新天地到着!
車が発進して暫くが経った。
アリスは大人しく座っているが、目元は赤くなっていた。
「まだ泣いているのか」
「な、泣いてないし」
アリスは赤くなった目元を手で隠す。
嫌味の一つでも言ってくる。アリスはそう思い身構えて、チラッとディアンを見るが何も言ってこない。
ディアンも心傷を抉る程、性格は悪くない。
静かに腕を組むと目を瞑った。
そして途中、休憩を何度か挟み、遂にディアン達は目的地へと着く。
「もうそろそろだ」
対面の座席に座るナガレが教えると、アリスは小窓から身を乗り出し外を見ると驚きと歓喜の声を漏らす。
「うわぁー!!」
視界に広がるのは巨大な施設がいくつも並んでいる、まるで町一つが入れ込まれてたかの様な景色。
人里離れた僻地には似合わない光景はまさしく大人の秘密基地と言ったところか。
そんな圧巻の一言の景色を堪能しつつ、車は駐車場に止まる。
長い旅路だった。どれ程車に揺られたのか。
今いるのが都道府県の何処かなんて分かりもしないが、遂にアリス達は新天地に足を下ろす。
「到着!」
「ほぉ……。凄いな」
「おい二人共。やる事は山程あるんだ。見学は後だぞ。荷物はこちらで運んでおくから着いてこい」
ナガレは待機していた職員から受け取った用紙に何かを記入し終えると歩き出す為、アリス達も後を着いていく。
その道中、視界に映るもの全てが新鮮でアリス達は目を奪われる。
道行く人々は一様に白い制服を身に纏い、ここが組織である事を実感させる。
また、職員の腰には銃がセットされており、戦闘の為の施設なのだと理解出来る。
アリス達は歩いて行くが、その中でディアンは職員の態度が気になった。
新しい者が来たのだ、気になるのは分かる。
だが向けられる視線は興味の視線だけではなかった。
時折紛れ込む、警戒や軽蔑の視線。
取り合う理由もないが、居心地の良さを感じさせるものではなかった。
そして目的地の一室に着くと、テーブルを中心にソファーが並べられており、その一つに一人の女性が座っていた。
腰まで伸びる美しい金髪。そして180cmはあろうかという長身。気品溢れる容姿の中には堂々たる圧が発せられていた。
そんな女性はこちらに気が付くと立ち上がり、こちらへと来てディアンに対して手を差し出す。
「二人とも初めまして。よく来てくれた。私は特殊生命体対策機関【アングラ】の所長をさせてもらっている鸛ツバサだ。皆、所長と呼んでいるから、君達もそう呼んでくれればいい」
「ディアンだ」
「茜アリスです」
ディアンが手を取り挨拶を返すと、続けてアリスも返した。
「長旅で疲れただろう。座ってくれ」
ツバサが自席に戻って促すとアリスは言葉に甘えソファーに腰を下ろす。
しかし、握手を終えたディアンは何故か動かず、握手をした手を見ていた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
ディアンはアリスに声を掛けられると手から目を離し、ソファーに座った。
「さてと、君達の事は色々と聞いている。一番の目的は契約の解除方法だったかな?」
「あぁ、そうだ」
「だったらある吸血鬼に会えれば解決するかもしれない」
やはり来て正解だった。
ディアンは表情にこそ出さなかったが、期待に胸を膨らませる。
「そいつは何処にいる」
しかしそんな期待もすぐに砕かれてしまう。
「分からないんだ」
「どういう事だ」
「かつてはここにいた。しかし彼は行方不明になってしまったんだ。ずっと探している。しかし欠片も痕跡は見つからない。もしかするともう既にこの世にはいないのかもしれない」
そうなると実質手掛かりはないに等しい。
ディアンは怒り混じりに舌打ちをする。
「そういう事かよ」
届きそうだった情報は遠くのまま。
そう思ったが、ツバサは「だが」と言葉を続ける。
「従者の話なら聞かせる事は出来る」
「それがキサマという訳か」
「ご明察。その吸血鬼の名はバルバ。私はバルバと20年前に契約をしていた」
「していた、という事は契約は解除されているのか?」
「どうだろうか」
ディアンの質問にツバサは不安そうに返答をする。
「確かにバルバは契約が解除されていると言っていた。しかし確かめる術もなくバルバは消えてしまった」
「期待させやがって。結局はそのバルバとかいう奴を探さないといけないという訳か」
だが20年も行方不明になっている吸血鬼が見つかるのか。
もしかしたら既に死んでいる可能性だってある。
もしもそうならツバサは契約解除に成功している事にはなるが。
「他の吸血鬼はどうなんだ」
