虐めの代償
「オーイ、皆んな、かくれんぼやろうぜ。
鬼はとうぜん奈留な」
「え、また僕なの……」
「あたりまえだろ、鬼奈留って自分から立候補してるんだからな」
「「「「「アハハハ、そうだ、そうだ」」」」」
何時も俺と一緒に奈留を虐めている仲間たちが同調する。
元々奈留の名字は柴田って言ったんだけど、奈留の母親が鬼って姓の人と再婚した所為で、柴田奈留は鬼奈留って名前に変わったんだ。
柴田奈留って名前の時から虐めてはいたけど、鬼奈留になってからはかくれんぼだけじゃ無く、鬼ごっこでも缶蹴りでも鬼は何時も奈留に押し付けてる。
奈留を虐めるのは学校の中だけじゃ無い。
遠足で街の校外にある公園に行った時も虐めた。
公園には鬼の塚って言われているデッカイ石でできた塚かあるんだけど、昔から此の鬼の塚には鬼って字が付く姓名の人は近寄っては駄目だという言い伝えがあったんだけど、俺たちは嫌がる奈留を塚まで引きづって行って近寄らせる。
そうしたら奈留の奴、翌日から1週間程学校を休みやがった。
それで今日久しぶりに奈留が登校して来たんで、昼休みに鬼ごっこをする事にした。
「鬼はとうぜん奈留な」
「ウン、分かった」
何故か今日は素直に返事を返して来る。
朝登校して来た時から思ってたんだけど、なんか今日の奈留は何時ものビクビクして怯えた表情の奈留じゃ無いんだよな。
その訳は鬼ごっこが始まって直ぐ分かった。
鬼ごっこに参加しているのはクラスの男だけなのに、奈留は関係無い隣のクラスの先生に抱きついたんだ。
そしたら……そしたら……、抱きつかれた先生が鬼になったんだよ。
鬼ごっこの鬼じゃないぞ、地獄を描いた絵とかイラストに描かれてる鬼そっくりな金棒を持った鬼になって、奈留と一緒に皆んなを追いかけ始めたんだ。
その先生だけじゃ無い、奈留や鬼になった先生に触られると触られた奴も皆んな鬼に変わる。
金棒を持った地獄の鬼に。
でも……俺の仲間たちだけは違ったんだ。
触られるんじゃ無くて仲間を追い詰めた複数の鬼たちに、金棒で身体がグチャグチャになるまでぶっ叩かれる。
仲間がいたところには細切れになった肉片と血溜まりだけが残ってた。
そして俺は逃げ回った挙句に校舎の屋上の片隅に追い詰められる。
金棒で殴られるのを身を竦ませて待っている俺に、奈留が声を掛けて来た。
でも喋っているのは奈留なのに、その声は奈留じゃ無くて野太い大人の声。
「お前は殺さん、地獄に戻る儂がお前を直々に地獄に連れて行ってやろう。
お前たちが此の身体の主を鬼の塚に近寄らせたお陰で、儂の意識が此の身体の中に入り込んだ。
あの塚に鬼の姓名の者は近寄ってはならぬという言い伝えは、少し間違って伝わっている。
何か悩みを抱えた鬼の姓名が付いた者があの塚に近寄ると、儂のような地獄の鬼が近寄った者の身体に入り込み、悩みを解決してやるのだ。
だから儂は此の身体の主の悩みであるお前たちを成敗する事にしたのだ。
さぁ行こう。
地獄でお前をタップリと甚振ってやろうぞ」