11.葵は斎台院照華に出会う
葵がいつも通りカフェテラスに入っていくと青様担会の令嬢達がすでに腕を組んで待ち構えていた。
―――うわ···!!
「あなた··! 昨日は青様からドレスを買ってもらっていたわね?」
「―――庶民のくせに一体どうゆう了見なんでしょう!」
「―――そのドレスはあなたが着るべきではないわ!」
「―――やはり庶民の卑しさは隠せませんわね!」
「このドレスは青く···源さんにキチンとお返しします、返せなかった場合でも絶対に着ませんからどうかお許しください」
葵はこの事態をできるだけ早く幕引きする為に平謝りを続けた。だが中々令嬢達の怒りは収まらず目を三角にしたままカフェテラスに居座り続けていた。
「もうお止めなさい」
その一声を聞くと令嬢達の顔色は青ざめていった。
「―――しょ、照華様······」
葵が声の方を向くとそこには一人の美女とその傍らには眼鏡を掛けた美男子が立っていた。
「大勢で一人を怒鳴りつけるなんて、はしたないとは思わないの?」
栗色のロングレイヤーに夕焼け色の瞳、出されたおデコは丸みを帯び、やや濃い肌色にしっかりとした眉と目鼻、顔は面長だが小さく、身長は高めで細い手足と体はカッコイイ印象だった。
真顔美人の斎台院照華は令嬢達の方を物憂げに見ていた。
「―――どど、どうかお許しください」
「―――お見逃しください、しょ、照華様」
「―――親に叱られてしまいますわ···」
「威、この者達の査定を減点なさい」
「かしこまりました、照華様」
ショートマッシュの黒髪に黒い瞳、端正な顔の輪郭と眼差しは切れるように鋭かった。細い長身の藤威は眼鏡を中指でクイッと上げるとタブレットで生徒査定の入力を速やかに済ませた。
「これに懲りたら二度とこんな真似はしない事ね」
照華にそう注意されると青様担会の令嬢達はそそくさと退散していった。
「いや災難だったね、望月葵さん」
威が葵に話しかけた。
「え、私の事を知ってるんですか?」
「全生徒のデータを暗記しているからね、そういうのは得意なんだ、それに敬語じゃなくても大丈夫だよ、俺は君と同じ一年だからね」
威は張り付いたような笑顔でまた眼鏡を中指でクイッと上げた。
―――何か敵に回したらヤバそうな人だな···
「一様、何が原因で揉めていたのかを聞いてもいいかしら?」
照華が葵の元へと寄ってきてそう尋ねた。
「はい···昨日、源青君とプロム用のドレスを買いに行ったんですが、私がお金がないのを気にかけて青君がドレスを買ってくれたんです、それがちょっと気に入らなかったみたいで···」
「へぇ、青がね――」
照華は威の方を少し見た。
「分かったわ、また何かあったら私に言ってちょうだい、あと私も一年だから敬語は使わなくても大丈夫よ」
「え···あ、うん」
葵は気後れしながらそう答えた。
✶✶✶
公彦は葵の部屋で一人留守番をしていた。念の為に合鍵は渡されていたが、カエルの状態ではどこにも出かける事はできなかった。
―――葵チャン、明ラカニ人ノ姿ノ僕ヲ避ケテルヨナ···
公彦は葵のベッドに寝転がって天井を仰いだ。
(何トカシテ本来ノ姿ヲ受ケ入レテ貰ワナイト)
そんな事を考えながら何気なしにチラッとテーブルを見ると、葵の飲み残したペットボトルが置いてあった。
公彦は天井とペットボトルを交互にチラチラと見交わしているとある事が頭の中にひらめき、突如ベッドから立ち上がった。
そして、いやらしく目を細めると恐る恐る葵のペットボトルに手を伸ばした。キャップをゆっくりと回し飲み口を出すと、唇をチューの形に尖らせて間接キスをした。
すると公彦は人の姿に戻った。
「ぬぉおおおおおおお――!!!?」
(私はやはり天才だったのだな!!)
「葵ちゃん待っていてくれ、私が君の願いを叶えてみせるから」
公彦は葵のPCを起動して煌学園を検索すると、その場所を紙に書いてポケットに入れ、部屋のLEDを消すと玄関へと急いだ。
そして外に出て貰った合鍵でドアを施錠すると目的地へと走り出した。




