2.公彦王子は地上に落とされる
―――ここは天界
王子公彦は天界の女王である母上に呼び出されていた。
金髪のミディアムフェザーに紫の瞳を持ち色は白く長身で、顔の造形と曲線は得も言われぬ気品に満ちていた。
実の母が公平な目で見ても息子は···美しかった。
不敵で完璧な美男子はそこに立っていた。
「公彦、天界の男子は16になれば下界に降りて、人間の娘の中から将来娶る妃候補を探さなければなりません」
大仏のようなヘアースタイルの母上は言った。
「まぁ、それは以前から言っていましたね」
「中々の試練ですよ、覚悟は大丈夫ですか?」
「母上、私は見た目通り完璧な存在なのですよ、解決できない試練など存在しません!」
公彦はやれやれの表情で、手のひらを横に広げた。
「公彦···私は以前から思っていましたが、あなたは少しナルシストで自信過剰な所があります。
何でもかんでも上手くいかない現実を、あなたはこれから知る事になります」
「はぁ、一体どのような試練なのです?」
「人間界の娘から口づけを貰うのです」
「ふっ、母上、さすがにそれは俺の事をなめすぎでは? そんなの30秒で終わっちゃいますよ」
「ただし···カエルの姿で!」
「えっ?」
母上は玉座から立ち上がり杖を向けると、公彦は人型のカエルに変身した。そして杖を床にトンと突くと、公彦の足元に大きな穴が開いた。
「冗談でしょ、母上!!!?」
公彦はそのまま地上へと落下していった。
✶✶✶
「痛テテ···」
公彦は尻もちをついた状態から立ち上がった。
―――マジかよ···
辺りをキョロキョロと見回した、初めて来た人間界だった。見慣れない街並み、建物、人の服装、空の景色、好奇心と不安が胸にあふれ出した。
顔を手で触ってみるといつもの美しく完璧な造形はどこにもなく、触っている手もカエルだった。
「ハァ···」
いきなりこれは酷すぎるだろうと思いつつも落ち込んでもいられないので、とにかく女の子を見つけて試練をクリアするしかないと公彦は思った。
前から若いOLのお姉さんが歩いて来た。
「ア、オ姉サン」
手を前に振りながら近付いて行った。
お姉さんは進行方向をずらしながら、無表情で公彦を避けて通り抜けて行った。
「エ···?」
お姉さんの背中からは不快のオーラが漏れ出していた。
―――天界では女だけでなく男でも老人でも子供でも自分に微笑んだというのに···
公彦にとっては会話をするステージにすら立てないのは新鮮でショックな事だった。今までこんな経験は一度もなかった。
次は反対側からギャルの集団がやって来た。
公彦はもう一度チャレンジをした。
「きゃはっ! カエルじゃん、マジウケる!!」
「写真撮ってよ、カエル!!」
「ダンス踊ってよ、カエルぅ!!」
公彦は言われた通りにした。ギャル達も喜んでまぁまぁウケは良かった。
(コレハノリデ行ケルカモシレナイ!)
「ジャア最後ニ僕二キスヲシテヨ」
「えぇー!」
「ソッチノ頼ミモ聞イテアゲタジャナイ」
「うん分かった、別にいいよー!」
(ヨシッ!)
公彦はほっぺにキスをされた···が、何も起こらなかった。
「うははっ、キモっ!!!」
ギャルは爆笑しながらカエルの頭をペチンっと叩くと皆で走り去っていった。
「エ、何モ起コラナイデスガ···母上?」
公彦が呼びかけると太陽に母上の顔が浮かび上がった。
「―――そんなのは当たり前です公彦、その姿の貴方を心から好きになってくれる娘の口づけでなければ無効ですよ」
「ソ、ソンナノ無理デスヨ!!」
「―――無理でもやり通して貰わなければ困りますよ、それが試練なのですから」
そう言い残すと母上の顔は消えた。
「エ、エ、チョット、母上···!」
日が暮れてくるといよいよ、変態扱いが始まった。
前からスマホを見ながら歩く帰宅途中のOLが来た。
「ア、アノー、オ姉サン」
スマホから目を離して公彦の顔を見た途端、OLは喫驚した。
「え? きゃー、変態!!」
「イ、イヤ、変態ジャナイデスヨ!」
「け、警察!!」
公彦は全力疾走で逃げ出した。
やがて公園にたどり着いた。人目につかぬように遊具に隠れようとしたが、そこには子供達がいた。
「うわっ、こいつカエルだせ!」
「おりゃー!」
子供達は公彦に石を投げつけた。
「ヤ、ヤメテヨ···!」
「はははっ、おもしれー!」
公彦は公園からも逃げ出した。




