初めての任務
アリスが射撃訓練場にいた頃、ディアンは別の訓練場にて、ライグリッツを組手を交わしながら話をしていた。
「どうだ?ここには慣れたか?」
「慣れはしたが、ここにいる奴らの目は変わらんな」
「まぁそうだろうな。吸血鬼を敵視する奴らの方が多い。だからってこっちが無下に関われば溝は深まるばかり。難しい立場だ。だがな、シュウをぶっ倒してくれた事には人間達も感謝してると思うぜ。特に人間の女はな」
「これで少しは動きやすくなるといいがな」
ライグリッツは「ワハハ」と笑い、ディアンの拳を片手で受け止める。
「俺達がヨグドスとは別モノだと証明が出来ない。道のりは険しいだろうな」
ディアンは拳を掴んでいる手を振り払う。
「だが悠長にもしていられない。バルバを見つける為には人間の協力が必要だ」
「ま、簡単には見つからねぇだろうが、協力はしてやる。これからお前には活躍してもらわないといけないしな」
会話が終わると、そのタイミングで訓練場に設置してある放送機器から音声が流れる。
「ディアンさん。今すぐ第一会議室までお越しください。繰り返します……」
「何したんだ?」
「さぁな」
ディアンはタオルで汗を拭くと訓練場を後にする。
※※※
第一会議室。そこはいつもある会議室の一つ。
どの会議室も同じだが、長机がずらっと並び、巨大なモニターがあるのが特徴だ。
ディアンが第一会議室に着くと多くの職員に紛れ、ナガレやコトネといった覚えのある顔が着席していた。
「こっち来いよ」
ディアンの登場に嫌悪感を示す職員が多い中、ナガレはディアンへと声をかける。
ナガレに促されディアンは前方二列目の席に座ると、隣にいるナガレに問う。
「どういう集まりだ」
「今から分かる」
ナガレは腕を組み、顎を使い前を見る様伝えると、モニターが作動する。
そしてモニター横に座っていた女性が立ち上がる。
「全員揃いましたので始めさせていただきたいと思います」
女性は手に持った小さな機械のボタンを押すと、暗い画面が何処かに漂着した損壊した船舶の写真に切り替わる。
「以前より太平洋沖で船舶事故が多発していましたが、生還した船員より漂着した金美島にて、巨大なカマキリに襲われたと証言がありました。我々はこれをヨグドスによって引き起こされた事件であると推測し、皆さんに調査を依頼します」
「だとよ。何で呼ばれたか分かったろ?」
充分理解出来た。
いつ来るのかと思っていた所だ。
漸く特殊生命体対策機関らしい事が始まる。
だが一つ。ディアンにとって不安要素があった。
「一ついいか?」
「何でしょう」
女性が発言を許可すると、ディアンは立ち上がる。
「オレ様はある人間と契約をしている。そいつを死なせない為にも、危険な任務であるならば辞退したい」
手前勝手は願いだとは分かっている。
だがそれでも、この命が自分だけのモノではない以上、発言せざるを得なかった。
しかし、ディアンの願いに対する返事はあまりにも冷たいものだった。
「アナタもアングラの職員である以上、任務を放棄する事は許されません。どうしてもしたくないと言うのなら仕方がありませんが、その場合得体の知れないアナタを匿う理由もありませんので、独房にて監禁した後、処分となるでしょう。契約している方には申し訳ありませんが、協力しない場合は人類の敵と見なします。尊い犠牲となっていただきましょう」
「だが―――ッ」
言いたい事は納得出来る。
しかし到底受け入れられる訳はない。
食い下がろうとするディアンだったが、ナガレが腕を掴み、首を横に振る。
「クソッ……」
ディアンが座ると、女性は何事もなかったかの様に、事の詳細とこれからの動きについて話を始めるのだった。
そして全ての話が終わり、皆が席を立っていく中、ディアンは椅子から立てずにいた。
そんな様子を見かねてか、ナガレは声をかける。
「準備が出来たら出発だ。行くぞ」
「分かっている。分かっているが……」
「お前は危険だと感じたら逃げればいい」
ナガレはポンッとディアンの肩を叩く。
「遅れんなよ」
ナガレはそう告げると出て行った。
その背中が消えた後、ディアンは小さくため息をつき、重い腰を上げるのだった。
※※※
自室に戻り、支度を済ませると、ディアンは集合場所であるだだっ広い倉庫の様な場所へと行く。
会議室にいた面々が揃っている中、一人あの場にはいなかった人物を見つけると、ディアンはひどく憤慨した様子で、その人物の元まで詰め寄る。
「小娘。キサマ何をしている」
なんとそこにいたのは、共にここで生活する事になったアリスだった。
だがアリスは戦闘員ではない。本来ここないるべき者ではないのだ。
そんなアリスがここにいる。
それが何を意味するのか。
問い詰めた本人にも分かってはいた。
そしてその答えはアリスの口からも告げられる。
「私も行くの。アンタには私が必要だから。それに、私だってただ守られるだけじゃない」
そう言うとアリスは腰に付いたホルダーから銃を取り出し、ディアンに見せ付ける。
そんな様子に頭が痛むのを堪えながら、ディアンは近くにいたナガレへと今度は詰め寄る。
「あれはキサマの入れ知恵か」
すぐに状況を把握したナガレは毅然とした態度で返答をする。
「あれはあの子が自分で考え、行動した結果だ。俺は掴み取ろうとする手を取っただけ。責めてやるなよ」
「責めはしない。だがアイツまで戦場に巻き込むのは違うだろ。本来ここにいるべきはオレ様だけだ」
「そうだな。だがお前達が契約関係にある以上避けられなかっただろう。そしてあの子がここにいる事には俺にも責任がある。だから俺が命に代えても守ってやる」
ナガレの目に嘘はない。
ディアンはナガレの言葉を信じ、アリスの元へと戻る。
「小娘。いいか、絶対に危険な事はするな。今からやる事は遊びじゃない。一歩間違えれば死に直結する。周りの指示に従って動けよ。いいな?」
「分かってるよ!」
親の小言の様なネチネチとしたディアンの発言に、アリスは食い気味に返事をする。
言われなくても重々承知の上だ。
少ないながらに、命の奪い合いの現場は経験している。
だからこそ、生半可な覚悟ではここにはいない。
自分の立場も理解している。
「ならいい」
特殊生命体対策機関職員としての初めての任務。
各々、様々な覚悟を胸に出発するのだった。




