プロローグ③:筋力のテスト
ロリアンはまだ地面に倒れたままだ。力を振り絞って起き上がり、次の試験に備える。彼のグループの1人――彼より大柄で強そうな男が、10秒間保持できずに脱落した。その一方で、小柄で華奢なロリアンは成功したのだ。
息を整えながら、他の受験者たちの様子を見る。
2人目: 20mの移動中、震えながら何とか運び、岩をかすかに割る。
3人目: 不安定ながらも歩みを進め、岩をきれいに真っ二つに。
4人目(巨漢): 片手で軽々と運び、岩を粉々に砕く(周囲から「おおっ!」と歓声)。
5人目(魔女): 11mで力尽き、ハンマーを落とす。
ロリアンは立ち上がり、深く息を吸い込む。
『よし……ハンマーを地面に付けずに運べればいいんだ。ゆっくりで構わない』
再びハンマーを太ももに乗せ、腰を落として水平に構える。ゆっくりと歩み始めるが、ハンマーの頭部の重みで右に傾き、よろめきながら進む。
周囲から嘲笑が飛ぶ。
「ハハハ! なんだあの歩き方!」
「酔っ払いみたいだぜ」
「途中で脱糞しないようにね~」
ロリアンの荒い息が周囲に響きながら、彼は一歩ずつ前進する。
『水平に持てば、ハンマーが手から滑り落ちるリスクが減る。よろめく歩き方は恥ずかしいが、体重分散には役立つ……呼吸もできるだけコントロールして疲労を防いでいる』
20メートルの距離を、彼は3分近くかけて進む。ゴールラインを越えると、ハンマーを地面に置き、再び座り込んで息を整えた。
観衆は静まり返った。
「マジで……やりやがった」
「今にも倒れそうだったのに」
「息遣いが遠くまで聞こえてたぞ」
「まさか魔法を使ったのか?」
トルガがたしなめる。
「負け犬の遠吠えはよせ。
あたしは場数を踏んできた冒険者だ。魔法を使ってたら、とっくに気づいてる。ま、仮にあたしが見逃したとしても、次のテストには魔術師の審査官がいる。奴は絶対に見逃さねぇよ。
あの小僧はただ……お前たちとは違う種類の力を持ってるんだ」
トルガはまだ息切れしているロリアンに近づく。
「どうだ、続けるか? ここまでで最低4点は確定だ。年齢考えれば上出来だぞ」
ロリアンは唾を飲み込み、必死に呼吸を整えながら答える。
「は……はい。それは……わかってます。でも……最後まで……やりたい。失敗しても……諦めるより……マシです」
トルガは笑みを浮かべ、ロリアンの頭を軽く叩く。
「わかった、小鬼。だがな、まだ80人も待ってるんだ。今日中に全員のテストを終わらせねえとな。1分だけ待ってやる。その間に岩を割れなきゃ、最後の部分は失敗だ」
ロリアンは深く息を吸い、30秒ほど地面に座ったまま休んでから、ようやく立ち上がる。岩の前にしゃがみ込み、視界を近づけて観察する。
『……幅30cmか。この形状なら、ここを叩けば割れるかもしれない……』
再びハンマーを握る。手のひらはすでに赤く腫れ、マメができている。今度はハンマーを両足の間に垂直に立て、前後に振り子のように揺らし始める。観客たちは呆然とする。
「まさか……あのガリガリが岩を割るつもりか?」
「ありえねえ! 運良く持ち上げられただけだろ」
振り子の動きは次第に大きくなり、ついにハンマーがロリアンの頭の高さまで達した瞬間――彼は体ごと回転し、ハンマーの遠心力を利用して岩を直撃させる。岩は粉々に砕け、しかし衝撃でロリアンはハンマーを放り出し、転倒する。
観衆はもはや笑わない。ただ信じられない顔で見つめるだけだ。
トルガが近づき、唸るように言った。
「岩を事前にチェックし、最適な打撃点を見極め、遠心力を利用した……力不足を知力で補うとはな。……感心したぞ」
ロリアンは恥ずかしそうに、息切れしながら小さく答える。
「……僕は……持ってる力を使っただけです」
「ああ。お前の場合は意志の力だったな」
ロリアンは試験場から離れ、視界の悪い目を細めながら、次のテストに備えて休憩する。
『……まさか……僕ができたなんて。大人でも3つのステージ全部クリアできないのに……』
赤く腫れ、マメだらけの手を見つめる。まるで何年もハンマーを握り続けてきたかのようだ。腕はまだ震え、背中は鉛のように重い。
『……たぶん……平均点は取れた。あと2つの身体テストが残ってる……集中しなくちゃ』
少しずつ水を飲みながら、脚を伸ばし、腕の特定のポイントをマッサージする。呼吸法を意識的にコントロール――次のテストでの疲労を最小限に抑えるためだ。