いか、呪いか。

「でね、呪詛返しがあるんだよ」

「……」

「今回はちょっと特殊でね。私自身にかけた呪いがそれを目撃した人にもかかるんだよね」

「……つまり。俺もそのよくわからない呪いにかかったわけか」

「ハイっ!私とお揃いだね!」

 さらに面倒になった。

 自身にかける呪いだから、死にはしないだろうが、そもそも魔法というもの自体、安全であるはずがない。

「解呪はできないのか」

「できるかもしれないけどわかんない!」

 バカかこいつは。

「お前の親とかもか?」

「たぶん無理です……」

 少し言葉を濁したような気がした。

「何の呪いだ」

「あー。それね。うんうん……」

「早く答えろ」

「もう帰ってもいいよ!」

「……」

 こいつ答えない気か?何か知られてはいけない事情でもあるのだろうか?

 が、知ったことではない。こっちは実質被害者だ。忘れ物を取りに戻ったら問答無用で呪いをかけられたんだ。知る権利はあるはずだ。

「早く言ったらどうだ?それとも俺が明日から学校中にお前が変な呪いをかける頭のおかしいやつだと言いふらした方がいいか?」

「頭のおかしいは余計だよ!!」

 そこなのか?

「さあ、選べ」

「むーっ。意地悪だな賀茂くんは!」

「そうだが?」

「……わかったよぉ!答えるよぉ!」

 少し悩んでその呪いの内容を、短く、言った。

「運命の人を見つけるおまじない」

「……運命の人?」

「えへへ…」

 何照れていやがる。

「詳しく説明しろ」

「そのままだって!運命の人が早く来ますようにっていうおまじない!」

「…そうか」

 それを聞いて安心した。

 俺には関係ないから。

 もう用はないと席を立つ。

 しかし、世の中には可哀想な人もいるものだ。運命の人が来るだなんて幻想を抱くなんてまるで低学年だ。

「必ず来るってわけじゃないけど、想いが強いほど早く来るよ!」

「いらない補足をどうも。用が済んだならとっとと帰れ」

 いつの間にか五時を過ぎていた。

 戸締りをしようと近寄った窓から見えるのは、すっかり日が落ちた淡い青色の空。

 土御門もどうやら帰ったようで、教室からその影は消えていた。

 帰る時間が予定よりも一時間ほど遅れてしまった。かといって、この後何か予定があるわけでもない。多少遅れたところで心配する親もないから、安全運転で帰るとしよう。

 薄暗い廊下を抜けて昇降口に着く。まだ部活はやっているようで、野球部の流す爆音のJポップが聞こえてくる。

 止めておいた自転車は違法駐車として持っていかれることはなかった。

 が、その自転車前にいた。

「思ったよりも早かったね」

「何の用だ、土御門」

「一緒に帰ろうよぅ!」

「なぜ」

「……まあ特に理由はないかなあ」

「じゃあ俺は帰る」

「待って待って待って待って!!」

 帰ろうとする俺の自転車の後ろを掴んで止めようとする。

「ちょっと!可愛い女の子が君のことを待ってたんだよ!察してよ!」

「俺に察する義務はないが?」

「賀茂くんはホントにさあ!!」

 本当にと言われても。こちらが願ったわけではない。

「もうこんな暗いんだよ?!か弱い女の子を途中まで送ってあげなよ!」

「……お前ーー」

「だからぁ!」

「お前の帰る方向は研究病院の方だな?」

「え?あっ、そうだけど」

「日が沈むのはちょうどそっちの方だ。だから明るい」

「ぐぅう!!」

 わけのわからない奇声を出すと、両頬を膨らませて地団駄を踏みながら言った。

「早く帰らないと日が沈む」

「私は!賀茂くんに!送って欲しいの!」

「なぜその必要があるんだ」

「乙女に理由は必要ないの!」

 つまり乙女は合理性では動かないということだろうか?

