アウトオブあーかい部! 80話② 核心
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
3度の飯より官能小説!池図女学院1年、赤井ひいろ!
趣味はケータイ小説、特筆事項特になし!
同じく1年、青野あさぎ!
面白そうだからなんとなく加入!同じく1年、黄山きはだ!
独り身万歳!自由を謳歌!養護教諭2年生(?)、白久澄河!
そんなうら若き乙女の干物4人は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく保健室。
「白ちゃん、いるか?」
「あら、ひいろちゃんじゃない。体調でも悪いの?」
「ええっと……そんなところ、だ。」
「はいはい、どーぞどーぞ。こっちでいいんでしょ?」
白ちゃんはベッドのカーテンを閉じて丸椅子にひいろを招いた。
「で、なに?今日はお悩み相談?」
「ワタシの体調が悪いかも……とか考えないんだな。」
「ひいろちゃん嘘つくの下手すぎ。」
「そんなことは
「そのセリフはもう自白なのよ。」
「 」
「はいはい、いーからさっさと悩みを吐いて楽になっちゃいなさい。」
「参ったな……。」
「……え、まさか体調が悪いわけでも悩みがあるわけでもないのにふらっと保健室までサボりに来たの?」
「…………いや、ある!あったぞ悩み!」
「悩めるお顔じゃないのよ……。」
「最近おばさんがよく、誰かと仲良さげに通話してるんだよ。もしかしてその通話相手って白ちゃんだったり
「しないわね。」
「じゃあ相手が誰とか
「知るわけないでしょ?……ひいろちゃん、熱でもあるんじゃないの?」
「熱……そう、それだ!熱があるんだよワタシは!だからもうしばらく話し相手になってくれないか……!?」
「へいへい……じゃあちょっくら自販機で飲み物買ってくるからそこで
「い、いや!?ワタシが買ってくるから白ちゃんはここで待っていてくれ!」
「体調不良の生徒パシらせる養護教諭がどこにいんのよ……。」
「ま、まて!?わかった、体調が悪いのは嘘だ。だからもう少し……『話をしよう』じゃあないか……!?」
「え?なに私、やっすいB級映画でも観てんの……?」
「B級映画といえば、あさぎのB級映画好きには困ったものだなあ……!?」
「流石に無理があるわっ!」
「そうか……。」
「なんでそんな無理して私を足止めするような真似してるのよ。」
「足止めだなんて、そんな
「じゃあ喉乾いたし飲み物でも
「コーヒーでいいか?」
白ちゃんが席を立とうとすると、ひいろは既に入り口前でスタンバイしていた。
「ほおらやっぱり。」
「やっぱり?」
「ひいろちゃんはどうあっても私をここから外に出したくないようね?」
「サボりは良くないからな。」
「おう鏡見るか?」
「ワタシはサボりじゃないぞ!?」
「じゃあ何してんのよ。」
「白ちゃんの監視だ!」
「監視?」
「あ"……。」
「……じゃあ密告されないように、仕事しますかぁ。」
白ちゃんはデスクに向き直り、仕事に戻った。
「……。」
ひいろは黙々と仕事をする白ちゃんの背中をおとなしく見守っていた。
「……。」
「?」
生暖かい視線を感じ、仕事が手につかない白ちゃんはときおりひいろの方を振り向くが、ひいろは邪魔にならないように、ただただ白ちゃんを見守った……
「じゃないのよ。」
「白ちゃん、集中。」
「どの口が。」
「この口だが?」
「あ〜もうダメだぁ。仕事にならん!」
「ならそこのベッドで一眠りするといい。怪我人の応対は任せてくれ。」
「ひいろちゃんは私をどうしたいのよ……。」
「監視だっ!」
「視姦……!?」
「いや、そんな意図は…………きっつ。」
「聞こえてんぞ。」
「とにかく白ちゃんはここにいてくれ!」
「別にいいけど……。」
白ちゃんはベッドに腰をかけた。
「……もしかして、教頭先生の差し金?」
「違うぞ!」
「…………ねえひいろちゃん。」
「なんだ?」
「ひいろちゃんが私を足止めしていることと、
「してないぞ?」
「私の置き白衣が1つなくなっていることって、何か関係あるの?」
「な…………なななななな、ない、ぞ……!?」
「おーけーだいたいわかったわ……。」
「な、なにを……?」
白ちゃんは深く息を吸い込むと、ベッドから立ち上がりまっすぐドアを目指して歩き出した。
「待て待て!?一体何をわかったって言うんだ……?」
「首謀者。」
白ちゃんはまた歩き出した。
