1.望月葵はセレブ学園に入学する
開放的なガラスの壁は光が射し込んで虹色に輝いていた。色鮮やかな造園は何時でも手入れが行き届き、室温も匂いも静けさも完璧だった。
望月葵は今日もカフェテラスで自習をしていた。
葵の元に招待状が届いたのは、中学卒業後の春休みだった。その時にはもう進路も何もかも決まっていたのに、全てキャンセルして煌学園に入学したのは担任と校長が直々に家まで来て懇願されたからだった。
「煌学園への進学実績があれば我が校も安泰なんだ、望月さん頼みます! 諸々の手続は全部こちらでやっておくから―――」
煌学園とは政財界の権力者・芸能文化界の有力者子弟が通うこの国一番のセレブ学校で、この学園に通い経歴とコネクションを積み上げればバラ色の将来が約束されるという。
多様性を名目に庶民の中からも成績優良な者を一部入学させていて、葵は今回幸運にも選ばれた。
―――そもそも招待状って···
普通は入学許可証とか合格通知書とかじゃないの?と思ったが、入学してみてその理由がはっきりと分かった。まず入学初日にハイヤーでお迎えがあった、通学は基本送迎付きでしかも無料だ。
希望者には住宅補助も支給される、学園内での食事も無料だ。だからこのような素晴らしいカフェテラスを独り占めして勉強に励む事ができる。
驚くべき所は無料の物を利用するのが葵しかいない事だ。
制服は一様支給されるが基本服装は自由だ。葵は制服を着ているが他の生徒は皆高級スーツやドレスやブランドの服を着て、毎日社交パーティや何らかの遊びに興じている。何故ならこの学園には授業がないからだ。
彼ら彼女らは家庭教師や独自の高度な教育をそれぞれ家で受けている、非合理なカリキュラムで学習をする必要がないだけだ。だから学園で遊んでるように見えてもトップクラスの学力と教養を身に付けている。
葵は思いっきり伸びをして、時計を見た。
もうすぐ午後5時になろうとしていた。
身寄りの無い葵にとってお金が掛からないのは嬉しい環境だった、だが正直住む世界が違いすぎて彼ら彼女らの輪の中に入って行く事は不可能だと思っていた。
だから入学以来誰一人とも喋っていない。
来るメッセージと言えば聖麟会からの学園生活における心得や案内くらいなものだ。聖麟会とは学園生徒の監督・風紀の監視などを行う組織で、一般の学校で言うところの生徒自治会になるのだろうか?
権力は絶大でもし刃向かえば並のセレブではお家の存続が危ぶまれてしまう事になる、役員メンバーはこの国の旧五大貴族それぞれの家が誇る4人の令息と1人の令嬢だった。
生徒名簿を見れば家柄とステータスが表示される。
源青
財力A 知力C 武力S 霊感B オーラS
軍人や武道家などを多く輩出している武門の名家
源家の四男
平将兼
財力S 知力B 武力A 霊感C オーラS
商船を中心とした世界的財閥企業の経営一族
平家の長男
藤威
財力A 知力S 武力B 霊感C オーラS
政治家・官僚・医師などに大勢力を持つ頭脳派一族
藤家の次男
橘仙千代
財力B 知力A 武力C 霊感S オーラS
古来から続く占い師一族の名門
橘家の三男
斎台院照華
財力S 知力A 武力E 霊感S オーラS
旧貴族筆頭、歴代当主は全員女性で大巫女の一族
斎台院家の長女
―――オーラって何だよ!
自分には全く縁のない世界だと思いつつ、葵は自習を切り上げると帰り支度を始めた。
帰りのハイヤーに乗るとペットショップの名前を告げた。ペットショップと言っても犬や猫ではなく、両生類の専門店だ。
入店するとカエルのコーナーに向った。
アマガエルの背中はツヤツヤの緑色をしていた。葵は両生類に抵抗がなく周りの女子には理解されずらかったが、小さめのアマカエルが好きだった。
だがペットとして飼う余裕はまだないので、こうしてショップで眺める事を習慣にしていた。
散々愛でるとショップを出て、最後にコンビニに寄ってアイスを買った。
その時顔見知りのパートの主婦店員さんからある注意喚起を受けた。
「ちょっと若い女の子のお客さん全員に言ってるんだけどね、何か最近この辺にカエルのマスクを被った変態が出るらしいわよ。あなたも気を付けて、日が暮れてからはあんまり外に出ないほうがいいわ」
「え、そうなんですか? 変態なんて許せないですね! 分かりました気をつけます、ありがとう」
葵は帰宅した。




