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第5話「タバコミュニケーション」

スゥーフゥー

たばこをあるじぃ。

口にタバコを咥え、ビールを飲む。

そして、再びたばこを吸う。

スゥーフゥー.....クゥ〜〜!!!!

公園のベンチに座りスポットライトの如く街頭に照らされている。


「...お久しぶり。塾帰り?」

「おうよ。ひとり打ち上げしてた。」

「高校、やめたのかと思ってた。」

「やめねぇよ。俺は大学行くんだ。」

「...そうなんだ。」

「まぁ座れよ、そこに立ってると煙たいだろ?」

「夜風に色がついてるだけ。」

「あっそ、それで?なんで急に吸いたくなったんだ?」

「お母さんが吸ってるから。」

「....そっか。銘柄に希望は?」

「...めいがら?」

「タバコの種類だよ!...特にないか。...試しに俺の吸ってみるか?」


あるじぃは胸ポケットからタバコを取り出し、私に渡す。


「いいか、火をつけたらスゥーって吸うんだ。肺に入れる感じな。」

「インフルエンザの薬みたい。」

「あはは、まぁ似たようなもんだ。メンタルの特効薬だ。」


そっとライターで火を付け、タバコの先端が赤く光る。

すっと息を吸い、吐き出す。


「おいおい吹かしかよ。」

「ふかし?」

「肺に入れずに煙を出すことだよ。」

「喉仏の奥から吸う感じ、ほらインフルの薬みたいに。」

「わかった。」


スゥー..グッガッ..ゴホゴホ


もう一度強く吸うと、勢い余って咳き込んでしまった。


「まぁ慣れだけどタールが多すぎたかな。」

「大丈夫、慣れる。」

「箱ごと渡すわけにはいけねぇよ。」

「買い方を教えて。」

「...お前金持ってんのか?」

「うん。」


私は裸の5000円札をポケットから出した。


「お前、それパクってきたやつじゃねぇよな?」

「違うよ、誕生日プレゼント。」

「.....そっか。」

「早く行こ、お母さん帰ってきちゃうから。」

「...わかった。」


あるじぃは近くのゴミ箱にビールの空き缶を捨て、

チャリを押して近くのたばこ屋さんへ向かう。


「好きな色はある?」

「透明」

「サイコパス診断じゃないんだよ!!」

「ガラス細工好きだから。」

「でも透明なたばこねぇよ。..白でもいいか?」

「うん。」


あるじぃはこそっと買いに行き、戻ってくる。

あるじぃは私にウィンストンキャスターホワイトのタール1と書かれたタバコを渡してくれた。

「吸ってる感じは全くしないけど、(なり)だけならこれがちょうどいいと思う。」

「ありがとう。」

「あとちょっとバニラの香りがするから...好きだと思う。」

「吸ってみたい。」

「親帰ってくるんじゃねぇの?」

「まだ大丈夫」

「じゃそこの公園で一服するか。」


公園に向かい、ブランコに座る。

あるじぃは私の咥えたタバコに火をつけてくれた。


「ガラス細工...好きだったっけ?」

「うん。お母さんがくれたやつ。」

「え?いつ。」


私は少し昔のことを思い出した。

私が起きた翌朝の話、どたばたと支度する母親が私の部屋に入ってきた。

「あなた!これ可愛くない?」

「...か、かわいい。」

「これもらったの!2個あるから半分こしましょ!」

それは知らない男から貰ったお土産のようだった。

得意げに見せてくる母親に悲しくなった。

どうせならお母さんが私のために買ってくれたものがよかった。

そんな贅沢は言えないけれど。

....そんな記憶はふっとタバコの煙と共に消えた。


「えっと....覚えてない。」

「覚えてないのかよ。」


だんだんタバコの先端は白く燻んだ灰色となり、

風に促されて音もなく落ちていった。

やがてそれは小さくなっていった。

もう一度私は強く吸った。

スゥー...ゴホゴホ


「まだ訓練が必要みたいんだな。」

「ねぇ、()()まだやってるの?」

「はは、覚えてたのか。もう消したよ。」

「まだやってるのかと思ってた。」

「俺をなんだと思ってんだよ!!」

「ふふ、ごめん。停学中は何してたの?」

「本読んでた」

「え〜、らしくない。」

「スマホ没収されてデジタルデトックスだったんだよ!!」

「なんの本読んだの?」

「『アルジャーノンに花束を』ってやつ、知ってる?」

「聞いたことはある。」

「まぁ良い暇つぶしにはなったよ。」


会話が終わり絶妙な間が続く。

お互い吐いた白い煙を眺めた。


「そういえば『あるじぃ』ってなに?」

「授業用のタブレットで親がいない隙を見てスペースしててさ。」

「全然デジタルデトックスしてないじゃん笑」

「内緒ね」

「まぁそのアカウント名を『アルジャーノンに花束を』にしてたらそうなった。」

「なんで小説の名前にしたの?笑」

「ちょうど10文字だから?」

「意味わかんない笑」

「名前呼びにくいだの、おじいちゃんみたいだのなんだので『あるじぃ』になった。」

「おじいちゃんは悪口じゃない?笑」

「お酒とタバコの話したからかな。」

「知り合った人たちはいくつぐらいなの?」

「同い年ぐらいの人もいるけど中学生もいたかな。」

「話し合うの?それ」

「意外と合うよ....あ、そういえば君と話し合いそうな子いるから今度紹介していい?」

「誰?」

「あい...って言ってもしらねぇだろ。」

「星鈴奈ちゃんかと思った。」

「もうその話はいいんだよ!!」


私はあるじぃの見よう見真似で、

地面に小さくなったタバコを落とし、強く踏みつけ火の粉を消した。


「..よし、じゃまたな。」

「うん、今日は教えてくれてありがとう。深z....あるじぃ。」

「おうよ、じゃあな。”アミノ”。」

「名前呼びしないで。」

「名前呼びじゃねぇよ。」

「そ。またね。」

「おう...あ、そうだ。」


あるじぃはポケットからライターを出す。


「うちにいっぱいあるから1個やるよ。」

「ありがとう。今度その”あいちゃん”紹介して。」

「伝えとくよ、Twitterとかやってんの?」

「見る用ならあるよ」

「配信とかしないの?」

「興味ない...うちできないし」

「声可愛いのにもったいない」

「え?」

「なんでもない、あいの連絡先送っとくわ。」

「あ、ありがとう。」


そう言って私はあるじぃと分かれ、急いで家に帰る。

鍵を開け、そっと部屋に入る。

部屋は暗く靴を脱ぎ玄関へ上がる音が響き渡るほどには静かだ。

ドアを開けるとわずかな声でテレビの笑い声が聞こえる。

リビングに母親1人、崩れた正座で頬杖を突きながらジャスミンティを飲んでいた。

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