9.葵は公彦と試着室でキスをする
「公彦、一体何やってるの!? 大騒動だよ」
「ア、葵チャン···」
葵の言葉にカエルは少し小さくなって肩を落とした。そんな公彦の様子を見て葵はいたたまれなくなり少しの間沈黙した。
「公彦···ごめんね···」
「エ···?」
「私、公彦にあんなひどい事を言うつもりなんてなかったの···」
「ウ、ウン···」
「ホントは人の姿に戻れて良かったんだよね」
「···葵チャン、僕ガ寝テル間ニ、キスヲシタンデショ?」
「ふぇ? し、してないよ!!?」
「ダッテ母上ガ言ッテタカラ···」
「母上って誰よ?
わ、私、そんな事してないし···!?」
「葵チャンガ、キスヲシテクレレバ僕ハ元ノ姿ニ戻レルンダ」
「······」
「デモ···モウシナクテモイイヨ···」
「え···?」
「アノパトロール男ノ事ガ好キナンデショ···?」
「青く···源さんとは別にそんな関係じゃないよ」
「葵チャンハ、カエルニシカ恋愛感情ガナイ変ナ娘ダト思ッテタケド、チャント人間ノ男モ好キニナルンダネ···」
「そんな事ないって!!」
「―――あの変態は一体どこに逃げたんだ!!」
葵が必死に公彦の言葉を否定していると近くから荒ぶった青の独り言が聞こえてきた。
「―――ん? あのカーテンの閉まった試着室が怪しいぞ、そこにいるんだろ変態め!!」
―――これはヤバい···!!?
青がカーテンに手を掛けたその時、
とっさに葵は公彦の唇にキスをした。
「······葵···その男は······」
人の姿の公彦とキスをする葵を見て、青は苦々しい表情をしながら試着室のカーテンを閉め直した。
葵はキスの後、公彦の顔をじっと見つめると恥ずかしげに顔を伏せ試着室から先に出ていった。
「あ、葵ちゃん···!」
公彦はその後をすぐに追った。
葵が公彦に名前を呼ばれながら追いつかれた場所にはちょうどアジ子が立っていた。
「葵ちゃん、待ってよ」
「公彦君まさか、あなた特定の彼女がいたの!?」
「えっ!? いや、これはちょっと、その···」
葵は下りのエスカレーターに乗るとそのまま先に降りて行った。
「公彦君、まだ撮影し終わってない衣装を持って帰っちゃダメよ」
公彦も後を追おうとしたが着ていた衣装の事を思い出し立ち止まった。
遠くなっていく葵は公彦の方を振り返ろうとしなかった。
✶✶✶
公彦は店舗SNS用の写真撮影を終えると時計を見た、もう夜の7時を回っていた。
「ありがとうございました、お疲れさまです」
「公彦君お疲れさま、もう遅いしここで別れましょう、持ちきれない分の服は私のスタジオで預かっとこうか?」
「えぇ、お願いします」
公彦がそう伝えるとアジ子は荷物を持って先に帰って行った。
「じゃあね〜!」
公彦は服は手に入ったが、寝泊まりする当てはまだ付いていなかった。
行く先の定まらない足取りで店舗から出るとそこには青が立っていた。
―――げ···!!
「俺は源青という者だ、お前は公彦だな?」
「な、何で私の名前を···!?」
「撮影中そう呼ばれていただろう」
「ずっと見ていたのか!? ところで何の用だ?」
「お前はいつから葵と付き合っているんだ···?」
「いや別に付き合ってるわけでは···」
「何···?
では試着室でのあれは何だったんだ!」
「いやあれはまた色々な事情が···」
「ふざけるな!!!
お前のようなチャラチャラした奴が、俺は一番好かんのだ」
「お前には関係ないだろ!」
「黙れ! お前はもう二度と葵に関わるな」
「何でだよ」
「葵を守れるのは俺だけだ、
彼女は学園でいつも一人だ、それにカエルの変態が出た時お前は何をしていたんだ? ちゃんと彼女を守っていたのか?」
―――ギクッ···!!
「ま、守っていたさ···!」
「お前は信用できん男だ、葵ともう二度と会わないと言わない限りここから帰す訳にはいかん」
青が掴み掛ろうとしたのを公彦は間一髪で避けた。
「おい止めろ!」
「お前···俺の掴みをかわせたのか···!」
(この姿でもこいつと鬼ごっこをしないとダメなのか!?)




