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第9話 腐ったブドウ

◆駆動音


(マズイ!マズイ!マズイ!)


クーラは額に汗を浮かべ、畑に全力で向かっていた。


【ボルキ菌】。そんなにヤバい代物を使っていたなんて。なんで、そんな綱渡りみたいな作業をするのよ。あの女絶対に狂ってる!


入り口をくぐり畑へと向かう。すると背中にボンベの様なものを背負った男性が霧状のキラキラとした液体をブドウに撒いていた。


「ちょっと、貴方!今すぐ止めなさい!」


しかし、聞こえてないのか。辞める素振りは感じられなかった。機械の駆動音が声を遮っているのだろう。


「止めろって言っているでしょ!」


今度は肩を掴んで声を荒げた。そこでようやくその男は手を止めた。


「……ッ!……どうかなさったのですか?」


青褪めた顔の男は、今から説教をされるのではと怯えている様にも見える。しかし、今はそんな事どうでもいいとクーラは叫ぶ。


「作業は中止よ!撤収なさい!」

「わ、分かりました」


クーラは慌てて周りを見渡すと、多くのブドウは湿っているように見えた。これはつまり、作業終了が間近だったということだろう。


嘘…でしょ?もう殆ど終わったというの。ツーと額から、冷たい汗が首筋を渡り地面へと落ちた。


落ち着きなさい。と、クーラは自身に訴えかける。


そうよ。何も駄目になったと決まったわけでは無い。あの男、ルーチェが昨日分までは、イラリアの残していった指示書に従って作業をすると言っていた。そうよ、今日一日でダメになるわけがないじゃない。


途端に自分が冷静になっていくのが分かった。


取り敢えずブドウを見てみましょう。目の前に立つ男を退けると、畑に足を踏み入れブドウの様子を見てみる。


だがそこには、クーラが予想していなかった驚愕の光景が広がっていた。


「何よ……何なのよお!これはあっ!?」


クーラは、欠かさずに手入れを重ね維持している自慢の髪をぐしゃぐしゃに掻き毟った。


当然クーラも一般人と同じくらいにはブドウを見たことはある。色や粒の大きさは違えど、どれも皮に張りがあってつやつやとしていた。


しかし現在、眼前に広がるブドウはどうだ?どれもこれも酷く萎びて薄い茶色がかった色をしている。端的に表現するならば、腐りかけのそれだ。


仮にレストランに行って、こんなブドウを出された日には10人中10人が激昂してブドウをウエイターに投げつけるだろう。


正直に告白すれば、今後もなんだかんだで他の人間がある程度上手くやっていくだろうと考えていた。しかし、いざこんな光景を見せつけられては、そんな悠長なことも言ってはいられない。


どうする、どうする?


焦りで気が狂いそうになった時、一つの案が彼女の脳裏を過った。


そうよ。考えてみれば菌を散布したのは本当についさっき。あの一瞬で、ここまでブドウがおかしくなるわけないわ。ならば手はある!


「そこのアンタ!」


と、先ほどまで、菌を撒いていた男性を指差した。


「は、はい。何でしょう」

「今すぐ、ブドウに水を撒きなさい!」

「み、水ですか?」

「そうよ。何度も言わせないで頂戴。今すぐに、菌を洗い流すように丁寧に何度も洗いなさい」

「か、かしこまりました。それでは、この指示書に内容とサインをお願いします」

「早くなさい!書いておくから!さっさとやりなさい!」

「は、はい!ただいま!」


男は準備に取り掛かる為、機材室へと全力で駆け出した。


思わず笑みが零れる。


これでいい、完璧よ。私はブドウの異変に気が付いて直ぐに対応を試みたが間に合わなかった。悪いのは、こんなになるまで報告を怠ったルーチェ。そして、的外れの指示を出してこの城を去ったイラリア。


そうよ!お城を追放されたから、その腹いせにこうなるように仕組んだのね。


これで私は部下と前任の嫌がらせによって、被害を受けた哀れな後任。上への報告には十分過ぎる内容だわ。


まずはルーチェに連絡して詰問ね。日頃の鬱憤を晴らさせてもらうわよ。


そして何より、ざまあみろ。田舎娘!私を憚ろうなんて10年早いのよ。フフ、でも良かったじゃない。これでお城に戻ってこれるわよ。


《罪人としてね》



◆風邪かもしれません


「つまりですね。1つのリンゴを3人で分けるには…へ、ヘクチュ!」


ウっ~。お鼻がムズムズします。どなたか、私の噂でもしているのでしょうか?それとも風邪ですかね?熱は無いようですが気を付けましょう。


「どうしたの?お姉ちゃん。お風邪ひいたの」


アミちゃんが心配して、こちらを見上げます。


「いいえ、大丈夫です。お姉ちゃんは丈夫ですから。それより、算数のお勉強を続けましょうか」

「うん!」


あ。っと、アミちゃんが思い出したように私に教えてくれました。


「リンゴって云えばね。お兄ちゃん。アミがお風邪をひくとリンゴのリゾットを作ってくれるの!すっっごく美味しいんだ」

「リンゴのリゾットですか?」


ルカさんが作るのですから、それはもう美味しいのでしょう。どんなお皿なのか気になるところです。


恥ずかしながら、この数日で胃袋を完全に掌握されてしまいました。それはもう見事にです。ルカさんに風邪かも、と言ったらとても美味しい病人食を作ってくれるかもしれません。これは悩ましいですね。いえ、人としてはダメなのですが。


途端にキューと、お腹が鳴りました。


「……うーん、アミちゃん。お姉ちゃん、ほんの少しだけ風邪かもしれませんね」


恥ずかしも相まって少しだけ頬が紅潮しました。


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