「いやいや!?」
ひいろは後ろから組みついて白ちゃんを止めた。
「そこまでする?」
「ダメだ!学校で2人が鉢合わせたら大騒ぎになる……!?」
「……それ、もうほとんど答えじゃない。」
「はっ……!?」
「はぁ。私としてはこのままひいろちゃんとイチャついててもいいんだけど
「イチャ……!?///」
ひいろが動揺して手を離した。
「隙ありっ!」
一瞬の隙をついて白ちゃんは保健室のドアに手をかけ、勢いよく開け放ち廊下へ飛び出した瞬間、何かに額を強くぶつけ後ろにコケた。
「「いっっっ………!?」」
「あ、モーラね……さん。」
「ったぁ〜、お疲れひいろ。」
廊下でモーラが同じ様にコケていた。
「ったぁ〜、やっぱりアンタねモーラ……!」
「はは……やっほーすみ姉。」
「とりあえず入りなさい。」
モーラは保健室に入りドアを閉めた。
「で?わざわざひいろちゃん足止めに寄越してまで、どんな悪さを働いていたのかしら?」
「いや〜、ちょっと教頭先生にご挨拶を……ね?」
「……………………は?」
「いんやぁ〜!あたし、アイツ嫌いだわ。たっはっは♪」
「……は?」
「あ、ごめんひいろ。」
「あ!?いや、人を好くも嫌うも人それぞれだし……!?」
「ったく、変なことして私の評判落とさなかったでしょうね?」
「だいじょーぶだいじょーぶ!アイツ、初見であたしのこと『琥珀ちゃん』呼びしやがった。」
「さすがおばさん、人を見る目は確かだな。」
「……………………へ?」
数秒遅れて、白ちゃんが魔の抜けた声を出した。
「なんで教頭先生が琥珀のこと知ってんのよ?」
「「あ(やべ)。」」
「私ですらあんたのこと『モーラ』って呼んでるのに……。」
「そ、そうだすみ姉!白衣ありがとう!?」
「あ、あー!?無くなった白衣がこんなところに!?」
「……チラッ。」
「今でもモーラのこと『琥珀』呼びする人間なんて……この世に1人しか
「「わーーー!!」」
「ちょっと用事ができたからアンタは先帰ってて。」
白ちゃんは保健室のドアに手をかけ、勢いよく開け放った。
「「待って待って待って待って!!??」」
慌ててひいろとモーラが後ろから白ちゃんに組みつくが、白ちゃんは微動だにせず、2人を引きずってズンズンと廊下を歩き出した。
「お願いだ白ちゃん止まってくれ!?」
「ちょ……ダメだって今もうお昼……って力強いなぁ!?」
お昼休みの池図女学院はどこも人で賑わっており、当然2人に増えた養護教諭が片方と生徒を引きずって闊歩する姿は多くの人の目に留まった。
「だめだ白ちゃんっ!今はダメっ!?せめてお昼休み終わってから
「……。」
「ぐおお……全然とまんねぇ!?」
少し距離を置いてざわつく人だかりを引き連れた白ちゃんはノックもせず応接室のドアを思いっきり開け放った。
「あああすみません!?取り込むので失礼しまぁす!」
ひいろとモーラは人はけをしてドアを内側から閉め施錠した。
「あら
白ちゃんは応接室に入ると、教頭先生が振り向くよりも早くスマホを取り上げた。
「ちょっ!?白ちゃん流石にスマホ取り上げるのはまずいって!」
慌ててひいろが教頭先生のスマホを取り返し、教頭先生に手渡した。
「………。こんどはみんなで来てくれたのね♪」
「ごめんおばさん。ほんっっとにごめん……。」
「いいのよ、ひいちゃんは何も悪くないもの。それにしても……、
教頭先生は白ちゃんとモーラ改め琥珀を見比べてため息をついた。
「本当にそっくりね。」
「昔の『雪ちゃん』とですか……。」
白ちゃんは俯いたまま絶対零度のドスの聞いた声で教頭先生に問いただした。
「「『雪ちゃん』?」」
「『白久雪』……澄河ちゃんと琥珀ちゃんのお母さんの愛称
「『澄河ちゃんの』だ、あたしをカウントすんな。」
「『白久雪』で伝わります。」
琥珀と白ちゃんは2人して、絶対零度の眼差しで凍てつく様な威圧感を教頭先生に放っていた。
「ちょっ、……ふたりとも。」
「それで、教頭先生は白久雪と随分親しい様に見受けられますが。」
「そうかしら?」
「平日の真っ昼間から思いつきで温泉旅行の約束とりつける関係が親しくないと?」
(おばさん、めっっっちゃ仲良しなんだな……)
「あら、見られちゃったのね。」
「…………私を採用したのも、白久雪の娘だからですか。」
「『はい』って言って欲しいのかしら?」
「おばさん、ここはあんまり意地悪するところじゃ
「大丈夫よひいちゃん、私を信じて?」
