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3 東京の朝、涙のあとに――美咲の再出発

朝の東京、通勤の波に飲み込まれながら、佐藤美咲はいつもの広告代理店に向かっていた。彼女の顔には、寝不足の痕と心のもやもやが滲んでいた。失恋は、仕事の効率だけでなく、心の平穏までも奪っていく。


「今日も一日、頑張らないと...」と自分に言い聞かせる美咲だが、心の中では田中健のことがちらついていた。彼は彼女の元彼であり、同じ広告代理店のマーケティングマネージャーだった。新しい彼女との関係が始まり、彼は美咲と距離を置くようになっていた。


代理店のエントランスを抜け、エレベーターに乗り込むと、美咲はふと鏡に映る自分の姿を見た。彼女は自分自身に問いかけた。「本当に大丈夫かな、私...」


オフィスに到着し、彼女はすぐにデスクに向かい、今日のスケジュールを確認した。そんな彼女の背後で、伊藤春香副部長が声をかけてきた。


「美咲、大丈夫? 何か顔色が悪いけど。」


美咲は一瞬、何を言われるかと身構えたが、伊藤副部長の声には心配の色が濃く滲んでいた。


「大丈夫です、ありがとうございます。ちょっと寝不足で...」


「無理しないでね。あ、そうだ。今日、新しいプロジェクトの提案をすることになっているわ。田中と一緒にやることになるけど、問題ないかしら?」


その言葉に、美咲の心は一瞬で重く沈んだ。田中健との仕事は、今の彼女にとっては苦痛以外の何物でもなかった。しかし、彼女はプロフェッショナル。表情を引き締め、頷いた。


「大丈夫です。しっかり対応します。」


午前中の会議が始まる前に、美咲はカフェで一息つくことにした。カフェは彼女の親友、鈴木絵里が経営している場所で、いつものように心地よい安らぎを与えてくれた。


「おはよう、美咲。いつものカフェラテ?」絵里が優しく問いかけた。


「うん、それと... ちょっと話があるんだ。」


カウンターに腰掛けながら、美咲は失恋の話を絵里に打ち明けた。絵里はいつも通り、じっくりと話を聞いてくれる。その中で、カフェの常連客である西村悠斗が加わり、彼の明るい話題が少しずつ美咲の心を和らげていった。


「失恋は辛いけど、これも一つのスタートだよ。新しい何かが始まる前触れさ」と悠斗は励ましてくれた。


美咲は少しずつ心を落ち着かせ、新たな一日の始まりを迎えようとしていた。その日の会議で、彼女は田中と向き合うことになる。それは彼女のクリエイティブな仕事とその挑戦、そして新たな始まりへの第一歩となるはずだった。


二階の会議室は静かで、窓の外には東京の高層ビルが連なる景色が広がっていた。美咲はガラステーブルを挟んで、副部長の伊藤春香と向かい合って座っていた。彼女の視線は書類に落ち着いており、その姿はいつも通り、仕事に集中している様子を見せていた。


「美咲さん、この新プロジェクトの提案、非常に良くまとまっていますね。」伊藤が言った。その声には、少なからず認める調子が含まれていた。


美咲は一瞬、自信を取り戻すかのように背筋を伸ばした。「ありがとうございます、伊藤副部長。このプロジェクトには特に力を入れています。」彼女の声はやや弾んでいたが、内心では田中との過去の関係が彼女の心を揺さぶっていた。


その瞬間、扉がノックされ、田中健が入ってきた。彼は美咲と目が合うと、わずかに表情を硬くした。伊藤副部長はその変化に気がつかないふうだった。


「田中さん、お疲れ様です。今、美咲さんの新しいプロジェクトについて話していました。」伊藤が説明すると、田中は一礼して、美咲に向かって軽く会釈した。


「美咲、いい提案だと思うよ。」田中の声には前のような温かさはなく、仕事の話題に限定された距離感が感じられた。


「ありがとうございます、田中さん。」美咲は返答しながら、彼の目をしっかりと見返した。彼女は自分の感情を抑え、プロとしての態度を保つことに専念した。


その後、会議は具体的なスケジュールの調整や資源の配分についての議論に移った。美咲は時折、田中の視線を感じながらも、自分の意見をしっかりと伊藤副部長に伝えていった。


会議が終わると、美咲は一人でカフェに向かった。そこで彼女は親友の鈴木絵里と合流し、今日の出来事を落ち着いて話すことができた。


「田中さんの前で堂々と振る舞えたんだ。それが少し、自分でも驚きだった。」美咲がカフェのテーブルにカップを置きながら話すと、絵里は優しく微笑みながら手を握った。


「美咲が強くなっているのを感じるよ。」絵里の言葉に、美咲は感謝の気持ちでいっぱいになった。


その日の夕方、美咲は新しいプロジェクトの資料を手に、一人で事務所に戻った。彼女は自分のデスクに座り、これからの計画について深く考え込んだ。失恋からの回復、そして新たな始まりへの道。彼女の心は不安と希望で満たされていたが、明確な目標が彼女を前に進ませていた。



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