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悲劇の始まり

 あの出来事があってから、猛反発していたアリスもディアンを受け入れた。

 やはりアリスもこの親にしてこの子有りと言うのだろうか、認めてしまえば途端に警戒心はなくなる。


「そういやアンタは何で日本語話せるの?」


 日曜の昼過ぎ、ふとした疑問をアリスはお菓子を齧りながら聞く。

 初めて出会った時、ディアンは日本語が理解出来ない様子を見せていたし話すこともなかった。

 だが今は、と言うより契約を交わした後からは普通に日本語を話している。


「契約の効果だな。契約を交わすとそいつの情報が得られる。そこで言語の共有が起きて話せるようになったわけだな」

「それだけで喋れるようになるって便利なのね。…ん?てことはアンタは私の情報を持ってるってこと?」

「そうだが?」


 ディアンからすれば当たり前の事なので当然の返事なのだが、アリスにとっては重大案件だった。


「その情報ってどこまであるの?私の事どんだけ知ってるの」


 アリスは真剣な表情でディアンを見つめる。

 個人情報だ。知られたくないに決まってる。

 それが知らない間に勝手に筒抜けになっているのだ。

 どこまで知られているのか把握したいと思うのが普通だろう。

 そんな様子を見てディアンはフッと鼻で笑い口を開く。


「部屋のタンスの下から二つ目。そこにコスプr」

「わーーーーーーーーー!!!」


 アリスは顔を真っ赤にしてディアンの言葉を遮る。

 それは家族も知らないアリスだけの秘密。簡単には見つからないように隠してある。

 なのに家に来て数日のディアンが知ってるのはあり得ない。部屋にも初日にしか来ていないのだから絶対にだ。


「それって誰かに聞いたの…?」

「聞いてもいいのか?もしそれで誰も知らなかったら大変な事になるのはキサマだぞ」


 恥ずかしさを堪えながら聞いたアリスに対して、ディアンはニヤッと意地悪く笑う。

 バレていない確信はある。だからこそディアンの反応が、言葉が恐ろしかった。

 自分しか知らない事を知っている。それはつまり、そういう事なのだ。


「…わかった。でも今後この事は言わないこと。いい?」

「別に言うつもりもない。小娘の趣味になど興味がないからな」


 言い返したい気持ちはあったがアリスはグッと堪える。

 ここで言い返して、その間に家族の誰かが帰って来たらそれこそ取り返しのつかない事態になる。

 家族に知られたら何を言われるか分かったことではない。だから絶対に知られる訳にはいかないのだ。

 アリスはこれ以上このやり取りを長引かせない為に強引に話題を変える。


「私、アンタの事何にも知らないんだから教えなさいよ」

「教えただろ」

「全然知らないわよ」


 そう。アリスはディアンの事を全然知らない。

 知ってるのは吸血鬼(ヴァンパイア)だとか言う空想生物を名乗り、血を操る人形(ひとがた)の化物ということ。

 そして、契約を結ばされてこちらの個人情報はだだ漏れで、命の危険まであるという事だけだ。

 十分内容は濃いが、それでもディアン個人の事は何も分かっていない。


「アンタって別の世界から来たって言ってたわよね。そっちにはアンタみたいなのがいっぱいいるの?」

「いるが、個々で能力も違ってくる。血を操れるのはオレ様だけだったな。それとヨグドスもそこら辺にいる。クマとかイノシシと同じ感覚だ。聞きたい事はそれくらいだろ。もう質問してくるな」

「ちょっと何よそれ。ズルいじゃん。…何なのもう」


 ディアンは聞く耳を持たず、その場から離れていく。

 その背中にはどこか悲しげな雰囲気が纏っていたが、いじけてお菓子を(かじ)るアリスはに知るよしもなかった。

 そして、その日起きる悲劇も知るよしはなかった。


 その日の夜。とある民家の一室に一人の少年がいた。

 隅にしゃがみこみ、涙でぐしゃぐしゃのなった顔で頭を抱えるその姿は何かに怯えていた。

 何故こんな事になったのか。それを教えてくれる人はいない。

 父も母も姉もみんな殺された。

 最初に父が死んだ。体の中から引き裂かれて。

 次に母が殺された。少年と姉を先に逃がそうとして逃げ遅れて。

 そして最後に姉が殺された。少年を庇ったせいで。

 自分も殺されると思っていた。なのに生かされている。

 気紛れか、策があるのか、それは少年の知った事ではない。

 少年はただただ恐怖の中で怯えていることしか出来なかった。


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