7.葵は青と百貨店に行く
葵と青は待ち合わせ通りに百貨店を訪れると真っ直ぐドレス専門店に向かった。
この日、葵はとても気が重たかった。
店内ではサングラスで変装(?)した青様担会の令嬢達が、インカムで連絡を取り合いながらフロアの角や隅や柱の裏からこちらの様子を常にチェックしていた。
「あ、そういえば青く···いや、源君―――」
「ん?」
青は葵の急な呼び方の変更に不審そうな顔を見せた。
その時さらに青様担会からカンペでメッセージが送られてきた。
(源君もなれなれしいからヤメロ)
「そ··そういえば···源さん、ドレス補助って上限いくらくらいまでなんだろ?」
「? 何だいきなり、よそよそしい、青と呼び捨てで構わないぞ」
「いやでも会ったばっかりだし、礼儀って大事かなぁと思って···!」
「そんなもの同級生なんだから関係ないだろう」
「いやいや、源さんてなんかちょっと年上感あるし、ちょうどいいかも」
「な、なんだそれは······」
「ところで話を戻すと、学園のドレス補助って上限いくらくらいまでだっけ···?」
「百貨店に置いてるレベルなら上限を超える事はないだろう、だから気にせず選ぶといい」
―――百貨店に置いてるレベルって···
「すごいね、さすがセレブ学園だよ!」
「よし、着いたぞ」
二人でウィンドウに飾られた物、マネキンに着せられた物、ハンガーラックに掛けられた物を順番に一通り見て回った後、よさそうなのを葵は試着してみる事にした。
「葵はブルー系が似合うな俺が選んでやろうか?」
青は鏡の前で手に取ったドレスを葵の体に合わせてみせた。
「え、そうかな?」
その時また即座にカンペが提示された。
(自分でエラベ!)
「わ、私、グリーン系の方が好きなんだ、だから自分で選ぶね!」
「そ、そうか···」
葵はモスグリーンの袖が長めのバルーンドレスを取ると試着室に駆け込んだ。
着替え終えると店員さんに声を掛けられカーテンが開かれた。
その瞬間、青はドレスを着た葵の事を見て瞳孔を大きくした。
「ど、どうかな?」
「···あ、あぁ、なかなか···いいと思うぞ」
だがその時やはりカンペが提示された。
(あまりドレス姿を青様にミセルナ!)
「あ、あーもうこれにしよーと!!」
「他にも試着しないのか?」
「ひと目見た時からフィーリングがこれだったの!!」
葵はソッコーで試着室に戻って服に着替え直すとドレスを手に中から出てきた。
「よし、俺が会計をしておこう、外で待っていてくれ」
「え」
青はドレスを葵からやや強引に取り上げるとレジの方へ歩いていった。
しばらくして、青は店から出てくるとドレスの入った手提げ袋を葵に手渡した。
「ありがとう、補助の申請って領収書と一緒に事務局に提出でいいんだよね?」
「葵、すまん、実はあれは嘘なんだ」
「え···」
「そのドレスは俺からのプレゼントだ」
「······」
―――嬉しいけど···それはヤバいかも···!!
案の定、青様担会の令嬢達の怒りの視線が全方向から葵に向かって刺し込まれていた。
葵の額には冷や汗が流れた。
「だめだよ、源さん、ドレスは返品しよう、私レンタルで十分だから···!」
「なぜだ···俺の気持ちだから受け取ってくれ」
「いやいや、受け取れないよ、悪いよ!」
「気にするな、葵にはそのドレスがとても似合っていた」
「いや実はこのドレスあんまり好みじゃないかも」
「そうなのか、なら別のをまた俺と一緒に選ぼう」
「いやいや、そういう事じゃなくてさ―――」
―――ヤバい、ヤバい、ヤバい···!!!
✶✶✶
一方こちらも同じ百貨店内を、
公彦を連れたアジ子はとんでもないドヤ顔をしながら闊歩していた。
「公彦君のタキシード以外の衣装をここでそろえましょう、とゆうかあなたならブランドの方から着てくださいと懇願してくるでしょうけどね!」
「ふふっ、けどアジ子さん、良いんでしょうか、この私という類まれな才能が世間に見つかってしまって······」
「何を言ってるの! 良いに決まってるでしょ! これほどの才能が埋もれていた事がむしろ世間の損失よ!」
「アジ子さん···私はあなたといると昔の自分に戻ってしまいそうで怖いんだ、ホントに戻ってしまっていいのだろうか···」
「昔のあんたが一体何だって言うの、大いに戻りなさいっ! 戻って結構!」
「······はぁ···」
公彦は指をおデコに付けたナルシストのポーズでため息を吐いた。




