衝突&潜む影
船が島に戻ると、そこには戦闘を終えてリョウ班の帰りを待っているナガレ達がいた。
重々しい空気が漂う島内。状況を知らないリョウ班は島に降りる。
「遅かったな。大丈夫だったか?」
「水中に住むヨグドスがいましたが、ディアン君のお陰で誰の犠牲も出る事なく討伐する事が出来ました。あの……」
リョウは島に降り立った時から気になっていた疑問を口にする。
「何かあったんですか……。黒土班の姿も……」
「死んだよ。黒土班はヨグドスの手によってな」
「……ッ!」
その発言は近くで聞いていたディアン達の言葉も失わせた。
そんなリョウ達に対してナガレは淡々と言葉を続ける。
「標的のカマキリ型ヨグドスの仕業だ。だが仇はとった」
「あぁ……」
リョウは涙流れる顔を手で押さえ、その場に崩れ落ちる。
もし自分がその場にいたら犠牲にならずに済んだかもしれない。
無理な事だと分かっていても、そう思わずにはいられなかった。
仲間の犠牲に嗚咽するリョウの肩にオウセイはそっと手を置く。
「アイツらがいたから、これから先、犠牲になる人達は減るんだ。帰ったら手厚く弔ってやろう」
コクりと頷くリョウ。
そんな光景を見てアリスは無意識にディアンの袖を掴む。
悲しみか恐怖か。アリスの行動の理由は分からないがディアンは伝える。
「これが戦場だ。知らない内に周りの人間は死んでいく。そして同じ事がいつオレ様達に起きてもおかしくない。分かったなら、次からはついてくるな。これまでは運が良かっただけなんだ」
「……嫌だ」
予想外の返事にディアンは目を見開く。
「何だと……?」
その言葉には怒気が混じっていた。
そしてそれをアリスも感じ取っていた。
だが引かない。アリスは前を向き、袖を強く握ると意思を伝える。
「私も戦う。その為に銃だって使えるようになった。この世界を知った。守られるだけの生活なんてしたくない」
「キサマの親が許す訳ないだろ」
ディアン自身が止めた所で止める様な精神をアリスは持っていない。
だが親なら別だ。生まれて16年。アリスの隣に立ち支えてきた存在。
人生の宝とも言えるアリスをあの父母が許す筈がない。
しかしアリスは強く返す。
「私の人生は私のものだ。誰にも決める権利なんてない」
「だとしても止める権利はある」
「邪魔するつもり?」
「邪魔じゃない! わざわざ死地に飛び込む必要がないと言っているんだ!」
ディアンは声を荒げて袖を握る手を振りほどく。
そんな行動にアリスは思わず驚き、体が反応する。
そして何事かと周囲の視線も二人に注がれる。
だがそんなの知った事ではないディアンは語気を強め話を続ける。
「オレ様はキサマが施設についてくる事も反対だった。それだけに飽きたらず任務にまでついてきやがって。キサマが死ねば、どれだけの人間が悲しむと思っている。戦場に出るという事は1秒後には死んでいる可能性だってあるんだ。キサマもそれは分かっているだろ」
「そうやってずっと子ども扱い。私の気持ちも尊重してよ!」
「出来る訳ないだろ!」
アリスの声よりも更に大きな声をディアンは出す。
お互いの想いがぶつかり合い、熱は増していく。
このままでは収拾がつかなくなる。
それ程の熱があったが、それを冷やす為、間にナガレが入ってくる。
「二人共いい加減にしろ。その話がしたいなら帰ってからにしろ。今の状況が分かっているのか」
その言葉で二人は二人だけの世界から引き摺り出される。
向けられる視線が痛い。
アリスは気まずさで視線を地面に向ける。
だがディアンはまるで気にする様子を見せない。
「キサマはまだ子どもだ。守られる対象は他人の言葉に耳を貸すべきだ」
そしてアリスに言葉を残して離れていく。
アリスには最後の言葉がとても冷たく鋭い針に感じられ、胸を押さえるのだった。
その後、島内の職員らは船へと戻る。
仲間の亡骸の入った遺体袋を一つ一つ丁寧に船に積み込んでいく。その仲間との記憶を乗せて。
そして出航して暫く経った頃、アリスは甲板に出て潮風を浴びていた。
【守られる対象】ディアンの発したその言葉が胸につかえている。
力を得て隣に立てたと思っていたのは自分だけだった。
まだ足りなかった。どうすれば対等になれるのか。
「私だって一緒に戦いたいのに……」
思い出すと涙が込み上げてきた。
半端な覚悟で言った訳じゃない。
戦いを見て、守られ続けて、それではダメだと心の底から思ったから言ったのに……。それはディアンには届かなかった。
人魚型ヨグドスとの戦いで少しは認めてくれたと思ったのに自惚れていただけだった。
涙は潮風に乗り、声は波の音にかき消される。
アリスの孤独な想いは誰にも届く事はなかった。
※※※
同時刻。ある場所に一人の人影が淡い炎に揺らめいていた。
巨大な岩をくり抜いた様な質感の壁。あまりにも大きなその空間で、影の主は問う。
「よかったのか? 助けに行かなくて」
独り言でも自問自答でもない。
炎のない暗闇の奥にいるそれへの問いだ。
それは椅子に座ったまま見えない空を仰ぐと、何故だか満足そうに笑みを溢す。
「いいのさ。ボクが行った所で邪魔になるだけだ」
「その結果仲間が死んだとしてもか?」
「……」
それは何かを考えているのか、笑みは消え、視線を影の主に向ける。
「アイツらは仲間じゃないよ。ボク達には仲間なんて関係性は存在しない。そういう君はどうなんだい? その傷が疼かなかったのかい?」
影の主は胸についた巨大な斬り傷を触る。
ゆっくりと軌道をなぞって、恨みを思い出す様に。
「今はその時ではない。裏切り者も、私の理想に反する者も殲滅する。理想の為に散っていった同士の為にも」
この傷は失態の証。戒めだ。
傷が消えるとすればそれは全てが成し遂げられた時。
「エルコ、ディリック。必ずや成し遂げてみせよう」
シグマは自身に言い聞かせる様に呟く。
そんな覚悟には興味がないのか、それはそっぽを向いている。
「あぁ……兄さん。早く会いたいな」
待ち焦がれたものに期待を膨らませて……。




