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主人が死んだ従者の末路

 見上げる空は灰色に濁っている。

 だが空模様とは異なり、心は晴れ晴れとしている。

 やかましい子どもの声すら鳥の囁きに聞こえる程に。


「一番……いい攻撃……だった……」

「そうか」


 吸血鬼(ヴァンパイア)の生命力故にまだ生きているが、声を出す事で精一杯だ。

 骨を断ち、臓器にまで刃が達している。

 体を動かす事も出来ない。相手の顔は見る事も出来ない。

 しかし表情くらい予想が付く。

 きっと哀れんだ様な表情をしているのだろう。

 だが哀れまれる理由はない。

 殺意を持った一撃で終わる事が出来る。殺し合いの果てに死ねるのだから思い残す事はない。


鬼南(きな)鉱山跡地……、そこに……リーヴァントの……拠点が……ある」


 ディリックは満足気な顔で最後の言葉を話す。


「先に地獄で……待ってるぜ……」


 そうしてディリックは事切れた。

 戦いは終わった。

 だが全てが終わった訳ではない。

 ディアンはディリックに寄り添い泣きじゃくる少女に鎌を向ける。


「な、何してんのよ!」


 ディアンの行動に、こちらに向かって来たアリスが思わず口を挟む。

 そりゃそうだ。

 端から見れば無抵抗の子どもを虐殺しようとしている風にしか見えない。

 アリスとディアンを睨み付ける少女に対して、ディアンは自身の行動について説明をする。


「ディリックは死んだ。そうなれば契約を結んだキサマも道連れになる。ただ死ぬだけじゃない。もがき苦しんで死ぬ事になる。だからオレがこの手で苦しまない様に殺してやる」


 主人が死ねば従者も死ぬ。

 以前ディアンから聞いた事が、自身の身にも振りかかる可能性がある出来事が目の前で起きようとしている。

 止めるべきか否か、アリスには分からなかった。

 誰も何も発さず、ディアンは鎌を振りかぶる。

 すると、ディアンを睨み付けていた少女が声を荒げる。


「お前なんかに殺されるくらいなら自分で死んだ方がマシだ!私に触るな!私はディリックの力で死ぬんだ!」


 刺し殺さんと言わんばかりの目で、噛み殺さんと言わんばかりの口で、少女は怒りをぶつける。

 それは幼い子どもが放つ殺気ではない。

 何を経験すれば、これ程までに敵意を抱けるのだろうか。

 ここで少女を殺す事が救いになるのか。ディアンには分からなくなってしまった。


「本当にいいのか」

「うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさい!」


 いや、殺してやるべきなのだ。

 寄り処のない少女がディリックに依存しているだけだ。

 自分がどの様になるかなんてきっと分かっていない。

 故にここで殺してやらねばならないのだ。

 だがしかし、ディアンは鎌を振り下ろす事は出来なかった。

 エゴだという事くらい分かっている。

 だがこの手で殺せば魂はどうなる。

 ディリックではなく、他者の手によって命断たれたとすれば、少女の魂は救われるのか。

 ディアンの中での答えが鎌を捨てさせた。

 そして次の瞬間―――

 青白い炎が少女を包んだ。


「ア゛ア゛ア゛ァァァァァァ!!!」


 人体発火。それが主人の死んだ従者の末路。

 命尽きるその時まで炎は対象を燃やし続ける。

 たとえ何をしようと炎が消える事はない。


「あぁ……あぁ……」


 あまりの光景にアリスは驚愕し腰を抜かしてしまう。

 戦いを知らぬ少女が見ていい光景ではない。

 ディアンはすぐにアリスの視界を腕で遮ると、胸元に抱き寄せる。


「あれが主人が死んだ従者の末路だ。絶対にオレはキサマを置いて死んだりはしない。絶対にだ」


 アリスはディアンの服を力強く握る。

 震えている。

 アリスの恐怖がディアンに伝わってくる。

 同じ事はアリスの身には起こさせない。

 ディアンは強くアリスを抱き締めるのだった。

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