第6章:街道の戦い ― 第二部
右側の森の縁では、6人のオーク狩人たちがカエウ、馬たち、そして馬車に向かって一斉に火矢を放とうとしていた。
だが、その直前──木々の間から一つの影が現れた。
夜の影が素早く、静かに現れ、その小太刀で一人の狩人オークの心臓を一突きにする。オークは即死した。
そのまま夜の影は小太刀を引き抜き、隣にいた別のオークの首を深く斬り裂いた。大量の血を噴きながら、そいつも倒れ、瀕死の状態に。
「ローグだと!?だが奴は馬車の中にいたはずじゃ……!」
「そうか!あのガキの光の魔法は、部隊を眩ませるためじゃなくて──俺たちの背後に奴を潜り込ませるための目眩ましだったんだ!」
狩人たちは弓を地面に投げ捨て、腰に下げていた部族の短剣や手斧を手に取り、夜の影へと襲いかかる。
夜の影は卓越した回避能力と高い敏捷性を駆使して、3人の攻撃を軽々とかわす。
しかし、4人目のオークは獲物を狙う狩人のように冷静に夜の影の動きを観察し──その死角を突いて斜めから飛び込んだ。手斧が彼の胴の横に深々と突き刺さる。
***
その頃、森の反対側では、狩人たちが静かに樹木同化したエロウェンの周囲を回り込み、遠くにいるロリアンとカルタンを狙って弓を引いていた。
エロウェンの身体からは、血と樹液が混ざり合った液体が流れ、まるで完全に死んでいるかのように見える。九本もの矢が頭部、首、胸、心臓、腹と、すべて急所に突き刺さっていた。
──だが、矢を放とうとした瞬間、エロウェンが目を開き、呪文を詠唱した。
《棘の抱擁》
彼の周囲の地面から突然、太く鋭い棘を持つ根がうねるように伸び、全方位へ襲いかかる。狩人たちは油断しておらず、素早く身を翻して回避したが──森の足場は悪く、完全には避けきれなかった。
以前、棘の蔓からなんとか逃れた一人は、すでに瀕死の重傷を負っており、今回の攻撃で命を落とす。
もう一人も、前回受けたダメージに加えた今回の傷で致命傷となり、地面に倒れ込んだ。隊長格の狩人だけが無傷だったが、なんとか棘の領域から抜け出すために自らも重傷を負った。
「なんてことだ……ちゃんと注意してたのに、なんでお前が生きてる!?見ろよ、9本だぞ!?しかも全部急所だ!」
「ふむ……確かに、我は一時『半ば死していた』と言えよう。だが、汝らが我が術を免れた時には、すでに備えを施しておいたのだ」
「植物融合――この術により、我は植物と部分的に一体化し、接触している間はその特性の一端を得ることができる」
「元来の狙いは、汝らの矢に耐えうる肉体を得ることにあった。たとえ移動力を犠牲にするとしてもな。されど、それでも討たれる可能性を想定し、この術を選んだのだ」
「この《植物融合》により、我とこの樹は今や一つの肉体を共有しておる。ゆえに、我が命が尽きようとも、樹が有する精気と魔力により受動的治癒が働くのだ」
「肉体を共有している以上、その癒しは我個人の生命に依らぬ。それはこの樹の生理として機能しておる。すなわち、死してなお、我は癒えるのだ」
「この状態において、我が生き残れぬ唯一の方法は、同時にこの木をも切り倒すか、焼き払うかのいずれかであろう。あるいは、この木が回復に必要な養分や魔力を持ち合わせておらぬ場合である。
ゆえに、我は特に屈強な一本を選んだのだ」
「ハッ!やっぱりお前は頭のおかしいドルイドだな!木に融合してるくせに、魔法の仕組みまで喋っちまって……おかげで、今すぐお前を殺せるぞ!」
二人のオークは立ち上がり、弓を手に取り、その矢じりに火を灯してからエロウェンに向けて放つ。だが一本は届く前に地面に落ち、もう一本は木に命中するも、火はすぐに消えてしまった。
「一人は傷が深すぎて、狙いすらまともにつけられぬようだ。そして、そなたは気づいておらぬようだが、この森は先日の雨によりわずかに湿っておる。その程度の火では燃やすことなどできはしまぬ。
我が術の理を語ったのは、それが決して脅威とならぬという確信があったからである」
エロウェンが杖を高く掲げると、周囲の茨の領域が再び動き出し、二人のオークに襲いかかる。根が彼らの体を締めつけ、身体を貫き、ついに二人とも絶命する。
その後、エロウェンは魔法を解除し、木との融合を解いていく。地面に沈んでいく根と共に、オークたちの死体も消えていく。エロウェンの体に刺さっていた矢も落ち、傷はみるみるうちに癒えていく。
『確かに《植物融合》によって、我は半ば死した状態でも回復を得ることができた。しかし、この速度で回復し得たのはそれのみの効果にあらず。
木が矢を吸収し、致命傷を癒うまで、我は意識を保つこと能わなかった。だが、意識が戻った瞬間、我は《エルダーグローヴの樫の杖》を以て、更に迅速なる治癒を開始したのだ』
『《エルダーグローヴの樫の杖》は、通常の魔法やドルイド術の域をも超えた力を与える。ゆえに植物と意思を交わせるがため、離れた場所におるそなたたちの位置や種族、人数、武器に至るまで把握し得たのだ』
『この杖には独自の魔力が宿っており、それはまるで植物に水を与えるがごとく、日々充填せねばならぬ。
だが、その魔力を用いれば、我が自身の魔力を消費することなく術を行使できる。通路を封じ、三人の狩人を捕らえ、討ち取った術はすべて杖の魔力によって成された。
