プロローグ⑧:知力のテスト ― 第二部
ロリアンは記述問題の最初の設問を読み始める。
【問題】
【青】、【金】、【赤】のローブを着た3人の魔法使いがいる。
【1人は常に嘘をつき】
【1人は常に真実を話し】
【1人は真実も嘘も話す(交互)】
【青】:「私は交互だ」
【金】:「青は嘘つきだ」
【赤】:「私は交互だ」
真実を話すのは誰か?
『これは……論理推理問題だ。青と赤の両方が【自分が交互】と主張しているが、交互は1人しかいない。つまりどちらかが嘘で、もう1人は今回たまたま真実を話している交互ということか』
ロリアンは目を閉じ、頭を掻きながら思考を深める。
『だとすると、真実を話すのは金か。金が【青は嘘つき】と言っているなら、青が嘘つきで赤が交互……でも問題は【真実を話すのは誰か】を聞いているのか、【真実を常に話す者(金)】を特定するのか?』
不安になったロリアンは、両方の可能性をカバーするため、3人の役割と推理過程を全て詳細に記述する。
20分後、ロリアンは手を挙げ、退出する際にセンウァリスに答案を提出した。その際、小声で尋ねる。
「あ、あの……結果はいつわかりますか?」
「全試験終了後です。各受験者が自身の強み・弱みを把握できるよう、全てのテストの点数を一斉に公開します」
「ありがとうございます」
ロリアンは教室を出る。仲間たちと視線を合わせるのを避けた――どんな接触も「不正援助」とみなされる恐れがあったからだ。しかし心の中では、彼らの合格を願っていた。
『出会ったばかりなのに……皆にも受かってほしい。まるで自分が代わりに試験を受けているみたいに心配している。もしかして……僕はただのバカなんだろうか?』
ルミも記述問題に進んでいたが、奇妙な設問で立ち止まる。
【問題】
A=1、B=2、C=3…とする時、合計が33になる単語は?
a) CABE
b) DADA
c) ELF
d) MOON
『一体何の質問だこれ? 記述式なのに選択肢がある上、正解がない!計算するとCABEは11、DADAは10、ELFは23、MOONは57…どれも33じゃない!』
彼女の緊張と不安が「明らかな意図」を見えなくさせていた――「正解がないことを指摘する」、あるいは「33になる単語を自作する」のが真の課題だったのだ。
一方、ベトリックも記述問題に到達していた。論理や暗号問題は得意だったが、社会的知性を問う問題に苦戦する。
【問題】
戒厳令下の村で、商人が盗品販売で告発される。隊長が逮捕を命じる中、商人は「旅人から購入した」と無罪を主張。村民の意見が分かれる中、隊長があなたに助言を求めた。商人・隊長・村の秩序への影響を考慮し、どう対応するか?
『これが知性の試験か? クソジジイは牢屋ぶち込め! 皆無罪って言うに決まってる。文句ある奴には鉄槌を下すだけだ!』
10分後、ロッドも記述問題に到達し、最初の設問で思考停止する。
【問題】
次の数字は何? 2, 3, 5, 8, 13, ? 理由も説明せよ
『クソ! 数字の法則なんてわかるか!! 数に関係することってなんでこんなに難しく感じるんだ!?適当に29って書いとくか。だって数列がランダムなら、どんな数字だってありだろ? な!?』
さらに5分後、フェクサーとオマックも記述問題にたどり着く。残り時間を気にしながら――
フェクサーは「実際の冒険」を想定して問題を解こうとする。
【問題】
洞窟の出口を錆びた槍でふさぐゴブリンに遭遇。戦闘は隠れた他のゴブリンを呼び寄せる危険あり。暴力を使わずに退却させる方法は?
『戦わない? じゃあ、こいつに食いもんやるぞ。腹いっぱいになれば問題解決だ!』
彼は答案用紙に力強い字で書く:
「オレ 強くて バカ。アンタ 弱くて 頭いい。うまい食いもん やるから さっさと 失せろ」
――この非常識な回答も、「即興力」を測る問題だったため、文法的に崩れていても「実践的な発想」として評価の余地があった。
一方、オマックは読み書きと思考の連続で脳がオーバーヒート。できるだけ簡潔に回答する。
【問題】
「剣が輝く時、求めるは血ではなく、もたらすは平和なり」――この文は暴力の賛美か、剣士の平和主義か、剣の均衡機能か、それとも平和は戦いの結果かを問うているか?