「うん……。」
「じゃあ、グレてた私を更生させてくれたのも、教師の素晴らしさを教えてくれたのも……、あーかい部を作らせたのも……!!」
「……仕組むこともできたわね。私は器用だから。」
「そんな……、」
白ちゃんは膝から崩れ落ちた。
「あれ……?なんで……涙が…………。」
「でもね?難しい試験を突破したのも、ひいちゃん達に慕われているのも、全部澄河ちゃんの力で勝ち取ってきたから今があるんでしょう?」
「ぅ……牡丹、さん……。」
「雪ちゃんの娘っていう色眼鏡で見ているのは否定しないけど、それでも私は澄河ちゃんのことが大好きよ。」
「牡丹さぁ〜ん……!」
「はいはい!しゅ〜りょ〜!」
痺れを切らした琥珀が大袈裟に手を叩き、感動的な雰囲気をかき消した。
「った〜く、見事な人身掌握だこと。」
「……琥珀さん?」
「さんきゅひいろ♪」
「……。」
「や〜っぱアンタのこと嫌いだわあたし。」
「ちょっと、琥珀!」
「すみ姉も絆されてんじゃないよ。冷静に考えてみ?何か進んだ?」
「それは……、
「すみ姉の過去とか知ったこっちゃないけどさぁ……アイツ、こうやって幾つもの修羅場をのらりくらりと躱して生きてきたんだろうねぇ?」
「同族嫌悪ってやつかしら?」
「へへっ、言うじゃん。」
「琥珀ちゃんは『何も進んでない』って言ったけど、澄河ちゃんは確認したいことを確認できた訳だし……むしろアナタの『進んでいない』発言の方がペテンじゃないかしら?」
「お、おばさん……!?」
「か〜っ、とこっとん嫌〜なこと言ってくるねえ。」
「あら?先に鎌かけてきたのはあなたでしょう。おまけに澄河ちゃんを引き込んで何を企んでいたのかしら?」
「ほんっっと勘に触るわアンタ。」
「まったく嘆かわしいわね。澄河ちゃんはこんなにいい子に育ったのに……琥珀ちゃんはどうしてこんなふうになっちゃったのかしら?」
「さあ、親の教育が良かったんじゃ
「良い子の琥珀ちゃんは『死んじゃった』のね……。」
「「「……!?」」」
「ごめんなさい、よく聞こえなかったわ。……えっと、そうそう!温泉旅行のときに、教育方針について雪ちゃんにインタビューしちゃおうかしら♪」
「え?おばさん、何で温泉……?」
「好きにしたら?あたしは帰
「きっと雪ちゃんも、琥珀ちゃんからのお墨付きって伝えてあげたら喜ぶわぁ♪それも直接学校まで来て褒めてくれたって。」
「な"……ッ!?」
「いやぁ楽しみねぇ温泉旅行。お酒も入ったら口もよく滑りそう……///特に琥珀ちゃんの居場所とか。」
「貴様……!?」
「なあに琥珀ちゃん、一緒に来たいの?フフ♪いいわよ。」
「そんなわけないっしょ?だいたい居場所だってハッタリに決まってんでしょ。」
「じゃなかったら?」
「その手の揺すりには乗らないっつーの。」
「来年のお中元まで答え合わせを預けてみる?」
「……。」
「個人情報を漏らされたくなかったら阻止してみなさい?日時とかはひいちゃんから聞いてちょうだいね♪」
そう言うと教頭先生は帰り支度を済ませ、颯爽とドアの前まで歩き振り返った。
「じゃあ私、今日はお昼までだから。いいお返事を待ってるわね♪」
教頭先生は有無を言わさず部屋を後にした。
「……なん!」
「琥珀さん?」
「ほんっっとなんなんアイツ!!ちくしょう、絶対ハッタリなのに退路塞ぎやがって……!!」
「ああ言われたら行かざるを得ないわよねぇ。」
「くっっそぉぉおお!!!」
モーラはしばらくその場で地団駄を踏んでいた。
「そうは言ってもどうするんだ?雪さん避けるために色々してたのに、接触するのは本末転倒じゃないか?」
「それもそうなんだけど……がぁぁぁ……!!」
モーラは頭から血が出そうな勢いで頭を掻きむしった。
「はぁ……しょうがないわね。私も一緒に行ったげるから、この際言いたいこと言っちゃいましょ?」
「すみ姉……。」
「なんだ、白ちゃんもいいとこあるじゃないか。」
「……だいたいこうなったのあたしらをすみ姉がここまで引きずってきたからでしょうが!?」
「じゃあそもそも学校になんて乗り込まなければ良かったんじゃない……!?」
「うるさいっ、あのまま帰れてばカッコよくてアイツに鎌かけて勝ち越せたものを……!」
「おいおい、こんな所で姉妹喧嘩するなよ。」
「「うるさいッッ!!」」
「えぇぇ……。」
「この……!」
「こんにゃろ……!」
「……はぁ。こりゃワタシも同行した方がいいか?」