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戦闘試験で力を示せ

 歓声と罵倒が響き渡る。

 砂地の地面にガラス張りのドーム。その外に観衆の職員達。

 まるで見世物小屋。中世の闘技場だ。

 だがこれは娯楽ではない。れっきとした訓練。もとい試験だ。

 円形の訓練場。その中心で、二人の戦士が武器を構える。

 片やダガーナイフを。片や血の鎌を構え、今か今かと開始の音色を待ち望む。

 何が起きているのか。それは少し前にさかのぼる。


 ※※※


 入職翌日、朝7時。部屋に設置されたスピーカーの目覚まし音声で、ディアンは目を覚ます。

 身支度を済ませると、最後にディアンは支給された制服を手に取る。

 闇に溶け込む黒とは正反対の白の制服。

 身に纏うだけで気が引き締まる。

 同時に組織の一員になったのだと実感させる。


「行くか」


 朝食の為、食堂に行くと多くの職員が食事をしている。

 バイキング形式の朝食。ディアンが列に並ぶと周囲の職員が露骨に嫌悪感を出す。

 だがディアンは気にする様子もなく、適当に食事を見繕うと、広大な食堂の中で人気ひとけのない席に座る。

 そして食事に手をつけようとすると、隣の席にドカッと食事の乗ったお盆が置かれる。


「隣いいか?」

「断ったら何処かに行くのか?」

「ハハッ。行かねぇな」


 ナガレは笑いながら椅子に座る。

 軽めなディアンの食事とは異なり、朝から肉肉肉の肉三昧にくざんまい

 見ているだけで胃もたれしそうな朝食を食べながらナガレはディアンに話しかける。


「今日、お前の戦闘試験がある。準備しておけよ」

「そういうのは事前に知らせておくものじゃないのか」


 ディアンは玉子焼きを口に運ぶ。


「んな堅苦しいもんじゃねぇからいいだろ。薄々勘づいてるだろうが、お前はまだ認められてない。今回の試験でお前の力を見せつけてこい」


 ディアンは黙々と食べ進めていく。

 そして食べ終わると立ち上がる。


「言われなくてもそのつもりだ」


 ディアンは食べ終えた食器を持って去っていく。


「9時に大訓練場に来いよ!」


 ナガレは去り行くディアンの背中に声をかけるが、ディアンは反応なく歩いて行くのだった。

 そして9時前、ディアンが大訓練場に向かっていると、一人の少女が声をかけてくる。


「案外似合ってるじゃん」

「小娘。何をしている」


 何処から湧いてきたのか。品定めする様にアリスはぐるりとディアンを観察する。


「何って、私の血が必要でしょ?」

「キサマも知らされていたのか。学校はどうした」

「オンラインだからいーの」


 何が大丈夫なのか分からないが、ディアンは面倒になる事を避けて、それ以上突っ込みはしなかった。

 そして共に大訓練場へと向かって行くのだった。


 ※※※


 時は戻り、大訓練場。

 ディアンと対峙するのはシュウだ。


「ここにテメェの居場所はねぇ。ここは人間様の場所だ。実力の差を見せつけてやる」

「口だけじゃないといいがな」

「クズが……ッ!」


 開始の機械音が鳴り響く。

 先に動いたのはシュウ。

 音が鳴ったのと同時に、シュウは大きく地面をえぐり、ディアンの懐に潜り込む。


「一瞬で終わらせてやる」


 そしてナイフを全力で斬り上げる。

 胴から上を斬り捨てる勢い。

 ディアンは鎌の柄で斬撃を受け止める。

 だが何か違和感を抱いたディアンは、そのままシュウの斬り上げる勢いに任せて後ろに飛ぶ。


「おいおいおい! 何逃げてんだよ!」


 違和感の正体は分からない。

 しかしそれを探る前にシュウが斬り込んで来る。


「何だよ、防戦一方か!? 一丁前なのは口だけか!」


 隙間なく打ち込まれる斬撃を捌き続けるが、ディアンはジリジリと壁際に追い込まれて行く。


『まるで隙がない』


 そもそもディアンの武器の特徴はそのリーチの長さにある。

 相手に間合いに入らせず狩る。

 それが戦法だった。

 しかし短い武器を持ち、懐に入り込まれた。

 立て直す為には距離を取るしかない。

 このまま行ってもジリ貧。

 ディアンは壁際に追い込まれる前に手を打とうとする。

 だが、その前に何故かシュウは攻撃の手を止めバックステップで後退した。

 チャンス到来。