『剣が光ってるってことは…抜いたんだろ。血を求めず平和を強制するってことは、悪い奴らを【平和に生きるか死ぬか】って脅してるんだ。だから…剣のバランス機能だ』
彼の回答:
『刀は バランスの 道具だ。悪い奴を 脅すのが 目的だべ』
試験開始から50分、ルミが教室を出る。全力を尽くしたが、緊張と不安が原因で、本来取れたはずの点数を逃していた。
続いてベトリックも退出。学識はあるものの、知性の多様性に欠けていたため、高得点には届かなかった。それでも二人ともまずまずの出来だ。
ロッドはロリアンの助言に従い、「確実に解ける問題だけ集中して回答」という戦術を貫いた。
オマックは短い回答で時間を節約。文字を書くのが遅いことと残り時間の少なさが最大の敵だった。
一方フェクサーは、幸運の女神に微笑まれたかのようだった。
【問題】
4階建ての塔で、各階段は2階層分上がる。地上階から最上階までに必要な階段の数は?
『そりゃ2つだろ!1つで1階→3階、もう1つで3階→4階だ!』
砂時計の最後の砂が落ち、センウァリスが試験終了を宣言する。教室内にはまだ40~50人の受験者が残っており、ロッド、フェクサー、オマックも最後の一秒まで粘った。
「試験終了。これ以降、答案に書かれた内容は一切評価しない。というか――」
彼は悪戯っぽく笑う。
「1時間経過するとインクが滲まなくなる魔法をかけてあるからな。無駄な努力はやめろ」
ロッドとフェクサーが同時に思う。
『この魔法使いクソ野郎が!』
「私と弟子たちが答案を回収する。終わった者から、前三つのテストを行った屋外エリアへ移動せよ。次の審査官が待っている」
三人が教室を出ると、ロリアンたちが待つ中庭へ向かう。ロリアンは走り寄ってくる。
「どうだった? 合格できそう?」
ロッドとオマックは不安そうに顔を見合わせるが、無理に笑いを作る。
(ロッド)「ははは……ま、商人の息子らしく……その……臨機応変にやってきたぜ!」
(オマック)「おいら、ロリアンの言う通り短く答えたべ。全部書いてたら時間足りねえ。魔法使いさんが心読んでくれてたらいいんだが……」
(ロッド)「そりゃいい考えだ! 俺もそうすりゃよかった!」
(ベトリック)「ミミズ脳のあんたにそんな発想は無理だろ。ははは!」
(ロッド)「くたばれ、蛾野郎!」
一方、フェクサーは自信満々に高笑いする。
(フェクサー)「ハハハハ! なんでかわかんねぇけど、今日はマジでツイてた気がするぜ! 問題の半分くらい『わかんねぇ!』って思ったのに、脳ミソぶん殴って絞り出したら、天才みてぇな答えが出てきやがった! 自分でもビビったわ、ハハハハハ!!」
(ベトリック)「『脳みそ』って単語知ってるだけでも奇跡だな」
(ルミ)「たぶん……私、うまくできなかったと思う。頭がごちゃごちゃしてて……何回か、ちゃんと考えられなかったの……」
ロリアンはどう慰めていいかわからず、もじもじと言う。
(ロリアン)「きっと……みんな上手くいってると思います……」
五人にじっと見つめられ、ロリアンは顔を赤くして俯く。するとフェクサーが彼の肩を豪快に叩き――ほぼ腕がもげそうな勢いで――宣言する。
(フェクサー)「ガキ、この大フェクサー様を心配する必要があるなんて、それこそ世界の終わりだぜ! オレはあの試験をイノシシ狩りみたいに仕留めたんだ!」
(オマック)「おいら、ロリアンの助言がなかったらもっと酷かったと思うべ。おかげで自分のベストを超えられた」
(ロッド)「俺もだ! あやうく助言を忘れるところだったが、最後に思い出してな! 少なくとも俺だけ落ちるってことはねえぞ!」
ロリアンは照れくさそうに、でもどこか嬉しそうに笑う。
(ロリアン)「は、はい…僕も…ヒヒっ」
(フェクサー)「そうだ、ガキ! オレたちより自分の合格を心配しろ! でないと自滅するぞ。さぁ、早く五つ目のテストを片付けようぜ!」
(ベトリック)「おお! 『自滅』なんて単語も知ってるのか?」
(フェクサー)「『ガリガリの口煩いをぶっ叩く』って言葉も知ってるぞ!」
一同は、五つ目の審査官の到着を待ちながら、和やかな空気に包まれていた。