手荒い歓迎
「紹介する様な場所はこれくらいかな」
「ありがとうございました」
一通りの案内が終わり、アリスはマコトに頭を下げる。
食堂やオフィスもあれば、訓練場など、特別な場所もあった。
全体の大きさからすれば、今日見たのは一部なのかもしれないが、新鮮な景色ばかりでアリスはもうお腹がいっぱいだった。
景色も白塗りの壁が目立ち、正直言って、今自分が何処にいるのかも分からない。
『座りたいな』なんてアリスが思っていると、緑髪モヒカンに顔面ピアスまみれのいかにも柄が悪そうな若い男性がこちらに絡んでくる。
「よぉ3バカ。コイツらが噂の新人? 案内してんの? 殊勝な事で」
「そうなんだ! ナガレさんに頼まれてね」
「頼まれたって。面倒事押し付けられただけじゃん!」
馴れ馴れしくマコトの肩に手を回した男はバカにした様に笑う。
明らかに見下した雰囲気がある。
見ているだけで不快な気分になりそうな光景だが、マコトは意に介する様子なく笑顔を絶やさない。
「面倒事だろうと何だろうとヒーローは全力で任務を遂行するよ!」
「へぇ、そうか。頑張れよ」
男はマコトから離れると、今度はアリスの前まで来る。
前のめりになり、アリスの視線に視界を合わすとニコリと笑う。
「可愛いねぇキミ。俺は緑川シュウ。名前なんて言うの? 戦闘員として来たの? 違うか。まぁ今日は疲れてるだろうし、俺の部屋でゆっくり話そうよ」
「えっ? ちょっと……」
まるでナンパの様な捲し立てに困惑するアリスの腰にシュウは手を延ばす。
しかしその手はアリスに届く事はなかった。
「放せよ」
シュウの手首を掴むディアンは、言葉には耳を貸さず徐々に力を強めていく。
ギチギチと骨が軋む音がする。
「……ッ! 放せっ言ってんだろ!」
シュウはディアンの顔面目掛けて蹴りを放つ。
だがディアンはシュウから手を放すと距離を取り、軽やかにかわす。
「化物風情が俺の体を傷付けやがって。覚悟は出来てんだろうな」
「キサマがくだらん事してるからだろ」
「殺す」
ディアンの先の行動と発言にキレたシュウは腰に備え付けられているダガーナイフという両刃の短剣を取り出し、ディアンへと斬りかかる。
「やめて!」
アリスの叫ぶ声が響く。
だがシュウは止まらない。
その気迫たるや、獲物を屠る狩人の様。
しかしディアンも黙っている訳がない。
距離が近く、血を飛ばす暇はない。
それならとディアンは拳を握り締め血を出すと、掌に血の刃を作り出し迎え撃つ。
互いの刃がぶつかり合う―――筈だったが、いつかの光景と同じく、その刃は透明な壁に阻まれる。
「遊びはそこまでだ」
ナガレの登場にシュウは舌打ちをしてナイフをしまう。
「運が良かったなクソ野郎」
ディアンに悪態をつくとシュウはナガレの方へと歩いて行く。
そしてすれ違い様にナガレに対して警告をする。
「誰もアンタの行動を褒めちゃいねぇ。化物一匹招き入れたんだ。何かあればアンタも同罪だ」
「覚悟の上だ」
シュウは再度舌打ちをすると、そのまま去って行った。
事態の収束にアリスはホッと胸を撫で下ろし、ナガレはやれやれといった様子を見せる。
「大丈夫だったか?」
「柄の悪い奴ばかりだな。ここは」
「そう言うなよ。悪い奴じゃあないんだ」
「どうだか」
ディアンの発言にナガレは苦笑いをする。
そしてマコトら職員の方を向く。
「3人も案内ありがとな。今度、飯でも奢るからよ」
「やったー!」
ナガレの報酬にナコはシオンの手を取り、ピョンピョンと喜ぶ。
シオンはと言うと、ぐわんぐわんとされるがまま揺れていた。
「じゃあね。ディアンくんにアリスくん。また会おう!」
「あ……ありがとうございました」
「ごっ飯、ごっ飯!」
そしてマコト達が帰って行った。
「俺達も行くか」
「行くって何処にですか?」
「そりゃ決まってるだろ」
その後ディアン達は用意されたそれぞれの自室へと案内される。
アリスとディアンは別の棟で暮らす。
それは男女故ではない。
アリスは学生として。ディアンは戦闘員として、これからを過ごすからだ。
詳しい説明は後日。今日は体を休めろとの事だ。
一人暮らしにしては充分すぎる広さの部屋。
荷解きを終えたディアンは置いてあったソファーに腰掛ける。
「これからだ」
ディアンは目の前に出した拳を握り締める。
ここは始まりにすぎない。
行方不明の吸血鬼を見つけ出し、必ず契約破棄の方法を聞き出す。
新天地にてディアンとアリスの新たな物語が始まりを告げるのだった。




