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第6話 家族の写真

◆母親の部屋


ルカさんにワイン作りをお手伝いすると約束した、その日の夜の事です。


「それでは、お部屋はここを使ってください。母が使っていた部屋です。あるものは自由に使って頂いて結構ですから」

「ありがとうございます。そういえばお母様は今どちらに?」

「母は3年ほど前に亡くなりました。だから今は、アミと僕しかこの家には住んでいません」


思わず神妙な顔をしてしまいます。


「ああ、お気になさらず。確かに当初は落ち込みましたが、もう大丈夫ですから。それより今日はゆっくりお休みくださいね。明日から色々教えてください、先生」


ニコッと笑うルカさん。もう、先生だなんてからかっていますね。


「はい。こちらこそ宜しくお願いします」

「それではおやすみなさい」


ルカさんが去った後、ベッドの上にごろんと寝転がります。ワイン作りを手伝うとお約束した後、お金は払えない代わりに住居と食事を用意するという旨の申し出を頂けました。


ベッドの上でゴロゴロと転がっていると、腰の低い箪笥の上に飾られている写真を見つけました。畑で撮られたご家族の集合写真の様です。


赤ん坊のアミちゃんを抱えた、笑顔の女性が映っていました。あら、どこかでお見掛けしたことがあるような気がします。気のせいかしら?とても綺麗な方で優しそうです。恐らくこの方がお母様なのでしょう。この畑はルカさんとアミちゃんにとって、ご家族との思い出が詰まった大切な場所なんですね。


「力になってあげたいな」


ぼそっと声が漏れてしまいました。今日は早く寝ましょう。


明日からは、きっと忙しくなるから。



◆ワインコンクール


翌朝 AM7時


気が付かない内に疲労が溜まっていたのでしょうか。予定より長く寝てしまいました。


「おはようございます」


リビングに行くと、ルカさんがお料理をされていました。


「おはようございます。丁度良かった。もう直ぐ朝ごはん出来ますから」


畑に行かれていたのでしょう。作業着が椅子に掛けられています。


「すみません、私ったら。お料理までして貰って」

「いえいえ、ご飯くらいは作らせて貰いますよ。それに、いつもやっている事ですから」


農家の朝は早いですが、お一人で作業しているとなるとかなり早くから起きているようですね。私も明日からは早起きしましょう。


「さあ、どうぞ召し上がってください」


これは……物凄く美味しそうですね。


野菜がたっぷり入ったトマトのスープに、お肉の腸詰め。そして、これはリゾットですね。牛乳を使用しているのか白いです。そしてスクランブルエッグ。


「いただきます」


美味しい!どれもかなりの美味しさです。素材が良いという理由もあります。ですが火入れや、塩を用いた野菜の甘みの引き立て方などは、かなりのレベルです。私は仮にもお城勤めでしたので良いものを食べてきたという自負はあったのですが、それと同等、いやそれ以上の味わいです。


「とても美味しいです!ルカさんは以前どこかで料理人をされていたのですか?」

「ははは、お上手ですね。僕はここでしか料理をしたことがありませんよ。料理は母に習いました。母はたしか、どこかの国の料理人をやっていたらしいですが」


国の料理人?それって凄い事なのではないでしょうか。


「そうなのですか、それは偉大な師匠ですね」


照れ臭そうに頬を掻くルカさん。少し可愛いです。


そうして食事も食べ終わり、2人でお茶を飲んでいた時の事です。


「さて、実はイラリアさんに折り入ってご相談がありまして。これを見てください」


机の上を滑らせる様にして渡されたのは1枚の紙でした。


「これは……ワインコンクールの案内ですか」

「ええ、この国で行っている規模の大きい大会です。その為、多額の賞金も出ます。審査対象は今年出来た赤ブドウで作ったワインです」

「ああ成程。新酒ですか。この大会で各醸造所のブドウの出来を見定めるわけですね」

「ええ。熟成させて来年以降に販売するワインを本番とするなら、これは前哨戦です。実際このコンクールで上位に入賞した醸造所は評判が高まり例年良く売れていますしね」


実は、とルカさんは真剣な顔つきで言葉を発しました。


「僕だけだったら諦めていたのですが、今はこうしてイラリアさんがいらっしゃいますし、お作り願えないかなと……ダメですかね?」

「ふふ、勿論お手伝いしますよ。でも、あくまで私はサポーターです。貴方の、ファルコ家の名を冠する以上メインはあくまでルカさんですから」


ぱあっ、と笑顔を見せるルカさん。


「勿論です!ありがとうございます。そうだ、まずは何からすればいいですか?」

「そうですね、まずはお勉強です。ワインについての知識を蓄えて頂きます」

「あ……ですよね」


露骨にがっかりするルカさん。あ、勉強は苦手でしたか?初めて見た時はクールな印象もあったのですが、意外にもコロコロ表情が変わる方なのですね。見ていて楽しいです。


さてさて、勉強をしていただく以上は私も楽しんで貰うという責務がありますね。


講義は久しぶりですが頑張りましょう!


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