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野望

 ディアン達が館に沿って歩いていくと、氷に阻まれずに入る事が出来る扉を見つける。


「いくで」


 エルドラの合図で突入すると、広い空間に一人、先程の少年が後ろで手を組んで立っていた。


「試練クリアおめでとうございます。我が主がお会いしたいそうなので、その場でお待ち下さい」

「「誰が待つか」」


 ディアンは血の鎌を少年の首に、エルドラは少年の足元を凍らせる。

 少年の言葉を信じる理由も従う理由ももうない。

 先程と同じ事になる可能性がある以上、少年を人質に主人とやらを引き摺り出す。

 打ち合わせをした訳でもないが、二人の行動は一致していた。

 しかし少年は微動だにせず、冷静に二人に話しかける。


「残念ながら私の命では御主人は動きませんよ。そうでなくとも私を人質に取る必要はもうありませんが」


 少年が奥の部屋に目をやると二階にある一室の扉が開く。

 そして中から仮面を付け、素性を隠した男が現れた。


「よくあの状況を打破した。まぁ、それくらいしてもらわねば会う価値もなかったがな」


 男の乾いた拍手が響く―――が、それを遮るように血の棘が男の顔の横を飛ぶ。


「キサマは何者だ。返答次第では命はないと思え」

「おぉ怖い怖い」


 男は壁に刺さった棘を触りながら思ってもいない言葉を口にする。

 そして二階から軽々と飛び降りてくる。


「まずは自己紹介だろう。私の名はシグマU。ディアンくん。君を我が組織に勧誘したい」

「組織だ?」

「ちょい待ちや。ウチは勧誘せんのかい」


 シグマが説明をしようとしたが、エルドラが横から口を挟む。

 するとシグマはため息をつき、嫌々そうに口を開く。


「キミは呼んでいないのに勝手について来ただけだ。用はない。帰りたまえ」

「なんやそう言われると、むっちゃムカつくなぁ」

「だがまぁ、キミも我々の理想に共感してくれるのなら組織に入れてやらない事もない」

「やったら聞かせてもらおか、アンタのとこの事情を」


「良いだろう」とシグマは声をあげると、両手を広げ自身の理想を語り始める。


「我々、吸血鬼(ヴァンパイア)は人間よりも優れている。しかし!人間達は我々の存在を知らず、我が物顔でこの星に巣くっている。こんな現実は正しいのか。否!正しい筈がない。我々はしかと存在を示すべきである。我々が人間を支配し管理するのだ!ディアンくん。我が組織に入りこの世界を正そうではないか!」


 何て馬鹿げた思想か。

 そもそも吸血鬼ヴァンパイアは異世界から来た存在だ。

 それに優れているいないに関係なく、誰かが誰かを支配する。そんな関係が許される筈がない。

 ディアンはあまりに醜く、吹けば壊れる程に脆い理想に怒りをあらわにする。


「そんな事に乗るわけがないだろ。オレとキサマの考えは相容れない。今すぐ、組織を解体しろ。しないと言うのならオレが壊す」

「ウチもや!アンタのイカれた理想が達成されればとんでもない数の人が不幸になる。そんな事に手は貸さん」

「交渉決裂…か。残念だよ。キミなら理解してくれると思ったのだがな」


 仮面の上から顔に手をやり落胆した様子を見せると、シグマはもう片方の手を二人へ向ける。


「では、解散としようか」


 シグマが言葉を発した瞬間、少年の体が赤く染まる。

 そしてディアンへと掴みかかる。


「何だ…この力は…!」


 ディアンは何とか少年の腕を掴み防いだが、その力は人間のそれではない。

 明らかに外部の力により強化されている。

 状況から見てもシグマの能力だろう。


「アンタは逃がさへんで!」


 エルドラはシグマを凍結させようとする。

 しかし―――


「いいのか?大規模に使えば私の後ろに潜んでいる人間達まで巻き添えになるぞ」


 出任せだ。しかしそれを証明する根拠をエルドラは持ち合わせていない。

 凍結範囲内に入っていればシグマだけを凍結させられる。

 だがそれを分かっているのかシグマは距離をとっている。

 広範囲に氷塊を発生させれば凍結させられるが、そうなれば背後に潜むという人間にも被害が出てしまう。

 シグマの発言でエルドラは氷結を封じられてしまった。


「だったらやることは一つ、肉弾戦や!」


 エルドラは自身の拳を氷結させるとシグマへと駆け込む。

 だがしかし、シグマは翼を広げ二階へと飛び降りると部屋を出ていく。


「次会う時は殺し合いだ」


 去り際に逃れられない運命を突き付けて。


「待て!」


 エルドラはシグマ。追おうとする。

だがしかし、それを阻むかのようにエルドラ達が来た扉からガーゴイルの群れが襲ってくる。


「クソッ!」


 少年を組み伏せ血の縄で捕縛したディアンとエルドラはシグマを追う事は諦め、アリスとリンを守る為、ガーゴイルの対処をせざるをえなかった。

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