 いや、そんな下らないことを考えている隙はなく、問題はこいつの我儘をどうするかだ。

 俺個人としては誰かと一緒に帰るなど面倒でしかない。家まで送るなど以ての外だ。他人のために尽くす必要があるのはそれ相応の対価が払われたときのみ。それがサービス業というやつだ。

「それは何かの報酬があっての話だろうな?」

「なんでよ!?」

 どうやらこいつに払う気はないらしい。

「そういうのは対価があってだろう」

「えでも私お金ないし……」

「じゃあこの話はなしだ」

「……わかったよ。体で払えばいいんでしょぉ」

 メソメソと言いながら上に来ていたセーターを徐に脱ぎ始める。

「何してんだ!」

「あ、ごめんね。たぶん家には親がいるからここじゃなきゃ……」

「そういうこと言ってんじゃねぇ!!」

「え?でも対価って言ってたじゃん。賀茂くんも好きでしょ?」

 ……駄目だ。これ以上はおそらく無駄に体力を消耗するだけだ。

 仕方ない。ここは譲歩して、明日以降は関わらないでもらおう。それが今できる最善の手だ。

 ため息ひとつ。

「わかった。もう対価は求めない。今日だけ送っていってやるから」

「え、ホント?やったぁ!!」

「とっとと行くぞ」

「は〜い」

 それから俺は自転車を押して歩き始めた。土御門は自転車を挟んで反対側を並ぶように歩く。十分にタイヤが回っていないから、自転車についたライトはチカチカと点滅して、頼りなく行先を照らしている。

 校門にある時計は薄暗い中すっかり五時半を指していた。こんなに遅くまで残っていたことはない。

「賀茂くんはさ」

 不意に土御門が話始める。

「私が魔女だって言っても大して驚かなかったよね」

 確かにそうだ。動揺はした。でも驚きはしなかった。

「誰が魔女だろうと関係はないだろう?」

「まあ、そうなんだけどさぁ」

 冷めてるよねぇ、と漏らす。

「あ、でも。結局魔法にかかったじゃん」

「呪いだけどな」

「呪いじゃないです!おまじないですぅ!しかも運命の人だよ!」

「運命なんて所詮確率じゃないのか?」

「違うよぉ。もしかして賀茂くんは誰かに恋したりってことない?」

「ないな」

「じゃ、これからが楽しみだね」

「確実にくるわけじゃないんだろ?」

「そうだけど」

「だから俺には関係ないんだ」

「えぇーー」

 やけにオーバーリアクションで驚く。

「ロマンがないね」

「必要ないね」

 そう。面倒な人間関係など必要ない。

「あでも」

 土御門は思い出したかのように話を続ける。

「もし、君に恋する人がいたら、その人とくっつきやすくなる、っていうようなおまじないでもあるから」

「つまり誰にも好かれなきゃいいんだな」

「違ぁう!」

「騒ぐなよ」

「賀茂くんは自分をもっと大切にするべきだよ!」

「体で払うとか言ってた奴が何を言う」

「いやっ…。あれは違うから!」

「そうしたかったなら俺以外にするべきだったな」

「…………」

 しばらく静かな時間が続いた。

 通り過ぎる車のエンジン音のみが隣をときたま賑やかしくする。

 土御門がボソッと何か呟いた気がした。

「何か言ったか?」

「……いや。なにも!」

 ニコッと笑った。気がした。

 その目は俺が誰かと話すときの"ソレ"に似ていた。

「あ、じゃあ私ここでいいかな」

 いつの間にかスーパーの前まで来ていた。どうやら家はもう近くにあるらしい。

「そうか」

 余計な詮索はお互いのためにも避けるべきだ。

 俺は軽く会釈をして、自転車に跨った。

 すっかりと日は落ちていて、街灯がポツポツと静まる道路を照らしている。

 

 明日からどうなるのだろうか。

 平凡な生活とは一生の別れを告げてしまうのだろうか。

 自ら望んで普通を選び、普通を押し通し、普通で押し殺した。それは苦痛ではなかった。むしろ普通でなければならない。神秘は心の歪みに付け込む。そこに付け入る。

 だからこそ、俺とあいつはもう関係性を持つべきでないのだ。

 いずれ今日のこの数時間はなかったことになる。


 誰も観測しなければ、そこには何もないのだから。

長い永いな害ない?が名がゐ

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