この前の続き
数日が経ち、一人、道を歩いていたディアンは名刺に書かれた番号に電話をかける。
記載されていた番号は個人の番号。
おそらくナガレ本人のものだろう。
手慣れた様子でディアンは電話をかけると、2コールした後に電話越しに声が聞こえる。
「ありがとよ。お前なら連絡くれると思ってたぜ」
電話の相手はナガレだ。
「さっさと用件を言え。何だ」
「その前に、この前の事だが」
最後まで聞かずとも何を言うかくらい容易く予想がつく。
ディアンは険しい表情でナガレの言葉を遮る。
「黙れ。キサマが蒸し返す度にオレ様はキサマを殴りたくなる。これ以上、傷を増やしたくないのなら、さっさと本題には入れ。そして二度と蒸し返すな」
「分かった」
ナガレは言われた通り、それ以上話は広げず、「用件だが」と本題に移る。
「前回出来なかった話をしたい。迎えに行くから、今何処にいるか教えてくれ」
「あぁ、こっちも用があるんだ。教えてやるからさっさと来い」
そしてディアンが現在地を伝えると、ものの数分で迎えの車がやってくる。
特別感はない一般的な普通車。
事前に調べてみたが、存在が何処にも明記されていなかった辺り、秘匿された存在なのだろう。
そう理解し、ディアンは後部座席へと乗り込んだ。
パッと見、内装にも特別な様子はない。隣にはナガレが座り、前回の訪問にもいた職員の片割れが運転をしている。
ナガレとディアン。互いに挨拶はない。
険悪ムードが漂いそうな中、車が発進するとナガレが口を開く。
「さて、と。早速だが後藤一家殺人に関わっていたヨグドスの詳細をそちらの視点から聞きたい。能力や特徴で構わない」
「奴らは群れで行動するタイプだろうな。ボス一匹に対し、何匹かの同種のヨグドスが従っていた。ボス個体の知能は高く、人に擬態して生活していた可能性が高い」
「生活していただと?」
「そうだ。高校に行っていた小娘からヨグドスの臭いがした。後藤ナツキのふりをしていたと考えるのが妥当だろう」
「そこまでの個体だったのか」
ナガレは考え込む様に顎に手を延ばす。
ナガレら対策機関は、ディアンが戦闘した後の現場しか知らない。
その為、姿形は分かれど生態は把握出来ていなかったのだ。
「……皮を被る事で日を遮り、獲物を物色していた。そう考えるべきか。やはり、本能的に人間を襲うヨグドスの中でも知能が高い分類だ。お前が討伐してくれていなかったら更なる被害になっていた。助かった」
ディアンは礼を言うナガレを無視して話を続ける。
「それに奴は言葉も稚拙ながら使えていた。他の個体に関しては特別な能力はなく爪や牙を用いての攻撃くらいだったな。後はそうだな。人質かカモフラージュか、人間を生かしておくという行動もあったな。オレ様からはこれくらいだ」
「情報提供感謝する」
実際に体験した者からの情報ほど貴重なものはない。
ディアンの情報は今後のヨグドスへの対応に対しての貴重なサンプルとなった。
これで、少しでもヨグドスによる不幸な出来事を減らしていけるだろう。
「ちなみにだが、保護した少年に関しては施設にて元気に生活を送っている。強い子だ。あんな事があったというのに」
おそらく養護施設か何かだろう。別にそこを追求する意味もなかった為、触れなかったが、一つだけディアンには疑問が浮かんだ。
「ヨグドスの事はどう説明したんだ」
ヨグドスは社会に知られていない存在だ。
噂に聞いたどころか、ヨグドスの恐怖を身を持って体験した人間をそのままにしているとも考えにくい。
それにあんなものを誤魔化す事など出来る訳がないと、ディアンは思っていた。
「記憶処理を行った。ヨグドスによる殺人から、人間による殺人に。言いたい事は分かる。だが、改変ではなく消去となると、潜在記憶との辻褄が合わなくなり、精神を崩壊させる危険性がある。だから改変するしかなかったんだ」
「それは吸血鬼の力か」
「それは機密事項だ。職員ではない者に教える事は出来ない」
言い分は最もだ。ディアンはすんなりと諦める。
ナガレもディアンが踏み込んで来ない事を悟ると、次の議題へと話を移す。
「聴取については終わりだ。次の話だが」
「オレ様を組織に入れたい……だろ?」
ナガレは驚いた様子で目を見開く。
やはり図星だったらしい。
「オレ様を放っておけば、リーヴァントの様な組織に与する可能性もある。人類の敵になられる前に手元に置いて管理しようって魂胆だろ」
「見透かされているか。その通りだ」
「オレ様もそうするつもりだった。だが……」
ディアンは「その為には条件がある」と、ナガレに対して条件を突き付けるのだった。




