凍てつく覚悟①
ディアンとディリックの戦闘開始から少し前、別の場所でもリーヴァントの魔の手が迫っていた。
人通りのない川辺の近くで対峙する二人の吸血鬼。そして付き添いかの様に端から見守る人間が数人。
その一人の吸血鬼の傍らには二匹のガーゴイルが凍り付いていた。
「ウチの能力は知っとるやろ。こんなんけしかけても相手にならん事くらい分からんか?」
エルドラは目の前の吸血鬼に語りかける。
エルドラの呆れた様な態度に、その吸血鬼は左手で右腕を支え、右手で顎を軽く触りながらクスリと笑う。
「えぇ、もちろんそれが分からない程、おバカさんじゃないわよ。でも今から殺す相手の能力くらい見ておきたいでしょ?」
長髪のしなやかな黒髪が目立つ吸血鬼。
男性的な肉体に上乗せされた女性的な魅力が特徴的なその吸血鬼の名はエルコ。
だが、エルドラは相手の名も属する組織も知らない。
待ち伏せからの奇襲。
その結果、今の状況が完成しているのだ。
「ハッ!何やその言いぐさ。もう殺せます言うてるみたいやな」
「あら?そう言ったのに理解出来なかったのかしら。あなたはおバカさんだったのね」
「ハハハハハ!」
エルコの発言にエルドラは思わず笑いを零す。
そして一頻り笑い飛ばすと―――
「殺すぞ」
ドスの効いた低い声でエルコを睨み付ける。
相手の素性なんて探らなくても分かっている。
対峙した以上、どちらかが死ぬしか道はない。
操られているのか、従っているのか分からないがエルコの背後には屈強な男が二人、腕を組んで佇んでいる。
もしも契約していればエルコが死んだ時点で、あの人間達は死ぬ。
だがエルドラには関係のない事だった。
傍らで怯える少年を何としてでも守り抜く。
それ以外に望むものはないのだから。
だがしかし、エルドラの圧にエルコは怯むどころか不敵な笑みを浮かべる。
「相手の能力も分からないのに悠長にお喋りなんて、やっぱりおバカさんよね」
「は?何を……」
唐突に視界が揺れ、エルドラは思わず膝をつく。
「何っや……これ……」
それは攻撃ではない。
苦痛はない。あるのは睡魔。
ただただ純粋な、抗えない程に強烈な眠気がエルドラを襲っていた。
「ワタシの鱗粉は睡眠欲を刺激するの。無臭故に気が付いた時にはもう手遅れ。先手必勝は自分の専売特許だとでも思ってたかしら?」
「うるっ……さい……」
どんどんと眠気が強くなる。
リンに至っては既に眠ってしまっている。
だがそれがエルコの発言に嘘はないという証明にもなった。
だからなんだと言う話ではあるが、少なくとも即死する訳ではない。
眠った後に殺されるという事になる。
ならば眠る前に凍らせてしまえばいい事なのだが……。
「一矢報いて来るのかと期待したけど、それも無理みたいね」
既に体は動かない。
地に伏したエルドラの瞼はゆっくりと閉じていく。
そして為す術がないままエルドラは眠りについてしまうのだった。




