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第11話 雨の日

◆翌朝


「うーん、良く寝ました。心なしか体が軽いですね。本当に疲れていたのかもしれません」


時刻は6時。ルカさんはとっくに起きている時間です。リビングに向かうとルカさんは窓の外を眺めていました。


「おはようございます。ルカさん」


こちらを振り向くルカさん。昨日の事が脳裏をよぎって、少し不安になりました。


「おはようございます。イラリアさん。今日はあいにくの雨模様ですね」


良かった、いつものルカさんです。


私はルカさんの横に並ぶと窓の外をボーッと眺めました。


……雨ですね。雨は少しだけ苦手です。


「どうしたんですか、イラリアさん?雨空をそんなに眺めて何か考え事ですか?」

「はい、少しだけ。以前勤めていたお城のブドウの事を考えていました」


ザアアッ!と、雨の勢いはどんどん増していきます。


「そうですか。手塩にかけて育てていたわけですし。愛着がありますよね、何となく分かります」

「それもあるのですが。少しだけ大丈夫かなぁ、と思いまして」

「何がですか?」

「初めてお会いした日。私の写真が載っていた広報誌を覚えていますか?」

「ええ勿論。奇跡のワインが特集されていたものですよね」


私は窓際に置かれている観葉植物に水をやります。


「そうです。あのワインの原料となるブドウには、私が特殊培養した菌を付着させながら育成する必要があります」

「菌、ですか?」

「この菌が非常に厄介でして、とにかく日中の多湿を好むんですよ。造り手の理想としては、お昼はカラッと晴れて、夜中から朝にかけては霧が出るというものなのですが」

「湿度。そうなると水やりにも気を使いそうですね」

「そうですね。多少の水分量ならば問題ありませんが、与え過ぎれば菌が猛威を奮ってきます……恐ろしいほどの」


ゴクリと、唾を呑むルカさん。


「い、一体どうなるんですか?」

「ブドウ全体を、黒い歪な形をしたカビが覆うように繁殖します。そうなったら当然ブドウは使いものになりません。有害ですので直ぐに処分する必要があります。おまけに、苗も畑もダメになるので三重苦です」


ルカさんはまるで、怪談話を聞き終わったばかりの子供の様な表情で黙り込みます。


「他にも苗木やブドウに傷が出来ると、そこから過剰に菌が入り込んで駄目になったりもするので、色々と注意が必要なんです……いやあ、でもあそこには優秀な方々が多いですからね。ちゃんと引継ぎの資料も置いてきました。そんな事態にはなりませんよ。うっかりお水を撒きすぎるなんて、そんなお馬鹿さん、あそこには居ませんから」


私はカラカラと笑いました。


「はは、今年も無事に育つと良いですね」


乾いた笑いをする、ルカさん。


「はい。きっと大丈夫です!」


お話をしていたら、何だかお腹が空いてきましたね。


「ルカさん。今日の朝食は私が作りますよ」

「え、どうしたんですか?」

「何だか作りたくなったんです」


そして、私はキッチンに向かいました。何処に何があるかは何となくですが把握できていますしね。食べるだけの女ではないことを証明してみせましょう!


「さあ、召し上がれ」


ルカさんとアミちゃんは机に座って、私の作った朝ごはんをジッと見つめています。ルカさんには劣りますが私だってお料理ができるのです。


「いただきます」


2人ともまずは、野菜のスープに手を付けます。


「美味しいです」


そう言って下さったのはルカさん。私はそうでしょう、と思わず胸を張ります。しかし、アミちゃんの方を見ると、何やら複雑なお顔をしています。


「アミちゃん、どうですか?」


私の問いかけに腕を組んで唸るアミちゃん。ですが、意を決したという表情を浮かべました。


「お、美味しいよ。お姉ちゃん」


あっ……気が付いてしまいましたよ。これ、気を使われていますね。


そうですよね、アミちゃんは普段からルカさんの作るご飯を食べているわけですし、舌が肥えるのも自然の摂理です。


ただ、それを私が受け入れられるかは別問題というやつです。


「ルカさん!」

「何でしょうか?」

「あ、明日から一緒に朝ごはんを作りませんか?それで」


その後、本当に小さな声で囁くようにお願いしました。


「お料理を教えてください」


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