12.公彦は煌学園に潜入する
公彦はどうにかして学園にたどり着いていた。
(まぁまぁ立派な学園だな、天界の宮殿ほどではないが)
正門には守衛さんが複数名常駐していた。
「あ、おはようございます――!」
公彦は満面の笑顔で挨拶をした。
「おはようございます」
「あのぉ、中に入りたいんですけど」
「ではタッチキーに生徒IDをおかざし下さい」
「え? セイトアイディー···?」
「はい、生徒証兼入場IDです」
「あぁ···今日ちょっと忘れてしまって」
「そうでしたか、それでは氏名と誕生日、生徒番号を照会させて頂きましょう」
「あ、えーと···ちょっと忘れ物したので一旦家に帰りますね」
「はぁ···」
「あはははは···」
公彦は不審の目を守衛さんから向けられながらも、下手な愛想笑いをしながら道を引き返していった。
―――これは作戦の練り直しが必要だな···
そして学園の周囲を二時間以上探し回った結果、かろうじて乗り越えられそうな場所を発見した。
「ここが一番フェンスが低いようだな」
公彦は辺りを警戒しながらフェンスを一気に登ると学園の敷地内へとダイブした。
「おいおいおい、何だあんた!?」
(クソっ、着地側に人がいたか···!)
公彦が着地したのは広いテニスコートの隅っこで、そこにはちょうど青年が二人居合わせたようだ。
ツイストの掛かったスパイキーショートの赤髪に赤い瞳、濃い肌色と大きな目、厚めの鼻と唇、高めの身長に肉付きの良い体は少しヤンチャそうだが親しみやすい印象の好美青年だった。
好美青年は目の前に降り立った公彦を見て驚いた表情を見せた。
「私は決して怪しい者ではないぞ!」
「あんた絶対ここの生徒じゃないだろ、一体何者?」
「わ、私はここの生徒で名は公彦だ···!!」
公彦はバレバレの嘘で取り繕った。
「ふーん、それで年は?」
「十六だ」
「じゃあ俺達とタメって事かぁ」
「あぁそうだな、よろしくな!」
「俺の名前は平将兼、実を言うとあんたの事を待ってたんだよ」
「ど、どういう事だ···!?」
「こいつがあんたの予知夢を見たって言うんでさぁ、何か今日一日あんたの手伝いをするといいらしいんだ」
将兼にそう言われたもう一方の青年は公彦の方を見て会釈をした。
「橘仙千代だ···」
無造作なロングウルフの緑髪に緑の瞳、青白い肌に長いまつ毛と眠そうなタレ目、薄い唇と角ばった喉、長い手足のとても高い身長は少し姿勢は悪いが儚く繊細な印象の美青年だった。
「予知夢だとぉ?」
「仙千代は霊感がとても強いんだ、こいつの言う通りにすると上手くいく事が多いんだよ」
「そういう事だ、公彦···
今日一日よろしく頼む···」
「ま、まぁ手伝って貰えるのなら、確かにありがたいがな···!」
「それで···公彦は一体、何をしに学園に来たんだ?」
「この学園に望月葵ちゃんという生徒がいるはずなんだが、いつも一人ぼっちでプロムに行く友達もいないそうなんだ、それを私は何とかしたいのだが」
「なるほどねぇ、じゃあまずその葵ちゃんて娘を探すところからだな」
✶✶✶
扉と柱には金縁の装飾、壁には絵画が掛けられ、天井にはシャンデリアが三つ、長い卓にはプリーツとフリルが重なった白いテーブルクロスが大理石の床にまで垂れていた。
葵は聖麟会の役員室で照華と威と一緒に紅茶とケーキをご馳走になっていた。
―――気まずっ···!
威は紅茶を上品に飲み終えると席から立ち上がった。
「では照華様、今日はこれで下校させて頂きます」
「分かったわ、威、ご苦労様」
「はい、では失礼します」
威は仮面のような笑顔の一礼を葵にも向けると部屋から退出していった。
「それにしてもすごい部屋だね、照華さん」
「照華でいいわ」
「え···でも威君は照華様って」
「あれは家の関係でそう呼んでるだけ、あなたは気にしなくていいのよ」
「わ、わかったよ···」
「それで――、青があなたにご執心みたいだけど、一体どんな手を使ったのかしら?」
照華は意地の悪そうな笑みを浮かべて葵にそう聞いた。
「どんな手を使ったって···別に何もないよ、青君が親切でやってくれただけで」
「じゃあ向こうが一方的に好きって事?」
「いや、だからそういう事じゃなくて」
「青は本気かもしれないじゃない」
「······」
葵は黙り込んだ。




