別れの決意
ディアンが組織に所属する為の条件。
それは―――
「契約破棄の方法を教えろ」
「……それだけか?」
もっと過激な要求をしてくるのだと思っていた為、ナガレは思わず聞き返す。
だがディアンの真剣な目付きを見て、すぐに返答をする。
「すまないが、俺には契約破棄の事は分からない。だが、機関の中にいる者なら知っている可能性はある。はっきり言って可能性は高くはないだろうが、それでもいいと言うのならその条件をのもう」
「それでいい。なくてもキサマらといれば見つかる可能性は高いしな」
「契約成立だな」
ナガレは運転手に何か指示を出すと、それまでぐるぐると適当に走っていた車がある場所へと向かい始める。
「3日後だ。それまでに話をしておけ」
「別に今からでもいいんだがな」
「お前はよくても他の者がよくない。別れはきっちりとしておくべきだ」
「それもそうだな」
そして暫くすると車が家の前で止まる。
「8時に迎えに来る。準備しとけよ」
車から降りたディアンに言葉を残すと、ナガレの乗った車は去って行った。
ディアンは去って行く車から目を逸らすと、アリス家を見る。
随分と世話になった。別れを決意すると途端に思い出が蘇ってくる。
しかしまだ感慨に浸るには早い。
ディアンは扉に手を触れ、中へと帰って行くのだった。
「あら、おかえりなさい」
「あぁ」
ディアンがリビングに行くとアリスの母が声をかけてくる。
偶然にも母だけでなく、そこにはアリスやユウト、父もいた。
暖かい日が差すその場所で、父と母はソファーに座ってテレビを観ており、アリスはスマホを、そしてユウトはゲームをそれぞれ床に寝転がってくつろいでいる。
その光景はまさしく家族団欒というやつだ。
ディアンもその輪へと入っていくと、床に腰を下ろした。
そしてディアンは静かに皆に向けて話し始める。
「聞いてほしい事がある」
何事かと一斉に視線がディアンに向く。
「今日、特殊生命体対策機関の職員と話して、オレ様はそっちに移る事になった」
「はぁ!?」
ディアンからの衝撃の発言に、アリスはスマホを手放して飛び起きる。
「どういう事!? 何で急にそんな事言い出すのよ!」
「前から考えてはいた。あっちからも打診があったんだ。今後の事を考えれば、その方がいいに決まっている」
「いやいやいやいや。何言ってんの? ママとパパも何か言ってやってよ」
アリスは両親の方を見る。
二人なら止めてくれる。そう期待しての行動だったが、二人の表情には驚きはなかった。
「実はね、私達この前ディアンさんから相談を受けてたのよ」
「ここを離れようと考えているって」
「何それ……」
知らない。私は何も聞いてない。
アリスがユウトを見てみると、ゲームから手を放し、同様に驚いた様子を見せている。
子どもは蚊帳の外で話が進んでいた。
勿論、理由はあるだろう。
自分に話さなかったのだって、この前のナガレとのやり取りがあったからかもしれない。
けれども、どんな理由があろうとも除け者にされ、勝手に話が進んでいる事にアリスは納得が出来なかった。
驚きなんて消えた。今アリスに沸いている感情は怒りだけだ。
「アンタがいなくなれば全部解決すると思ってんの?」
「アリス落ち着きなさい」
「パパは黙ってて!! 今ディアンと喋ってんの!」
これまでにないアリスの怒号に父は延ばしかけた手をしまい身を引く。
「リーヴァントの事もナツキの事も、自分のせいだと思ってるなら大間違い。アンタがいなくたって起きてた事なの。けどアンタがいたお陰で解決した。だから出ていく必要なんてない。分かった!?」
鼻息荒く伝えるアリスの姿に、ディアンは面食らった様子を見せる。
そして少し間を置いた後、突然「ハハハハハ!」と顔を押さえて笑い出す。
「何がおかしいのよ」
こっちは怒り心頭だというのに何故笑えるのか。
アリスには全くもって理解出来なかった。
「いや、何だ。まさかと思うが小娘キサマ、寂しいのか?」
「へ?」
ディアンのとんでもない言葉にアリスは思わず変な声が漏れる。
「図星か。まさかそこまで懐かれているとは知らなかった。すまなかったな。小娘にも相談しておくべきだった。それとオレ様は責任を感じて出て行くんじゃない。あっちの方が契約破棄の情報が集まると思ったから行くんだ」
「ちっ、違う! 懐いてないし寂しいとか思ってない! てか、だったら紛らわしい言い方しないでよ!」
「キサマが勝手に早とちりしたんだろうが」
畳み掛ける様に続けられた言葉にアリスは慌てて否定をするが、ディアンの追撃にアリスは何とも言えない表情で黙り込む。
するとアリスの代わりに今度はユウトが切り込んでくる。
「じゃあもう帰って来ないの?」
「そうだな。もうここには来れないだろうな。だが元々オレ様がここにいるのは契約解除の方法を見つけるまでの間と決まっていた。少し早まっただけだ」
「でも僕寂しいよ」
「すまないな」
ディアンはユウトに歩み寄ると優しく頭を撫でた。
「3日後に迎えが来る。後少しだがよろしく頼む」
そうしてディアンはリビングを後にした。
アリスは困惑したまま固まっている。ユウトも悲しげな表情で俯いていた。
「随分と急だね」
「お別れ会の準備しないといけないわね」
そんな中でも父母は通常運転だ。
そして3日後、ついに別れの日はやってくる。




