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プロローグ②:冒険者試験

ついに、その日が来た。


ロリアンが記憶のある限り夢見てきた瞬間――彼は今、エルドール三大ギルドの一角をなす「深紅の盾クリムゾン・エジード」のダンロレン支部の前に立っている。


『……ダンロレンに支部があってよかった。そうでなければ、他の街まで移動しなきゃいけなかったんだ。それこそ……大変なのに』


緊張と不安で一睡もできなかったロリアンは、誰にも告げずに試験に臨むことにした。落ちた時の嘲りを増やしたくなかったからだ――その可能性は十分にあると彼自身が一番わかっている。図書館に休みを願い出て、今ここにいる。


『……思ったより人多いな。……バカだ、ロリアン。ギルドの支部は人口が多い街にしかない。ダンロレンに支部があるなんて、奇跡みたいなものだ』


『つまり……近隣の街の受験者もここに集まるし、他のギルドで落ちた連中が時期をずらして再挑戦してくるんだ……』


心臓が高鳴る。申し込みの日ですら、ギルドの職員に「ガリガリの小僧さんが、立派な大人でも落ちる試験を受けるんだって?」と嘲られた。


ロリアンは躊躇し、なかなかギルドの中に入れない。50人ほどの受験者――その中には筋骨隆々の男たちもいれば、魔法使いらしき華奢な学生もいた。彼らは皆、確かな実力のオーラを放っている。


だがロリアンは違った。11歳の迷子少女が舞踏会に紛れ込んだような、そんな頼りない見た目だった。


受験者たちはギルド裏の広場に集められた。やがて、ギルドマスターのカルブレヒト・レイヴンハートが姿を現す――64歳の高身長で筋肉質な老戦士。顎に無精髭を蓄え、左目は傷跡に覆われた盲目の隻眼だ。


「若き候補者たちよ、ようこそ。深紅の盾クリムゾン・エジードギルド、春季・半年に一度の冒険者選抜試験へ」


「支部の試験にしては珍しい……今回の受験者は103名だ。予想外の数字だった」


ロリアンは息を飲んだ。


『103人!? 過去10回の平均は60人で、最多でも82人だったのに……』


「我々《深紅の盾クリムゾン・エジード》は、エルドール三大ギルドの一角として、その名声を賭けて諸君を評価する。覚えておけ――冒険者にとって、評判は全てだ! たとえ実力者でも、評判が悪ければ誰も雇わない。そしてギルドの評判は、所属する者たちの評判の総和なのだ」


ロリアンは縮こまりながら、ギルドマスターが自分を見下す妄想をしてしまう。


『だから、120年続く我がギルドの名声を、お前のような風で倒れそうなガリガリ小僧にかけるわけにはいかん』


……そう言われるに違いない。


現実のカルブレヒトは淡々と続けた。


「試験は簡潔だ。我々も無駄な時間を使う余裕はないからな。だからこそ、まともなギルドなら試験は年に二度しか行わん。


これから6つのテストを行う。それぞれ、お前たちの異なる資質を見極めるためのものだ。」


ロリアンは心の中で補足する。


『そう、6つのテストは冒険者に最も必要な六大能力値を測るんだ……【筋力】、【敏捷力】、【耐久力】、【知力】、【判断力】、そして【魅力】。形式は毎回変わるが、核心は同じ。僕は研究済みだ』