ここにはニルコックとライグリッツがいる。
前回聞けていなかったが、二人かそれ以外にいるかもしれない吸血鬼なら知っている可能性もある。
「ここにいる吸血鬼は君が出会った二人だけ。その二人も契約解除の方法は知らない」
「そうか」
ディアンはその後もいくつか質問を重ねたが、バルバ以外の手掛かりは出てこなかった。
ないに等しい収穫。そう思われるかもしれないが、暗闇の中を歩き続けなければならなかったディアンにとっては、それだけでも充分な収穫だった。
そしてディアンとアリスは様々な手続きを済ませて、部屋を後にする。
「ひとまずやる事は終わったから見学でもするか?」
ナガレの提案に、アリスは跳び跳ねて「します!」と返事をする。
「じゃあそうだな、俺はちょっと今からやる事があるから誰かに頼むか」
ナガレが携帯電話を取り出すと、そのタイミングで曲がり角から3人の職員がやってくる。
「おっ、丁度いい所にいるじゃねぇか。おーい! そこの3人、ちょっと来てくれー!」
ナガレが手招きをすると、その3人は歩いてくる。
「どうしたの?」
大学生くらいの歳だろうか。返事をした黒髪短髪の青年は、それまですれ違った職員とは違い、白衣を纏っていた。
そしてそれは後二人の女性も同じだった。
「暇か? 今から新人にここの案内をしてほしくてな。どうだ? やってくれないか」
「いいよ」
「よっしゃ! じゃあ頼むわ。終わったら連絡くれ」
ナガレは青年の肩を軽く叩くと足早に去っていく。
まるで逃げて行くみたいなその後ろ姿は、面倒事を押し付けたのではないかとすら疑える程だった。
だが青年はニコニコとしており、全く嫌がる様子はなかった。
青年は去っていくナガレを見送ると、アリス達の方に体を向け、アリスに向けて手を差し出す。
「二人の事は聞いているよ。よろしく」
「お願いします。茜アリスです。えっと……」
自己紹介されてないから何て呼べばいいか分からない。
アリスが名前を聞こうとすると、青年は手を放し後退した。
そして―――
「滾る炎は正義の心! マックスレッド!」
何故か戦隊モノの自己紹介を始めた。
「ほら二人も!」
「えっ……えー、やるんですか……?」
「恥ずかしいよー」
共にいた女性二人を巻き込んで。
「と……轟く雷鳴、悪を討つ。マ……マックスイエロー!」
「な……流れる水は心を癒す。マックスブルー」
「「「我ら、全力戦隊マックスヒーローズ!」」」
見事なポーズまで決めた3人に、アリスはどう反応したらいいのか、取り敢えず拍手を送る。
すると、そんな乾いた拍手に心痛めたのか、マックスブルーを演じた茶髪ポニーテールの小柄な女性は、マックスレッドの青年に泣きつく。
「ねぇ、だから止めようって言ったじゃん! 絶対変な所だって思われたよ!」
「恥ずかしがるとさ、魅力って半減するよね」
「聞いてよー!」
この一瞬で、この女性はマックスレッドの青年に振り回されているんだと分かる。
そしてもう一人の女性はと言うと。
自分の白衣を踏んで盛大にこけていた。
「痛たたた。お……奥義さん。やっぱりコレ外してもいいですか?」
マックスイエローを演じた女性は掛けているメガネに手をやる。
グルグル模様のいかにもな研究者メガネ。と言っても、アニメでしか見ないやつだ。現実で付けていても見にくいだけの不良品だろう。
「いいと思ったんだけどなー」
付ける前から実害しかないの分かるだろ。
奥義と呼ばれた男に突っ込みたかったが、アリスは何とか飲み込む。
「あ……あの、すみませんでした。いきなり変なもの見せちゃって」
マックスイエローの女性は立ち上がり、メガネを白衣のポケットにしまうと頭を下げる。
ボサボサの長髪に、目元にかかる前髪。
メガネが無くとも、ザ・研究者と言わんばかりの風貌だ。
「変なものとは失礼な! マックスヒーローズはな……」
「はいはい、ちょっと離れようね」
そんな横で奥義はポニーテールの女性に羽交い締めにされて後ろに引き摺られていく。
「た……楽しそうですね」
「そうです……かね」
あっ、これはやばい。気まずくなるやつだ。
どうにかした方が良いのかとアリスが思うと、ちょうど奥義が拘束を振りほどき、間に入ってくる。
「自己紹介しないとね! ボクの名前は奥義マコト。この人は鳴神シオンで、ボクを羽交い締めにしてたのが立垣ナコだよ。よろしくね!」
「あっ、はい。お願いします」
何故かもう一度握手をすると、マコトは元気良く踵を返す。
「さぁ行こう! ボク達が案内してあげるよ!」
変な人だが悪い人ではなさそうだ。
アリス達はマコトの後に付き、施設を案内してもらうのだった。




