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新たな存在

 ゆっくりとゆっくりと体の末端から肉体の凍結を解く。

 急いではならない。

 肉体の組織を傷付けないように、慎重にほぐしていく。

 そうして、時間をかけて元の肉体へと戻るとエルドラは未だ眠っているリンを脇に抱える。


「さてどうしたもんか」


 エルコは灰となって消えた。

 だが、この手で殺した男二人は残っている。

 もしもエルコと男達が契約をしていた場合、殺さずにいれば共倒れになり消えていただろう。

 しかし、契約主が死ぬ前に従者を殺せば、従者は燃えない。

 しくじったと思いつつエルドラは翼を広げる。

 とりあえずこの場からは逃げなければならない。

 リンを抱えたまま飛び去った時、リンの上着のポケットに入っているスマホが音を立てて震える。

 取り出し、発信元を確認すると【アリス】と表示されていた。


「もしもしアリスちゃん?どうしたんや?」

「エルドラさん大丈夫!?あの、こっちに吸血鬼が来て、ディアンが戦って、その、勝ったんだけとえっと……」


 電話に出た瞬間、アリスが矢継ぎ早で話してくる。

 相当焦っているのがスマホ越しでも分かる。

 エルドラは「落ち着きや」となだめつつ、飛行しながら自身の状況を伝える。


「まずウチらは大丈夫。リーヴァントの奴らが来たけど返り討ちにしたったわ」


「ハハハ」と笑うエルドラの様子に、アリスの「ホッ」と安堵する声が聞こえる。


「そっちも無事なんやったら良かったわ。どうする?一旦集まろか?また襲われやんとも限らんし」

「いや、その必要はないよ」


 それはスマホからの声ではなかった。

 アリスともディアンとも違う、若い男の声。

 それも声質から少年。十代前半といったところだろう。


「なにもんやアンタ。敵討ちか?」


 いつからいたのか、エルドラが停止し振り返るとそこには吸血鬼(ヴァンパイア)の少年が翼を羽ばたかせていた。

 白を基調とした布地に黒のストライプが特徴的なローブを羽織った目立つその格好は、隠れていたなら気が付かない訳がない。


『警戒してなかった訳やない。やのにコイツ、全く気配を感じやんだ』


 それにも関わらず、声をかけられるまで存在を察知出来なかった。

 だが、悔やんでいる暇はない。


「ごめんな。後で掛け直す」


 エルドラは通話を切るとスマホをズボンのポケットに入れた。

 そして空いた左手を突き出すと槍状に生成した氷を少年目掛けて三つ伸ばした。

 手元から生成された氷は少年を穿つ為に急速に成長していく。

 しかし、少年は軽やかに風に乗りいとも簡単に避けてしまう。


「まぁ待ちなよ。僕はリーヴァントじゃない。その逆さ」


 避けた際に逆さになった少年はそのままの状態で喋る。


「リーヴァントとかの敵対する特殊生命体から人間を守る組織【特殊生命体対策機関】の一員さ」

「安直な名前やな」

「分かりやすさは重要でしょ。それと文句なら上に言ってよ。僕は下っ端だからさ」


 そう言うと、少年は体勢を戻しローブに付いていたバッジを外してエルドラに投げる。


「それが証明ね。いやぁありがとう。ちょうど僕達もリーヴァントは調査しててね。危険を(おか)す必要がなくなって助かったよ」

「あっそ。そりゃ良かったな」


 嫌味ったらしい発言に、エルドラは受け取ったバッジを雑に投げ返す。

 少年はキャッチすると何故か呆れた様にため息をついた。


「君、自分の事強いと思ってるでしょ。だから格下相手にもピンチになる。今もそう。何でバッジを受け取ったの?何かあるとは考えなかった?そうやって余裕ぶってるから守るものも守れなくなるんだ。見た限り戦闘経験もろくにない。能力にかまけた雑魚だよ、君」


 少年は哀れむ様な目で抱えられているリンを一瞥すると、腰にあるホルスターから銃を取り出し、そして引き金に指をかけるのだった。

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