狼男現る!
雑木林を抜けるとニルコック達は突入に備え、岩陰に身を潜める。
「あそこが拠点への唯一の入り口だよ」
「見張りはおらんのやな」
「シグマの能力で見張りくらいつくりそうなものなのにな」
「中が入り組んでいるからね。道中で仕留めればいいって考えでしょ」
外見は放置された坑道の入り口。人が出入りしている形跡も消されている。
リーヴァントは徹底したカモフラージュに徹しているという事だ。
ちなみにどうやって入手したのか、ニルコック達は隠れ家の内部構造を把握している。
故にリーヴァントに地理的有利はない。
「リーヴァントのメンバー後は一人、シグマを捕まえれば片がつく。分かってると思うけど、ここでシグマを逃がせば、シグマによる被害は広がっていく。絶対捕まえてよ」
「あぁ」
「もちろん」
「……」
ニルコックは突入の合図を出し、全員が動き始めた―――その時。
「何だアイツは」
ディアン達の目に、入り口から出てくる異様な姿の生物が映る。
それはまるで吸血鬼と並び有名な空想上の生物そのもの。
二足歩行に狼の頭、全身を覆う長い体毛、巨大な腕に獲物を一撃で仕留める鋭利な爪、揺れる尻尾、まさしく【狼男】であった。
狼男の登場に一同は足を止める。
しかしニルコックだけは何を考えているのか、無防備にも狼男の元へ歩み始めた。
「おい、何しとるんや!」
「大丈夫、大丈夫」
エルドラの心配をよそにニルコックはポケットから瓶を取り出し蓋を開ける。
中に入っているのは無色透明な液体。
そしてあろう事か、その液体を狼男にぶっ掛けた。
どういう目的か知らないが、逆上させる行為でしかない。
ディアンとエルドラは飛び出すが、ニルコックから発せられた言葉を聞き、再び足を止める事となる。
「どう?目覚めた?」
「操られてねぇよ。安心しろ」
ディアンとエルドラは理解が追い付かなかった。
ただそんな中でも今分かる事、それは―――
「何やアンタら知り合いか?」
エルドラの疑問にニルコックは踵を返し答える。
「そう。この狼男の名前はライグリッツ。僕と同じ特殊生命体対策機関所属の吸血鬼さ。彼にはリーヴァントに潜入してもらっていたんだ」
「新入りか?よろしくな」
ライグリッツは変身を解いたのか、体を萎んでいき吸血鬼の姿へと戻っていく。
そしてディアン達の前まで歩むと、手を差し出す。
その体には古傷がびっしりとあり、いくつもの修羅場を越えている事は想像に容易い。素人目にも分かる。歴戦の猛者というやつだ。
ディアンも手を出し、握手を交わす。
「ところでキミは何をしてるの?シグマは?」
一人状況を理解しているであろうニルコックは不満気に質問する。
そんな質問に対し、ライグリッツは手を放すと気まずそうに頭を掻く。
そして衝撃の発言をする。
「逃がしちまった。すまん」
「嘘でしょ……」
軽く謝るライグリッツの態度にニルコックは唖然として口を開けたまま固まる。
「詳しい話は後で、だ。一先ず戻ろうぜ」
ライグリッツはニルコックを担ぐと我先にと歩いて行く。
納得も理解も出来ていない。しかし隊長が連れていかれたのだ。ディアン達に出来る事はなくなった。
「えーっと、戻る?」
「まぁ、そうだな」
一同は一旦、ナガレの元へ帰るのだった。