 ディアンがそう思ったのと同時、シュウは狙い済ましたかの様に大きく飛び、ディアンの脳天目掛けてナイフを振り下ろす。

 ディアンは咄嗟に防御をとる。

 鎌を上に掲げて柄でナイフを受け止める。

 受け止めた筈だった。


「―――ッ!!」


 まるで熱したナイフをバターに落とした様に鎌は割れ、ディアンの左胸部から右脇腹は、大きく切り裂かれた。


「何が起きたのか分からねぇって顔してるな。誰にも教えてもらえてねぇだろうから、親切な俺が教えてやるよ」

「あ?」


 距離を取ったディアンに追撃してくる様子はない。

 シュウは余裕の表情で、ナイフをくるくると回している。

 血は多く出ているが傷は深くない。骨にも届いてはいない。

 範囲が広いだけで吸血鬼(ヴァンパイア)にとっては軽傷だ。

 いつもなら出血もすぐに収まる。

 だがしかし、今回は違った。

 傷は塞がらず、血は止まらない。


「この武器。ただのナイフだと思うか? 違う。これにはヨグドスを殺す為の素材が入っている。何か分かるか?」


 一見するとただのダガーナイフ。

 それをヨグドスを殺す為の道具に変化させる術など、ディアンは聞いた事がない。

 傷口を押さえるディアンが無言でいると、シュウは独りでに語り出す。


「聖銀だよ。聖銀による傷は簡単に癒える事はない。だがそれはヨグドスとテメェら吸血鬼(ヴァンパイア)に対してだけだ。この意味分かるか?」


 シュウは力強くナイフ握り締める。


吸血鬼(ヴァンパイア)とヨグドスは同じって事だよ! いくらテメェらが繕おうと聖銀が効く時点で、吸血鬼(ヴァンパイア)も人類の敵だ!」


 ディアンはようやくく合点がいった。ここに来てからの職員の視線の意味に。

 ここの職員にとって、吸血鬼(ヴァンパイア)は人に近いだけのヨグドス。同じ化物という判断なのだ。

 だがその気持ちが分からない訳でもない。

 吸血鬼(ヴァンパイア)とヨグドスは同じ世界の生物。

 この星に住む人間にとっては、どちらも外来種だ。そこに同じものが効果的とこれば疑ってかかるのは仕方のない事だろう。

 だがナガレ等、友好的な人間もいる。

 今は無理でも時間をかけていけば、いずれは理解を得られるかもしれない。

 しかしそれは今は関係のない事だ。

 今やるべきは力を示す事。

 共存や理解は、その先だ。


「ディアン!」


 大訓練場への入口にいるアリスの焦る声が聞こえる。

 ディアンは心配するなと言う様にアリスを一瞥した後、シュウを見る。


「言いたい事は分かった。だが否定させてもらう。吸血鬼(ヴァンパイア)はヨグドスとは別モノだ。同じものが効くからと同じにしないでもらいたいな」

「いくらテメェがほざこうが変わんねぇよ!」


 再度斬り込みにかかるシュウ。

 ディアンは新しく鎌を生成し迎え撃つ。

 聖銀による攻撃は何度もくらえない。

 先程の攻撃でいくつか聖銀の性質について分かった事がある。

 一つは吸血鬼(ヴァンパイア)の高い治癒能力を阻害する事。今しがた鎌生成の為に傷付けた掌の傷はすぐに治癒していく事から、斬られた箇所のみ影響があると考えていい。

 二つ。傷付けられた箇所からの出血は操作出来ない事。細かい理由は分からないが、能力にも影響があるという事だ。

 そして三つ。操作した血にも影響がある。一撃目に覚えた違和感の正体がこれだ。何度も打ち合いをすれば鎌は血液に戻されるだろう。

 互いの刃が弾き合う音が響く。


「殺しはなしでも舐めてっと死なすぞ!」


 今度はディアンも押される事なく応戦している。

 だがこのままでは取り回しが良いナイフを使い、小回りも効くシュウに詰められるのがオチだろう。

 そもそもいつまで鎌がもつかも分からない。

 先手を打たなければならない。

 シュウはディアンの放つ斬撃をナイフで弾く。

 そのつもりだったが、刃が触れ合う瞬間、操血は解除され、ディアンの鎌は血液に戻った。

 完全に迎え撃つ姿勢だったシュウは意表を突かれ、そのまま前のめりにバランスを崩す。


「舐めんな!」


 しかしシュウも戦闘のプロ。倒れる前に足を踏み出し体を支える。

 だが完全に体勢を立て直すには一瞬の隙が出来る。

 ディアンは鎌を振る勢いに乗せていた自身の体を、すぐさま振り切った状態に持って行った。