そしてその後にようやく、我自身の魔力を用い始めたのだ』
『さらに、森林内で自然と調和した瞑想の状態にあるとき、この杖は自動的に我を癒す力を発揮する。半ば死した状態においては、この能力は用いられぬ。
だが《植物融合》が最低限の回復を為したことで、我は自然との接続を取り戻し、杖の回復能力を併用し得た。木と一体となっていたゆえに、その効果も一層高まっていたのだ』
エロウェンはゆっくりとロリアンとカルタンの元へと歩み始める。
***
一方、街道では、リサンドラが肩に剣を刺したオークに反撃を加え、重傷を負わせて地に倒す。太陽の光の魔法を免れた三人のオークは再びリサンドラに襲いかかるが、彼女は大剣で巧みに防ぐ。
一人が攻撃に移ろうとした瞬間、リサンドラの大剣が別のオークを切り裂き、その刃に付着していた血が振り払われるように飛び散って、攻撃しようとした者の目を直撃した。
そのせいでそいつは視界を失い、振り下ろした剣が前にいた味方を浅く斬ってしまう。
するとリサンドラはその隙を逃さず、そいつを蹴って味方の剣に叩きつけ、さらに深手を負わせた。
***
森の向こう側では、夜の影が5人のオーク狩人たちの前に立ちはだかっていた。彼は素早く手で印を結ぶ。
《忍法:影分身!》
すると夜の影の体から複数の「夜の影」が分裂し、彼の周囲に戦術的な陣形を取って並ぶ。
「な、なんだと……?」
「このローグ、分身したのか?」
5人の夜の影はすぐに腰の後ろから数枚の手裏剣を取り出し、オークたちに一斉に投げつける。
《忍法:手裏剣の雨!》
オーク狩人たちはすぐさま森の中へ身を隠し、木々の陰に潜って攻撃をかわす。喉を切られていた一人のオークだけが手裏剣の雨を受け、即座に息絶えた。
***
街道では、カエウが《太陽の癒し》での回復を終えた。
「よし、もう大丈夫だ!」
彼は荷馬車から降りて少し前へ進む。そして視界に入った4人のオークが視力を取り戻し始めるのを見て、両腕を前に出し、両手の指で菱形を作りながら狙いを定める。
《太陽の光線!》
その手から光の束が放たれ、まるでレーザーのようにオークの一人に向かって突進する。光は熱を帯び、火傷のような痛みを伴ってオークの体を焼く。
「ぐあああああっ!?なんだ、今のは……!」
「えっ?ちょっと違ったな……。この魔法は自作したもので、実戦で使ったのは初めてなんだ。けど岩を吹き飛ばせるほどの威力はあったんだけどな……」
―――――
森の中、リサンドラとの戦いを観察していたロリアンは、カエウの放った光線を見ていた。
『まだ4人……それに7人、合計11人のオーク。何人かはまだ目が見えていない……』
「なあ、ロリアンくん。どうなってる?カエウくんが一人で逃げてるのか?リサンドラさんが一人で戦ってる?夜の影さんはどこ?これ、ヤバくね……?」
「まあ、カルタンさん……勝っているとは言えませんが、有利な状況にはなってきています。あそこにオークの死体が2体見えますし、ひとりは恐らく隊長格。となると、残りの兵たちは混乱しているはずです」
「リサンドラさんは優勢のようです。オークたちは彼女にほとんど攻撃を当てられていません。
夜の影さんの姿は見えませんが……もしカエウくんと馬車にいるのなら、敵を分断して各個撃破するような作戦を練っているのかもしれません」
「たしかに……。でも、夜の影さんってどうなったんだろう?まさか逃げたとか……?」
ロリアンは顎に手を当て、さらに思考を深める。
『何体かのオークは目が見えていないようだ。あの閃光は、遠くからでも見えた。カエウくんの魔法による一時的な失明かもしれない。だが、そろそろ効果は切れる頃……』
『リサンドラさんは順調そうだが……夜の影さんの不在が気になる。なぜカエウくんが馬車で後退していたのか。その理由も……』
『あの4人のオークは全員まだ目が見えていない。もし夜の影さんが近くにいたのなら、彼なら彼らを容易く仕留められたはず。それが起きていないということは……
もしかして夜の影さんは重傷を負って、カエウくんが彼を救おうとしていたのか?そうなら……今こそ、敵の数を減らすべきかもしれない……』
ロリアンは、エロウェンがまだ戻っていないことに気づく。
そして、カエウが《太陽の光線》を放つ前、馬車の近くにいた4人のオークの中に、ひとり傷つき血を流していた者がいたこともはっきりと見えていた。
『エロウェンさんがまだ戻っていない……ということは、狩人たちとの間に何かトラブルがあったに違いない。
僕……僕は、ここで突っ立ってるわけにはいかない!もし仲間たちが劣勢だったり、追い詰められているのだとしたら……僕にも何かできるはずだ。僕だって冒険者なんだから!』
ロリアンは意を決し、静かに集中し始める。その体を淡い魔力のオーラが包み込んだ。
《守護の幕!》
《内なる力!》
ロリアンの体には薄い魔力の膜が張られ、さらにその内側から力が湧き上がってくるような感覚が満ちていく。
「うおっ、ロリアン!あんた、ほんとに戦士なのか?魔法もそんなに使えるなんて!で、で、でもそれで……どうする気なのっ?」
「戦います!」
「えええええええええええっ!?!?」




