4.公彦は元の姿に戻る
「源青って、もしかして聖麟会の役員メンバーの···?」
―――一年生で役員なの···?
「あぁそうだが、まぁ···そんな大した物でもない、俺の事は気軽に青と呼んでくれ、ところで葵は変態に出くわさなかったか?」
「う、うーん···」
葵が後ろ目で見た電柱裏のカエルは今まさに決死のアヘ顔でガタガタと振動していた。
「見てないよ」
カエルは音を押し殺して鼻水をすすった。
「そうか、まぁでも念の為に俺が自宅まで送ろう」
「いや、大丈夫だよ、さっき学園のリムジンに降ろしてもらったばっかりなんだ、家ももうホントにすぐそこだし、それに···家を初対面の男の子に見られるのってちょっと恥ずかしいし···」
「そ···そうか、それは気が利かず悪かったな」
「ううん、それにしても聖麟会の役員メンバーって大変なんだね、街のパトロールなんて」
「いや、これはボランティアでやっているだけだ」
「そ、そうなんだ···!」
―――すごいボランティアだな···!?
「じゃあ気を付けて帰るんだぞ、葵」
「うん分かった、青君ありがとう」
青達が立ち去るとカエルはもうよく分からない葵を崇拝したアヘ顔で電柱裏から出てきた。
「ァァア葵女ガミ――···!!?」
「やめて」
カエルが土下座の姿勢から起き上がると葵はその顔を優しく引っ張ってみた。
「被り物じゃないよね?」
「ハイ、ムシロ被リ物ナラドレダケ良カッタカ···」
「じゃあコンビニに行こっか!」
✶✶✶
「ワミチキ旨イィッスゥ!!」
ワミリーマート前の電柱裏でカエルはチキンを食べながら叫んだ。
「よかったね、ところでカエルさんのお名前は?」
「ア、僕ノ名前ハ公彦ト申シマス」
「公彦君ていうんだ、何か人間みたいだね」
「イヤ、人間デハナインデスケレドモ···」
「うん、だってカエルだもんね」
「イヤ、ソウイウ事デハナインデスケレドモ···」
「ん? そう言えば公彦はどこで寝泊まりしてるの?」
「夜ハ公園ノトンネル遊具ノ中デ寝テマス、日中ニ行クト子供達カラ石ヲ投ゲラレルノデ、ソレマデハ路地裏ノ電柱ナドニ隠レテイマス···」
「かわいそうに」
「ソンナ事ヲ言ッテ下サルノハ、葵女神様ダケデスヨ」
「葵でいいよ」
「ソ、ソンナ呼ビ捨テナンテ出来マセンヨ」
「じゃあ葵ちゃんでいいよ」
「ハ、ハァ···」
「私···一人暮らしでさぁ、親もいないの、もし行くとこがないんだったら···家に来る?」
葵はやや上目遣いで恥ずかしげに聞いた、その言葉を聞いて公彦は信じられない気持ちだった。
「イインデスカ···!?」
部屋に帰って来ると葵は公彦を風呂場で洗ってあげる事にした。
「葵様、自分デ洗イマスヨ」
「葵ちゃんね、いいの、私が綺麗に洗ってあげるから」
葵は手にシャンプーを取ると指の腹で丹念に公彦の身体をさすってあげた。
「痛くない?」
「ハイ」
風呂上がりには葵は大きめのバスローブを用意しておいた。
「公彦が着られそうなのがこれくらいしか無かったの、我慢してね」
胴太短足カエルの公彦にはバスローブは前が開き気味で裾は引きずるほど余っていた。
「葵チャン、アリガトウゴザイマス」
「じゃあ、明日も早いし寝よっか」
「ア、ハイ」
葵は予備の布団を床に敷くと公彦を寝かせ、自分もベットに横になりリモコンで部屋のLEDを消灯した。
「おやすみ―――」
「ア、アノォ···葵チャン、モシ、モシナノデスガ···明日、モウ一日ダケ泊メテ頂ク事ッテ···」
「······」
「ア、モウ寝タノカ···」
「······」
しばらくして公彦が寝息を立てているのを聴くと葵は静かに起き上がった、そしてカーテンの隙間から零れる月明かりの下で公彦の顔を覗き込んだ。突き出た口に、丸みを帯びた情けないお腹は息をするたびに膨らんでいた。
「ずっとだよ、ずっとここに居ていいよ公彦」
葵は指でカエルの頬を撫でながら、なぜこんなにも公彦の事を愛おしく思ってしまうのか自分でも理由が分からなかった。そして目をつぶって顔を寄せると眠る公彦の唇にキスをした。
その瞬間、公彦は元の王子の姿に戻った。
「え·········」
葵は動揺で目を大きく見開いた。




