第16話 ご飯をどうするべきか
◆インパクト
「───というのが、私の作戦です。どうでしょうか?」
私とルカさんは、どうしたらコンクールで勝てるのか作戦を練っていました。
「成程。難しいかもしれませんが勿論全力でやらせて貰います。というか、僕が巻き込んでしまっているわけですし、本当に申し訳ないです」
「もう。それは言わないで下さい」
ハハッ、っと申し訳なそうに頬をかくルカさん。
「しかし、大胆というか思い切った作戦ですね。反則スレスレな気もしますが……」
「味も重要ですが、他にインパクトが無ければ数あるワインの中に埋もれてしまうのは必然です。この日の為に準備を進めてきたチームと急造である私達では既に差が開いていますから」
「確かに、70近い醸造所が参加する中で目立つのは難しそうですね。それだけあると、どうしても昨年の上位入賞者にばかり注目がいきますし。このくらいの博打を打たなければ勝てないでしょうね」
私はコクリと頷きます。
「ええ。この度の賞金につられてか、例年と比べて参加者はかなり増加したようですしね。ブースに来て貰うだけでも一苦労です」
「これほどの参加者数になるとは、少し驚いています」
私たちは城下町から離れた場所に住んでいるので分かりませんでしたが、若しかしたら今回の賞金について城下町を中心に噂になっていたのかもしれません。
ですが、今は……。
「大事な点としてコンクールは、一般来場者の方々の投票数で決まるという事ですね。専門家よりも一般の方に向けて分かりやすく訴えかける。それが重要だと私は思います」
「ええ。だからこそ、この作戦はきっと上手くいはずです」
私はコーヒーを一口飲むと、今後についてルカさんにお伝えします。
「さて、それではお父様の事も心配ですし先ずは病院に行ってきてください。緊急性が高いことは、病院からの知らせを見れば明白です」
「え、大丈夫なんですか?その…他の作業とか。ブドウの収穫とか」
「それは私に任せて下さい。ブドウ以外の果物にも、ある程度の見識はありますから。ブドウの収穫についてですが、私の見立てでは丁度1週間後といったところです。逆に、今を逃すとコンクール迄は城下町に伺う事が難しくなると思います」
ルカさんは少し考えてから頷きました。
「分かりました。ありがとう御座います。ただ、何があるか分かりません。人手を要する可能性もありますから、近場の仲間にも状況を説明して有事の際には駆け付けて貰えるようにしておきます」
今度は、私が少し考えてしまいました。
「それは、とても心強いのですが、皆様もお忙しいのでは?」
「そうですね。ただ、こんな風に誰かが困っている時には手を貸し合う。そうやって僕たちは乗り切ってきました。一種の協定みたいなものです」
ルカさんも今日まで、そうやって誰かを支えてきたのですね。
「それは素敵な関係ですね」
「ええ……よし!そうと決まれば直ぐに動く必要がありますね。かなり急ですが、明日の朝には城下町に向かいます。アミにも、父に会わせてあげたいので一緒に連れていきますよ。」
「それが良いですね」
少しの沈黙の後、私とルカさんはお互いの視線を合わせます。
「では、しばしの別れですね。ここを、宜しくお願いします」
「お父様に宜しくお伝えください。私も私の為すべきことを為して、お待ちしています」
どちらから申し出たわけではありません。気が付いたら、私たちは握手を交わしていました。
「それでは準備がありますので、これで。おやすみなさい。イラリアさん」
「おやすみなさい。ルカさん」
笑顔を残して、リビングを去る彼の背中を見送ります。
そんな彼を見て私は思いました。絶対に勝たせてあげたいと。
そして、こんな時に不謹慎ですが、明日からの数日間のご飯をどうしようかと。
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