 そして左の拳を握り締めて傷を付けると、その血を操作してガチガチに固めたグローブを作る。


「うおおおぉぉぉぉぉ!!」

「な―――ッ!」


 体の捻りを活かし、全エネルギーが乗った渾身の左ストレートがシュウの顔面に突き刺さる。

 完全無防備な状態でくらった一撃。

 シュウは地面を抉る様に勢い良く吹き飛んだ。


「どうした。地面とキスするのが趣味か?」


 地に伏したシュウをディアンは煽る。

 普通の人間なら死んだだろう。

 だがこの戦いの中でシュウには人間離れした身体能力感じた。

 この程度では死なない。そう判断し、ディアンは全力で殴った。

 そしてそれは正解だった。

 ディアンの挑発に、シュウは顔を押さえながら立ち上がる。


「テメェ……。やりやがったな……!」

「舐めてたのはどっちだ?」

「ぶち殺す……ッ!」


 睨み付けるシュウの顔は酷いものだった。

 鼻の骨が折れ、血がダラダラと出ている。

 そんな鼻をシュウは掴むと、無理やりずらして、骨の位置を直す。

 血は止まらない。だがシュウもまた止まらない。


「うるあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 シュウはナイフを右手に構え、低姿勢で走り始める。

 ディアンはすぐさま掌の血を飛ばし、無数の棘を生み出すが、シュウは全て捌きながら突進してくる。

 そのまま突撃するのかと思った。

 ディアンも迎え撃つ為に、今度は掌から刃を生やす。

 だがシュウは直前で横に飛ぶと、縦横無尽にディアンの周囲を走り始めた。

 まさに人間離れした身体技術だ。

 尋常ではないスピードてディアンを翻弄し続ける。


『ここだ!』


 そしてシュウはディアンに斬りかかる。

 背後をとり、隙を突いた一撃。

 決まるかに思えたが、突如、シュウの足元に円柱が発生し、上空へと打ち上げられる。


「何……だと……ッ!」


 ダメージはない。だが空中では足場がない。

 あの刃はブラフ。それだけではない。

 それまでの全てがブラフとなっていた。

 手元ですぐに操血をして、地面に落ちた血を操れると想像させなかった。

 シュウ側もディアンの能力の詳細を把握している訳ではないからこそ通じた手だ。

 ディアンは刃を解除し翼を広げると、シュウの頭上へと移動する。

 そしてディアンは攻撃の届かない距離で操血をする。


「何したって俺は倒れねぇ! テメェの喉元に喰らいついてやる!」

「出来るといいな」


 ディアンが言葉を送ると、いつ撒いていたのか、シュウの周囲にある血の粒が網へと変わり、シュウを捕縛する。


「悪いがこっちも必死でな。手加減は出来ん」

「ク……クソがぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ディアンは大きく羽ばたくと急降下していく。

 がんじがらめで動く事の出来ないシュウの悲痛な叫びをあげることしか出来ない。。

 そんな叫び声も生成された巨大なハンマーに打ち付けられ、無情にも打ち消されてしまうのだった。

 場内は静まり返っている。

 その場にいる者の殆どが予想だにしていなかった展開を受け入れられずにいる。


「オレ様の勝ちだな」


 ディアンの足元には地面に叩きつけられたシュウが白目をむいて天を仰いでいる。

 勝負はついた。

 間を置いて終了の機械音が鳴り響くと、医療班が駆け込んで来て、シュウを運んで行く。


「大丈夫!?」


 入れ違いで入って来たアリスは心配そうにディアンの体を見る。

 血は止まっているが、傷はまだ塞がっていない。


「血をもらってもいいか」

「いいよ」


 アリスが袖を捲り、腕を差し出すと、ディアンは手首に噛みつき吸血をする。

 するとみるみるうちに傷は塞がっていった。


「治ってる」

「聖銀による傷は吸血でないと即座には治らんという事か。助かった小娘。行くぞ」

「ねぇ! シュウさん大丈夫なの?」

「加減はした。暫く動けないだけだろ」

「えぇ……」


 全く気にする様子のないディアンに、いぶかしげな眼差しを向けながら、アリスは後をついていった。

 そしてその後も、場内は静寂に包まれていた。

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