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プロローグ⑦:知力のテスト ― 第一部

1時間半の昼休みが終わり、先の尖った帽子と水晶玉のついた杖を持った魔法使いがギルドの食堂の中央に現れ、注意を引こうとする。


「受験者の皆様! 昼食時間は終了です。第四のテスト会場へご案内しますので、どうぞご同行ください」


魔法使いは廊下を進み、ギルド内の広間へと導く。そこには一列に並んだ机と椅子、整然と並べられた試験用紙が用意されていた。


「着席してください。全員が席に着き、試験用紙の準備が整い次第、テストの説明を開始します」


ロリアンはオマックの不安げな表情に気づき、彼の腕をそっと握って言う。


「大丈夫です。自分を信じてください」


オマックは微笑み、ロリアンの頭に手を置く。その掌は大きく、ロリアンの頭をすっぽり覆い余裕があるほどだ。


「ありがとう。頑張るべ」


6人の新人たちは中央の列に隣り合わせで座る。5分ほどで全受験者が着席し、魔法使いが再び声をかける。


「静粛に願います。まず、ご挨拶を。私は深紅の盾クリムゾン・エジードギルド、金ランクの魔法使い、センウァリス・イルミールと申します。先ほどの耐久力のテストで諸君のバケツを満たした人物と言えば、ご記憶の方もおられるでしょう」


『ああ、あの魔法使いか……?』


ロリアンは今まで気づかなかった。


「第四のテストは知力試験で、筆記形式となります。各自の前にある問題用紙には、全30問が記載されております。試験は二部構成です」


センウァリスは手を動かし、空中に魔法の光で数字や図形を描きながら説明を続ける。しかしロリアンの視力ではっきりと見えず、彼の周りにぼやけた光の塊が浮かんでいるようにしか見えない。


「前半部は20問の選択問題です。各問いに4つの選択肢があり、正解は1つだけ。正しいと思う答えを記入してください。1問あたり0.25点、つまり前半部の満点は5点です」


「後半部は10問の記述問題で、1問0.5点。最も適切な答えを自分で記述する形式となります」


「前半部では、クラスに関わらず冒険者として必要な実用的な知識を測ります。具体的には――

・ヘスペリアの地理

・基礎薬草学

・実用算術

・エルドールの歴史

・初級怪物図鑑

・一般魔術

・戦略と論理

・言語とルーン文字

・罠の識別

・倫理と規律

――以上の分野から出題されます」


多くの受験者がゴクリと唾を飲み、試験の難易度に動揺を見せる。ロッドが手を挙げる。


「先生! 魔法を知らない者は『一般魔術』の問題どうすりゃいいんです?」


「深い専門知識を求めるわけではありません。あくまで冒険者として最低限知っておくべき基礎的な内容ばかりです」


「非魔術師の方に『アーケイン・バースト』や『第三階梯呪文』のような専門用語を問うことはありません。魔法の一般的で実用的な理解を測る問題です。同様に、実用算術でも二次方程式や三角関数は出題しません」


受験者たちは依然として緊張している。センウァリスの使う用語の意味が理解できないからだ。


「ただし、学識がなくとも、知性は知識だけでは測れません。そこで後半部では、別の形で知性を評価します。たとえ何も知らなくても、一定の知性があれば解ける問題です」


ロリアンはオマックとロッドが安堵のため息をつくのを耳にする。


「試験時間は1時間。各自の机には羽ペンが用意されています。問題用紙は全て異なる内容ですので、カンニングは不可能。また、受験者同士の会話や合図も即時失格となります」


センウァリスは手を振り、光のオーブを室内に放つ。それらは受験者たちの頭上を飛び回る。


「私と3人の弟子たち――彼らは現在室外で待機中ですが――魔法を使って諸君を監視します。つまり、いかなる不正行為も即座に見破られ、失格となります。具体的には……」


→他の受験者との会話


→隣の答案を覗き見る行為


→音や光、身振りによる合図


→魔術の使用


「……これらは一切認められません」


(チッ)


ロリアンはルミが舌打ちするのを聞きつける。


「言うまでもなく、諸君の思考も試験中は読み取られます。たとえプロ級のカンニング術を持っていたとしても、その意図は感知できるでしょう。畢竟……」


彼は意味深に笑う。


「この部屋には盗賊志望者も含まれているのですから」


(チッ)


今度はベトリックが舌打ちするのが聞こえた。


「しかし、良い面もあります。思考を読むということは、たとえ言葉にできなくとも、正しい推理ができていれば部分点を与えられる可能性があるということです」


「ふぅ……」


ロリアンは教室内のあちこちから、オマックやフェクサー、ロッドだけでなく、多くの受験者たちの安堵の息遣いを聞き取った。


センウァリスは手の中で30cmほどの砂時計を具現化し、机の上に置く。


「この砂時計は1時間を計ります。残り時間を確認可能です」


ロリアンは目を細めるが、上部に詰まった砂の量すらかすかにしか見えない。


『……つまり、この砂時計は時間管理の役に立たない。上部の砂の量も見えないのに、下部に溜まる少量の砂など見えるはずがない』


「以上をもちまして、知力のテストを開始します。――始め!」


ロリアンは問題用紙を開き、最初の問題を読む。実用算術に関する問題だった。


【問題】

4人の冒険者が1日2食ずつ消費する。32食分の糧食は何日持つか?

a) 2日

b) 3日

c) 4日

d) 5日


ロリアンは呆然とする。


『こ、これは……簡単すぎる!?』


ほぼ即座にCを選び、次の問題へ進む。今度は基礎魔術の問題だ。


【問題】

魔術(アーケイン)に関する正しい記述はどれか?