ギルドマスターが続ける。


「各テストの審査官は、銀ランク以上のベテラン冒険者が務める」


『ランクは【銅】→【青銅】→【銀】→【金】→【白金】で、ギルドマスターだけは【紅玉】の称号を持つ。白金の中でも特別な存在だ』


「試験は終日かかる。各テストの採点は0~10点。合計30点以上で合格だ」


『数学的には各テスト平均5点だが、例えば魔法使いは筋力や耐久力が低くても、知力で挽回できる。過去のデータが証明している』


「巷の噂ほど難しくはない」


カルブレヒトの声が響く。


「あくまで冒険者としての最低限を測るだけだ。『卓越』など求めておらん」


ロリアンは手首を握りしめる。頭では理解していても、不安がそれを許さない。彼は常に「並外れよう」とし、自分に満足したことがないのだ。


「気づいた者もいるだろう。わざわざ屋外に集めた理由を」


ロリアンは後列のため、人だかりの向こうが見えない。視力の弱い目を細めるが――


「最初の3テストは身体能力だ。では、最初の審査官を呼ぶ。『炎の刃ブレイジング・ブレード』――トルガ!」


カルブレヒトの言葉が終わると、オークの女蛮族が轟音と共にその横に着地した。彼女の筋肉は、ギルドマスターを含む在场のすべての男たちを凌駕する。


高身長で、螺旋状の戦いのタトゥーが体を覆い、1メートル超の大剣を背負っている。着ているのはブーツと最低限の防具だけだ。


「力こそ命! 肉体的であれ、精神的なものであれ、力のない奴は今すぐ帰れ! 冒険者という職業の苦難に耐えられるだけの力がなきゃ、話にならねえ!」


ロリアンは顔が見えなくても、その名前に反応する。


『うわっ……あれは『炎の刃ブレイジング・ブレード』トルガだ! 銀ランクの蛮族で、自作の武器で有名な――戦場では愛剣が炎に包まれるって噂の、あのトルガ!』


「いいか、この雑魚ども! 時間は有限だ! 俺のテストは単純明快!」


トルガは、一列に並んだ6つの大ハンマーの前に立つ。


頭部:幅30cmの正方形

柄:長さ40cm


「まずはこのハンマーを頭上まで持ち上げろ。重さはたったの18kg。ギルドの見習いですらこれぐらい楽々だ!」


そう言いながら、彼女は片手でハンマーを掴み、発泡スチロールのように軽々と頭上に掲げる。指先でクルリと回してみせる。


「次に、20メートルのコースをハンマーを地面に付けずに運べ。最後に、コース終点の岩を一撃で砕け。チャンスは一度きりだ」


ロリアンは安堵の汗をかく。


『良かった……内心ではトルガが【試験は、まず腕相撲で私に勝て! 次に荷車を街中まで押せ! そして最後に巨大な岩を背負え!】って怒鳴る姿を想像してた……』


「小グループで名前を呼ぶぞ!呼ばれたらすぐに来て、言われた通りにやれ。二度は説明しねぇぞ!名前言われたら、30秒以内にテスト開始しろ! 遅れたら即ゼロ点だ!」


ロリアンは不安で震える。自分が呼ばれた途端、周囲から好奇と嘲笑の視線が集中するだろう――今まで人混みの奥で目立たずに済んでいたが……。


トルガが4つのグループを呼んだ後、次の5人を指名する。そして6人目の名前に――


「……ロリアン・フェアチャイルド」


ロリアンの心臓が跳ね上がった。0点回避のために走り出すが、汗で手が滑りそうなほど緊張している。


ハンマーの前に立つ小柄で華奢な長髪の少年を見て、周囲の受験者たちが囁き始める。


「あのガキ、マジで冒険者試験受けるつもりか?」


「ハハハ! マジで? あの細腕でハンマーも持てねえだろ」


「子供のくせに、冒険者のリスクも知らんだろう。人気に憧れて来たんだよ」


「可哀想に……今から恥をかくんだ」


ロリアンは恥ずかしさに頭も上げられない。視力の弱さが逆に聴覚を鋭敏にし、悪意ある囁きがすべて聞こえてしまう。


彼の横には他の5人の受験者が並んでいる:


普通体型の男3人


ハンマーをフリスビーのように投げられそうな巨漢


明らかに魔法使いの女性


巨漢がロリアンに向かって話しかける――


「おいチビ、爪を折らないようにな。それと……パンツを濡らすなよ? ハハハ!」


周囲の受験者たちも爆笑に加わる。ロリアンはトマトのように赤面し、前髪で顔を隠しながらハンマーを睨む。


「よーし、6人揃ったな。じゃあ……始め!」


6人は一斉にハンマーを握る。


1人目:苦労して持ち上げるが、3秒で断念。

2人目:腕を震わせながら10秒間保持。

3人目:比較的楽に10秒クリア。

4人目(巨漢):片手で軽々と10秒。

5人目(魔女):10秒間必死に耐える。


そしてロリアン――


『重量挙げのテクニックを使えば、筋力以上の重量を持ち上げられる。屈強な戦士ですら、限界を超える荷物を運ぶ時はそうする』


両手でハンマーの柄を握り、膝の高さまで持ち上げる。少ししゃがみ込み、太ももにハンマーを乗せて、脚の反動で一気に頭上へ。最後に呼吸を止めて体幹を固定する。


ロリアンの顔は、血が噴き出そうなほど真っ赤だった。腕は制御不能に震え、貧相な筋肉が悲鳴を上げる。足までがガクガクと震える中、彼は心の中で10秒を数えた――千年のように感じる10秒だった。


10秒経過すると、彼は崩れ落ち、ハンマーを床に落としながらゼイゼイと息を弾ませる。周囲の反応は二分された――驚きと嘲笑と。


「おい、審査員! こんなので合格かよ!?」


トルガは振り向きもせず答える。


「試験は『筋力』のテストだ。テクニックのテストじゃねえ。だがよ、テクニックだけではこのハンマーは持ち上がらねえ。ルールは『10秒間頭上に保持』――クリアしたんだ。文句あるか?」


地面に倒れたまま、ロリアンは安堵のため息をつく。まだ震える手は赤く腫れ、痛みを訴えていた。


『……第一関門、突破。まだ残ってるが……少なくとも0点は回避だ』

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