10.公彦は天界の奇跡を使う
(クソぉ、こうなったらもうアレを使うしかないようだな)
「公彦、これ以上は俺も本気を出させてもらう、悪く思うなよ」
「それはこちらのセリフだ」
「行くぞ、おらぁ!!!」
青が飛びかかった瞬間、公彦は手を前に差し出して白い光を放った。
「天界の奇跡!!!
源青よ、お前は今日一日の記憶を失え!」
光に包まれると青はその場に気絶して倒れ込んだ。
―――ははは、これが私の本当の実力だ!
それを見て公彦は足早に百貨店のフロアから立ち去った。
✶✶✶
葵は長かった今日一日の出来事を頭の中で振り返っていた。結局、青に何も言わずに帰ってしまったのを今更思い出しメッセージを送ろうか迷ったが、青様担会の事が脳裏によぎると軽率な行為はためらわれた。
それ以上に人の姿の公彦とのキスを青に見られてしまった事はさらに大きな問題だった。
―――どうしよう···
別に葵は青に対して恋愛感情はなかったが、あの騒動の中で青の見知らぬと男と二人きりで試着室の中にいたという状況の説明を、どのようにすればよいのか良い言い訳が全く浮かばないのだった。
―――青様担会の事もあるしこのまま青君の前からは黙ってフェードアウトしよう
だがこの時の葵の心に本当につっかえていたのは、また公彦から逃げてしまったという事だった。
―――だって公彦の顔を見てると緊張するんだもん
そう思いつつも葵は本当の気持ちでは、公彦の事を今も待っているのだった。
夜の7時半を過ぎた頃インターホンが鳴った。カメラ画面を覗くと、そこにはカエル姿の公彦がいた。葵は思わず顔をほころばせた。
(何でカエルに戻ってるの―――)
葵は急いで鍵を開けてあげると公彦は部屋の中に入ってきた。
「葵チャン···アリガトウ、中ニ入レテクレテ」
(天界の奇跡を使うとカエルに戻ってしまうなんて、聞いてないよ母上···)
「公彦、ご飯食べた?」
「マダダケド···食ベサセテクレルノ?」
「うん、いいよ」
葵は冷蔵庫にある野菜を沢山と卵を落とした煮込みラーメンを作って公彦と一緒に食べる事にした。
「ウワァアアア、コレ何テ食べ物!?」
「ラーメンだよ、この時間からスーパー行くの面倒だからこれで我慢してね」
「美味シソォー」
お椀にラーメンを取り分けてあげると公彦は目を輝かせた。
「はい、どうぞ」
葵は公彦にどうしてカエルに戻っているのか聞きたかったが、もしそれを聞けば公彦がまた人の姿に戻ってしまうような気がして、迷ってしまっている自分がいた。
「イタダキマース」
「公彦、服をいっぱい持ってるけどそれは一体何?」
「ン? コレハネ、今僕ハモデルノ仕事ヲシテイルンダヨ!」
「ぷっ、公彦が?」
「ソ、ソウダヨ···!」
「ふーん」
葵がそこから話を掘り下げられずに沈黙すると公彦も同じように黙り込んでしまった。二人の間には気まずい空気が流れていた。
葵はやっぱりあの質問をする事にした。
「······どうしてカエルに戻ったの···?」
公彦は葵の表情をうかがうようにチラリと見た。
「ウーン···色々話セバ長インダケド···」
「うんうん」
「···ドウモ調子ニ乗ッタリ、天界ノ奇跡ヲ使ウト戻ッテシマウミタイナンダ」
「テンカイのキセキ···って何?」
「コレハ人ニハ言ッチャ、ダメダヨ」
「うんうん」
「一日ニ一度ダケ大抵ノ願イ事ヲ叶エラレルンダ」
「ぷっ、何それ!
それならカエルから戻ればいいじゃん!」
「ソレハ無理ナンダヨ···」
「食べ物とかは? 出せばよかったじゃん」
「コノ姿ノ時ニハ使エナインダヨ」
「ふーん、そうなんだ」
「葵チャンハ何カ願イ事ハアル?」
「うーん」
「ウンウン」
「学園のプロム大会で一緒に行ってくれる友達が欲しいかな···」
「エ、プ···プロム? 何ソレ···?」
「学園のパーティだよ」
「アァー」
(そういえば葵ちゃんは学園でいつも一人でいるって青が言っていたな)
「ジャア···僕ガ一緒ニ行ッテアゲルヨ···!」
公彦は胸を張ってそう言った。
「どうやって?」
「天界ノ奇跡ヲ使エバ、僕モ学園ノ生徒ニナレルヨ!」
「う、うーん···それはちょっと保留かも」
「エッ······」
「じゃあ今日はもうそろそろ寝よっか」
「ウ、ウン···」
公彦は不服そうにそう答えた。