a) 神聖魔法は魔術として習得可能

b) 魔術は常に物質的触媒を要する

c) 魔導士はジェスチャーなしで呪文を唱えられる

d) あらゆる魔術は現実を軽度に歪ませる


『まさか……全部このレベルの問題なのか?』


選択肢を一通り読み、即座にDに丸を付ける。


『……なるほど。センウァリス先生が『基礎知識』と言った意味がわかった。

庶民のほとんどは教育や本にアクセスできないから、僕には簡単すぎる問題でも、普通の人には難しいんだろう…』


ロリアンは8歳から勉強してきた自分にとって、この試験がまったく挑戦的でないことに安堵する。


一方、フェクサーは多くの問題に頭を抱えていた。


【問題】

古代遺跡におけるルーン文字「ヴィール」が表す概念は?

a) 死

b) 血

c) 旅

d) 誓い


『知るかよ!【ビール】か?【ヒール(治療)】か?…いや、そんな単純じゃねえだろ。誓い(D)にしとくか。ビールには永遠の忠誠を誓ってるからな!』


なんと、フェクサーの勘は当たり、正解をマークしていた。


【問題】

120kmの旅を徒歩4日で移動する場合、1日あたりの距離は?

a) 20km

b) 30km

c) 40km

d) 60km


『数字なんてクソくらえ!…まぁBでいいや!』


フェクサーはこの調子で全問を勘に頼り、10問正解した――今年一番の幸運日だった。ただし、怪物図鑑や罠の問題など、知識や推論で正解したものもあった。


一方、ルミは試験中に緊張と不安から、いくつかの問題を誤解してしまっていた。


【問題】

回復ポーションに使用しないべき植物は?

a) 銀草(ぎんそう)

b) 陰葉(かげは)

c) 光根(ひかりね)

d) 太陽草(たいようそう)


『どういうこと?太陽草は最も一般的な回復薬の材料じゃない…でも光根も使うわね。銀草も聞いたことあるし…陰葉は確実にダメ、だって有毒なんだから!』


こうして彼女はDを選んでしまった。


さらに、実践的な問題では理論偏重の勉強が災いした。


【問題】

不規則な石畳の部屋に入った時、罠の作動確率を下げる行動は?

a) 真っすぐ反対の扉まで走る

b) 杖で前方の床を検査する

c) 色の濃い石のみを踏む

d) ジグザグに移動する


『統計的にはジグザグ移動が確率分散になるわよね?』


彼女はDを選んだが、正解はB――盗賊の見習いですら暗記している基本だった。


一方、ベトリックは冷静そのものだった。幼い頃から勉強熱心ではあったが、気まぐれな学習傾向があったため、知識に偏りがあった。


【問題】

ノルドハイムの旧都ヴァルヘルの崩壊原因は?

a) 包囲中の内部裏切り

b) 魔法の睡眠病流行

c) 魔法使いギルドの内乱

d) 古龍による城壁破壊


『クソ!歴史は嫌いでな…工学と冶金ばかり勉強した。北部はドラゴンが多いからDか?』


正解はA――ヘスペリアでは比較的よく知られた史実だった。


【問題】

盗賊団の討伐依頼で、狭く暗い入口と広く見張られた入口がある場合、最善策は?

a) 見張られた入口から強襲

b) 盗賊と交渉を試みる

c) 狭い入口から潜入し奇襲

d) 夜まで待ち静かに攻撃


『故郷の盗賊ヴィルディの教えなら…狭い入口からの奇襲が基本だ。Cだな』


科学や発明以外に、ベトリックは盗賊としての訓練も受けていたため、多くの問題を正解できた。


ロッドは額に汗を浮かべていた。頭から湯気が立ち上っているように見え、まさに脳みそが「フライパンで焼かれている」状態だった。


【問題】

最寄りの街まで3日、食料も尽き、沼地に囲まれた状況で取るべき方向は?

a) カラスの飛ぶ方向(北)

b) 日の出と緑濃い植物(東)

c) 川を探す(南)

d) 低い丘が見える(西)


『俺、どっちが東か西かもわかんねぇんだよ、クソがーーーっ!!こんなの知るかーーーっ!!』


【問題】

狼男を退けるものは?

a) 銀

b) 金

c) 毒

d) ニンニク


『バカにすんじゃねえ! こんなの知ってるわーーーっ!!』


それでもロッドは、いくつかの基本的な問題には正解できた。これで少し安心し、「試験は思ったより難しくない」と自信を取り戻す。


オマックは落ち着いていた。ロリアンの助言を思い出し、学歴のなさを逆手に取る方法を考えていた。


『ロリアンは【得意なものに集中しろ】と言った。分からない問題は深く考えず、適当に選べばいい。知ってる問題だけ全力で答えれば、点数は稼げるはずだ』


完全な識字者ではなかったため、問題文を読むのに時間がかかったが、冷静に「解けそうな問題」に集中した。


【問題】

一般的な蛇毒への解毒効果が最も高い植物は?

a) 鉄鎌草(てつかまそう)

b) 岩ラベンダー

c) 影杯草(かげはいそう)

d) アルデミア葉


『ばあちゃんが教えてくれた……アルデミア葉の樹液は【どくけし】だ』


【問題】

黒毛で黄色い瞳の野生生物・グラックを発見した際の最善策は?

a) 木に登って去るのを待つ

b) 火で威嚇する

c) 最強の武器で先制攻撃

d) 死んだふり


『親父の教えだ……グラックは本能的に火を恐れる』


理論的な知識はなくとも、オマックは家族から口伝で学んだ実践的知恵でいくつかの問題に正解できた。


一方、ロリアンは開始10分で選択問題を終え、記述問題へと進もうとしていた。

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