第8話 ルカの才能
◆夕食にて
正直に申し上げますと、テイスティングは最低レベル。という事を想定してカリキュラムを組んでいたので、思ったよりも早く終わりました。
そこで本日は、少し早めに切り上げる事にしました。
「しかし、イラリアさん。教え方がお上手ですね」
「あら、お褒めに預かり嬉しいです」
現在、ルカさんは夕食のお料理を作ってくれています。私はアミちゃんと一緒に机に座って、お料理が出来るのを待っていました。アミちゃんは学校に通っていますが少々離れた場所に在る為、出発は早く帰りは夕食前と多忙な生活を送っているようです。
「良いな―。私もお姉ちゃんとお勉強したい」
「良いですよ。お姉ちゃんは、算数と理科が得意なので教えてあげます」
「本当に!やった。」
私の手を握り締めて、ご自分の頬にぐりぐりと押し付けています。本当に可愛いです、今度一緒に遊びに行きたいです……何処が良いでしょうか?
「よし完成!アミ、運ぶのを手伝ってくれ」
晩御飯が出来たようです。私は見ていただけなので大変恐縮ですが。
わあ、朝ごはんに引き続き美味しそうです。メインは牛肉のローストですね。何かソースが掛かっています。添えられているのは、ジャガイモのピューレでしょうか。
「ちょっと豪勢にしました。実は、今朝早くに知り合いが子牛を分けてくれまして」
それではいただきます!と、手を合わせた時でした。
「あ、そうだ。イラリアさん」
「何でしょうか?」
「実はメインの子牛の料理なんですが。僕なりに先ほど飲んだワインと合うように作ってみました。良かったら合わせてみて下さい」
あら、それは嬉しいご提案です。嬉々としてワインを用意します。
「ああ、アミはこっちのブドウジュースと一緒に食べてごらん」
ルカさんはワイングラスにジュースを注ぐと、それをアミちゃんの前にコトリと置かれました。
「では、早速頂きます」
私はピンク色にソテーされた子牛に、赤いソースをつけて口に入れました。
……美味しい。脂身の少ない部位で、ほんの僅かにパサついた感じもしますが柔らくて旨味が強いです。そして、このソースはイチジクをメインに作ったものですね。イチジクの甘みが、お肉の旨味を高めています。
もう直ぐ食事を飲み込む、そのタイミングでワインを口に含んだ瞬間。
口の中で火花が散ったのです。
僅かにパサついていたお肉の繊維に、ドクドク!とワイン染み込んでいくと最高の食感に昇華されていきました。ワインと肉汁の合わさったそれはそしてイチジクソースを中心にして、様々な果実の風味が一気に口から鼻孔へと突き抜けていったのです。
「これは……!」
私は思わず無言になってしまいます。不安げな表情を浮かべるルカさん。
「すいません、お口に合いませんでしたか?」
「……このワインをここまで活かすなんて、私には無理でした。お肉が僅かにパサついたのは狙ってのことですね?」
「ええ、元々脂肪が多い部位ではないので熱を通すと固くなりやすいですし。だったら、それを利用してみるのも面白いかなと思いました。口にワインを含むことで完成する。そんな皿を構想しました」
アミちゃんを見ると、凄い勢いでお肉とブドウジュースを頬張っています。あちらも試してみたいですね。
「……ッ!!」
少し悔しいです。美味しいワインを作ることは当然ですが、私の業務にはマリアージュ。つまりどんな食事と一緒にそのワインを呑めばより美味しくなるのかを提案する、というものもありました。城内のコックの方々と相談をしながら、様々な皿を国王をはじめ上役の方々に試して頂きお褒めに預かってきました。
なのに、この皿を食べた瞬間まるで……
『正解はこれだよ』
と、答えを教えて貰った気持ちになったのです。初めてこのワインを飲んだばかりの方に。
ルカさんは無言の私に少しだけオドオドしています。
「ええと、もしかしてお褒めに預かれていますか?」
本当に凄いです。味覚もそうですが、このワインの香りの中心をイチジクと定める辺り、かなり嗅覚のバランスに優れた方の様です。そして僅かな時間でこれほどの料理の構想を形にする技術力。
これなら、もしかして……!
「ルカさん!」
「は、はい!」
「ご提案があります。ワインコンクールについてです」
優れた味覚と嗅覚。彼ならば、あの作業を私以上のクオリティーで行えるかもしれない。いえ、きっとできるはず。
新たなワインの可能性に私はワクワクしながら、残りの料理を戴きました。
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